第6回トロント日本映画祭 オダギリジョーさん インタビュー
今年のトロント日本映画祭にゲストとして登場した唯一の俳優、オダギリジョーさん。デビュー以来、かっこいいクールな役柄からエキセントリックで個性的な役柄まで、幅広いキャラクターを映画やドラマの中で演じ続けてきたオダギリさんは、芝居を芝居と感じさせないほどのそのリアルな表現でこれまで世界中の多くのファンたちを魅了している。
6月13日、14日の2日間にわたり『湯を沸かすほどの熱い愛』、『オーバー・フェンス』の上映前挨拶に登壇したオダギリジョーさんは割れんばかりの拍手で会場に迎えられ、トロント日本映画祭に招待されたことをとても光栄に思うとした。『湯を沸かすほどの熱い愛』、『オーバー・フェンス』、『深夜食堂』は一昨年にオダギリさんが出演した全ての映画であり、それら3つともが今回トロント日本映画祭で上映されることが決まり、もしかしたら裏でお金が動いているのではないかと考えた、と冗談を交え観客の笑いを誘うシーンもあった。
上映後に設けられた来場者による質疑応答コーナーでは来場客による様々な質問がなされ、オダギリさんもその一つ一つに真摯に答えている様子が印象的だった。母子家庭だったこともあり、幼少期には映画館に預けられることがしばしばあったと語り、これまで映画と共に生活してきて映画に助けられてきたというオダギリさんならではの俳優業への強いこだわりや、海外で活躍する上での想いなど、普段はなかなか聞けないような話まで多く語られることとなった。ファンの中にはオダギリさんが以前出演した映画に対する質問を行う人もいて、トロントに住む多くの人々も日本のファンと同じようにオダギリさんに魅了されているということが肌で感じられた瞬間であった。
TORJA×オダギリジョーさん
スペシャルインタビュー
まずはトロントの印象をお聞かせください。
今回でここトロントを訪れるのは2回目なのですが、過去にアメリカに留学していたことがあって、その時に見ていたアメリカの地方都市といったような街並みが思い出され、どこか懐かしい気持ちになりました。
『湯を沸かすほどの熱い愛』では、不器用でどこか頼りないけれど、どうも憎めない父親・幸野一浩を演じられていたオダギリさんですが、役を演じるにあたって特に意識された点などはありましたか?
そうですね、『湯を沸かすほどの熱い愛』は決して軽いテーマではないので、共演した宮沢りえさん、杉咲花さん、伊東蒼さんの家族愛が引き立つように、一浩という存在が1つの活性剤になればいいと思っていました。簡単な言い方にはなってしまいますが、僕の登場するシーンで、ふと緊張感のようなものがほぐれると言いますか、緊張と緩和という言葉もあるように一浩のシーンでふと気持ちが和むような、大切なシーンへの橋渡しのような、そんな役を担えればいいと思っていました。
あとは、父親という立場をあまり考えず、家族の中で一番風紀を乱す人というふうに捉えていました。僕は自分が一歳くらいの頃に両親が離婚してしまってずっと母親に育てられてきたので、父親というものをそもそも感じたことがないのです。だから父親役を演じることになったとしても、あまり正当な父親というよりも、少しいびつな父親像しかおそらく演じることができないと思っています。
また一方で、『オーバー・フェンス』ではオダギリさんが演じられたどこか孤独感を抱えている白岩と、蒼井優さん演じるとてもまっすぐな女性、聡(さとし)の二人の生き方のコントラストが印象的でしたが、ご自身が演じられた役柄について何か感じることはありましたか?
白岩という人間は特別な人間ではなく、どこにでもいるような、例えば観客の皆さんの隣にも座っていそうな、そういう役だとは思っていました。もともとは原作者である佐藤泰志さんの経験をもとに描かれているお話で、実際に全てを函館で撮影したのですが、その町並みや少しもの悲しい景色もまた、芝居を助けてくれているように感じています。
俳優はあくまでもその瞬間をどう生きるかということだけなので、その場所や空間にどう関われるかというのも大切なポイントになるんです。セリフを届けるだけじゃなく、その場でその役が確かに息をしていて、観ている人にドキドキしてもらえるような、そんな生々しさが伝わってほしいなとは思っています。
役を演じる前にはどのような役づくりをされるのですか?
