第18回 ボストンのラーメン事情「ラーメンは世界を変える?」|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中
先日、出張でボストンを訪れました。ボストンと言えば、レッドソックスやクラムチャウダーが有名で、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学、バークレー音楽大学などアメリカの名だたる教育機関が密集する都市でもありますが、出張の目的はもちろんラーメン屋です。今回は、かねてより行ってみたかった二つのラーメン屋さんのお話です。
一つ目は、「Tsurumen Davis」という大阪発のラーメン屋さん。営業方針が特徴的で、店主の大西さんは1000日営業したら閉店すると決めているそうです。メニューも200日毎にブラッシュアップするというストイックな方針で、以前、「情熱大陸」で取り上げられていたのを見て以来、ずっと行きたかったお店でした。製麺から何から、ほぼ自分一人で仕込みをこなし、干し松茸を使って丁寧に火入れした香り立つ鶏ガラスープや、チャーシュー、麺に至るまで、まったく妥協のない仕事に対する姿勢が、一杯のラーメンに表れていました。また、奇抜な営業スタイルに目が行きがちになってしまいますが、トライ&エラーを繰り返したであろう持続可能な経営体制や、時代を読みとる感性があってこそ辿り着いた、独自のスタイルではと唸らされました。営業前の飲食店仲間の集まりにも参加させてもらい、一緒にヨガをしたり、日本食レストラン経営の悩みをみんなで話し合ったり、ボストンでも居心地の良い日本人コミュニティが形成されていて、心身ともに有意義な時間を、彼らとともに過ごすことが出来ました。
今回の出張のもう一つの目的は「夢を語れ」という、こちらも一風変わったラーメン屋さんです。雷神でも10月のマンスリーラーメンとして提供していましたが、いわゆる二郎系と呼ばれるアブラ増し増し野菜爆盛りのラーメンで、都内のラーメン二郎で修行した創業者の西岡さんが、地元の京都で「ラーメン荘 夢を語れ」をオープンしたのが始まりです。その後、ラーメン荘グループは「歴史を刻め」「地球規模で考えろ」「おもしろい方へ」など、ユニークな店名で二郎インスパイア系のラーメン屋を展開。
一方、「夢を語れ」はラーメン荘グループとは別の路線で、夢を語る場としてのラーメン屋、という立ち位置で全国展開、世界展開を見据えているそうです。店内に自分の夢を書いて掲示できる、自分の夢をスタッフやお客さんの前で語るとラーメンを無料で食べられる、食後にお客さんやスタッフの前で夢を語ることが出来るなど、売り上げや利益は気にせず、語られた夢の数を指標としているとのことでしたが、赤字になったことは一度もないそうです。僕もお店の方針に乗っかって、「ラーメンで世界を平和にしたい」と食後に夢を語ってきましたが、「世界中に夢を語れる場所を作る」という夢を持った西岡さんも、ボストンの日系の祭りのフード部門を取りまとめたり、「Tsurumen Davis」の大西さんや日本人飲食店オーナーさんたちとヨガや勉強会に参加するかたわら、ハーバード大学で講演なんかもしているそうで、皆さんとラーメン談議で盛り上がりました。
どちらのお店も、売り上げや利益をビジネスの良し悪しの指標としないという点で、現代のお金中心の価値観や経済システムに一石を投じ得るスタイルであると同時に、幸福という価値観を改めて見つめなおし、再定義していく試みではないかと感じられました。それを海外で、しかもラーメンを通してされていることに、悔しさと尊敬の入り混じった気持ちが湧き、結果、明日からまたがんばろうと、元気をもらうことが出来ました。ボストンに行く機会がありましたら、ぜひ足を運んでみてください。
「雷神」共同経営者 兼 店長 吉田洋史
ラーメントークはもちろん、自分の興味や、趣味の音楽、経営の事や子育てのことなど、思うままにいろんな話題に触れていきます。とは言え、やはりこちらもラーメン屋。熱がこもってしまったらすいません。