飲食業界はIT技術によってどう変わっていくか|トロントの居酒屋風雲児【第35回】
今月サマータイムが終わると一気に冬モードになるトロントですが、 噂ではなかなか寒そうな冬になりそうです。ほどほどにお願いしたいところです。
私たち飲食店は極端に寒かったり大雪が降ってしまうと、やはりお客様の客足が減ることが予想されますし、いくら予約が入っていてもキャンセルになるケースが多いので、ほどほどの寒さの冬が嬉しいです。客足の予測は通念を通して難しいですが、冬は特に天気や気温によって極端に変わります。予測が外れれば無駄な仕入れやロスなどが増えてしまうので、客足の予測は飲食店においてはとても重要です。今までは長年の経験や勘で予測をしていたお店がほとんどだったと思いますが、今の時代は変わって来ているようです。
以前、ラーメン屋さんの食券機の横に置いてあるロボットが顔認識をして常連さんを覚えたり、男女、年齢、オーダーなどのデータを集めメニュー開発などに活用しているお店があると話しましたが、テクノロジーがどんどん進化している今、IT技術を導入する飲食店がどんどん多くなってきているようです。飲食店の長年の課題である客足の予測もこのIT技術によって改善される日が近いと言われ、実際に『来客予想システム』を導入して話題となった店が三重県にあります。
創業100年を超える店ながら、これまでも鮮魚を新鮮なまま保存する方法の開発やIoTを活用した決算、オーダーシステムの開発など多くの新技術に挑戦して来たことでも知られている店が来店予想システムを導入し、的中率90%という数字を出しているということで注目を集めています。技術の仕組みは実に400項目近いデータを分析して予想を行い、過去の売り上げ、曜日や気象などの一般的な情報はもちろんのこと、近隣の宿泊者数のデータなど自店以外の情報も参考にしているそうです。店頭に画像分析AIを設置して、そこから通行量や入店率、男女比率なども把握するといった徹底的な取り組みで90%という高い的中率をあげているようです。このシステムのお陰で、料理提供時間の大幅な短縮、無駄な仕入れの回避、ロスの削減など、様々な点でメリットが見られたといいます。
今まで多くの飲食店では長年の経験や勘で客足を予測していましたが、感覚ではなく、データで科学的に考えることが効率的な業務に繋がっているようです。またITを活用して業務を効率化するだけでなく、お客様や従業員の満足度にも大きな影響があったとのこと。システムの導入により従業員の精神的な余裕ができたお陰でサービスの質も上がったそうです。IT技術に任せることは任せ、人にしかできないサービスに集中できた結果なのかもしれません。日本ではこのお店がマイクロソフト社と一緒にサービス化する動きがあるようなので、私たちの店でこのシステムを使用できる日も近いかもしれません。
うちの店で働く元IT関係のアルバイトスタッフから、日々行う食材の在庫管理の作業を音声認識アプリで行うようにしたい、と先日提案を受けました。昭和生まれの私にはそんなの無理だろと思ってしまいましたが、こういった提案から、もしかしたら大きな発見があるのかもしれません。
私自身まだまだITに疎いですが、IT技術を取り入れることでいい影響をもたらす可能性は十分にあるように思います。今後はIT技術を活用して他店との差別化をどう図っていくかがキーになるかもしれません。これからの飲食業界はIT技術によってどう変わっていくのでしょうか?
小笠原 克 Ogasawara Masaru
日本ではファッションブランドGapでアルバイトからマネージャーまで7年間勤務、新規店の立ち上げや日本売り上げNo.1店舗での管理職を経験し、2005年にワーキングホリデーでバンクーバーに渡加。ファッション業界からの転身となるが、調理師免許保持や両親の飲食関係の仕事の影響などもあり、大人気居酒屋Guuでワークビザを取得し男前店で副店長を務める。その後2009年トロントでのFC立ち上げ総責任者に任命されトロントへ。寒い冬でも毎日行列のできる大繁盛店となり、トロントの日本食パイオニアとなる。2014年にはKinkaFamily Inc.の副社長に就任し、居酒屋の他、ラーメン、寿司、焼き鳥などのブランドを管理、2015年10月末GuuとのFC契約終了とともに独立・起業。現在は世界で皆に愛される飲食店を開業できるようにと奮闘中。