作品や役柄によって全く異なりますが、一番自分に合っているなと思うのはあまり台詞を覚えないことですね。これには理由が色々あるのですが、台詞を覚えてしまうとその台詞を言わなければいけない気がしてしまうんですよね。脚本の意図するところやシーンの流れや要点をしっかりと押さえていれば、中にはきっとその台詞を言わなくても伝わるものもあるだろうと思いますし、言葉遣いなども含めてそんなに重要ではないのではと感じています。
あとは、台詞を覚える段階で、俳優は何となく感情をつくってしまうことがあって、台詞を覚えると同時に自分一人で勝手にそのシーンと芝居を組み立ててしまうのです。現場に行ってそれを再現してしまおうとするのは、どこか面白みがないなと感じていて、現場で何が起きるかわからない状況で、生の感情と感覚で芝居をするというような表現の方が僕にとっては興味がありますね。
日本の映画のみならず様々な海外作品にも出演されていますが、何かきっかけのようなものはありましたか?
日本の現場を続けていくと、すごくやりやすい現場ではあるのですがやはり甘やかされる部分もあるのが正直なところでして、海外で仕事をすると、周りは僕のことを全く知らない人ばかりで、自分の芝居だけで判断してくれるじゃないですか。イメージも偏見も何もないところで仕事をするのは自分にとってもフェアでやりがいを感じますね。
これまでも様々な海外の映画祭に参加されてきたオダギリさんですが、日本の映画祭と海外の映画祭の違いをお聞かせください。
コメディ作品の上映の場合は特に面白いですね。日本人に向けて作られたコメディ映画であっても、意外と日本人と同じポイントで笑っていたり、やっぱりそこは分からないか…など、そういう笑い所の違いが見ていて面白いです。その土地の国民性によっても分かれますよね。今回の2作品に関しては〝人間〟を描いている作品なので、どこの国の方が観てもそう違わない感情になっていただける気がしています。
海外だからどうということはあまり気にせず、監督を始めスタッフやキャストが一生懸命作った作品なので、たくさんの人々に観ていただければ良いなという思いでいます。またこの会場の中には、きっと日本に興味があって映画を観に来てくださるお客さんも多いと思うので、映画を通してより日本を好きになってくれたら嬉しいです。
役者としてお仕事をされる中で、今までも幅広くいろんな役柄を演じてこられたと思います。昨年は40歳という節目も迎えられましたが、今後はどのようにこの俳優というお仕事を続けていきたいですか?
僕はすごく役者に対するこだわりが強くて、自分が納得出来るものじゃないとやりたくないという思いを持ってやってきました。歳を重ねるたびにそれがどんどんと強くなってきていて、これからも自分が心から面白いと思える作品にだけ参加しようと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願い致します。
僕はとにかく自分の信じることに突き進んでしまうタイプなのですが、そもそも自分のことを信じられなければ自分の意思を貫いていくことも難しいのではと思います。せっかくトロントで自分の道を探そうとされている方達だと思うので、何かをやろうとしてきた目的に対して、意思を曲げてしまうことなく、めちゃくちゃ難しいようなことでもどんどんトライしていくべきなのではないかと思いますね。たとえ失敗したとしても日本に帰ることもできますし(笑)、好きなことをここで思いっきりやるのがいいと思います。
湯を沸かすほどの熱い愛
監督:中村量太
出演:宮沢りえ、オダギリジョー、松坂桃李、杉咲花
あらすじ: 家族のために奔走する愛情深く強い母・双葉(宮沢りえ)は、突然の余命宣告を受けてしまう。彼女は残された時間を使って、1年前に突然家出した夫一浩(オダギリジョー)を家に連れ戻し休業中だった銭湯を再開させることや、気が優しすぎる娘を独り立ちさせることなど、生きているうちにやるべきことを実行していく。母の行動は家族の全ての秘密を取り払い、家族はより強い絆で結ばれていく。
HP : atsui-ai.com
オーバー・フェンス
監督:山下敦弘
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太
あらすじ: 妻に見限られて故郷・函館に戻った白岩(オダギリジョー)は、職業訓練校に通いながら失業保険で生計を立てていた。訓練校とアパートを往復するだけの淡々とした毎日。ある日、同じ訓練校に通う代島(松田翔太)にキャバクラへ連れて行かれ、そこで風変わりなホステスの聡(蒼井優)と出会い、どこか危うさを抱える彼女に白岩は強く心惹かれていくのだった。
HP : overfence-movie.jp
オダギリジョー プロフィール
1976年2月16日生まれ。岡山県出身。カンヌ国際映画祭に正式出展された『アカルイミライ』(03年・黒澤清監督)で映画初主演。同年に公開された『あずみ』(北村龍平監督)では日本アカデミー賞新人俳優賞、エランドール賞新人賞を受賞。『東京タワー〜オカンとボクと、時々、オトン〜』(07年・松岡錠司監督)、では日本アカデミー賞主演男優賞を受賞。公開作品に『エルネスト』(阪本順治監督)、『南瓜とマヨネーズ』(冨永昌敬監督)。
HP : dongyu.co.jp/profile/JoeOdagiri/