心の健康Mental Healthは大丈夫ですか!?|白ふくろうの「カナダの社会・経済」ネタ探し【第28回】
なぜ多く見聞きすることが多くなったのかといえば、やはり心の健康を害する人が増え、いろいろなところに影響を与えていること、そして心の健康に対する対処、治療体制が十分でないということのようです。
1月22日にオンタリオ州Centre for Addiction and Mental Health(CAMH)という機関から最新報告書Monitor Surveyが発表されました。この調査では、継続的に心の健康Mental Healthを調査しており、今回の報告書で注目されたのは、2016年から2017年にかけて大きな変化が見られた点です。
▶自分の心の健康Mental Healthが変わらないもしくは良くないと自己報告した人の割合が、2016年7.1%に対し2017年10.1%と実に1.5倍に増加。
▶数ヶ月間に、頻繁に心の苦悩Mental Distressを感じると報告した人の割合が、2016年7.4%に対し2017年11.7%に上昇。特に女性に顕著。
▶自殺を考えたことがある人は2016年2.3%から4.1%とほぼ倍増、その推定人数は約43万人。
CAMH救急部門を訪れる患者の数は2012年から2017年の間に70%も増加しており、こうした実態を裏付けていると言えます。この調査を監修している専門家は、心の健康を害した結果起きる自殺について次のようにコメントしています。
「自殺を考える背景には個々に様々な状況があり、一概に増加要因を特定できるものではないが、自殺を考える人は深い苦悩に苛んでおり手助けや治療を必要としています。ただ、自殺を考えた人のほとんどは実際に自殺をしていません。苦悩から抜け出せる希望があるのです。」
カナダの自殺者数は年々増加(2000年3,606人、2012年3,926人、2013年4,054人)していますが、カナダ全土で0.01%強と実際の自殺者は非常に少ないとも言えます。
では、どんな人たちが心の健康を害しているのでしょうか。
これまでの調査を通じて問題になるのが今ミレニアム世代と呼ばれる18歳から29歳の若い世代。この世代は、他の世代と比べると、お酒、大麻、電子タバコでの問題が多く報告され、自殺願望、心の苦悩を繰り返す日々、精神的に追いつめられる状況という報告が特出して多いのだそうです。そして、こうした状況は、高校から大学への進学など日常生活の大きな変化、就職不安と就職後の職場不安、結婚前後といった時によく起きるとのこと。
この年齢層の死亡原因は1位事故、2位自殺となっており、こうした実態を裏付けています。また、カナダの若者自殺率は先進諸国で3番目に高いというデータも出ています。
この報告の直後、別の機関Children’s Mental Health Ontario(CMHO)が家庭に目を向けた報告書を発表しています。
▶3分の1の親が、子供の心の健康の治療サービスを探している。
▶そうした親の4割は、必要なサービスを見つけられない、もしくはウェイティングとなっている。
親は子供の心の健康の変化に気づいても、どこに相談したらよいか分からないというのが一番の問題のようです。
経済への影響で見ると
▶4分の1の親が、心に不安を抱える子供のために仕事を休んだことがある。
▶そうした子供の世話をするために親が仕事を休んだことによる経済損失は年間421ミリオンと推定される。
この経済損失はオンタリオ州だけですのでカナダ全土では相当な金額になるのでしょう。
当事者である若者たちはどのように考え感じているのでしょうか。
▶若者の62%は自分の心の苦悩がどの程度なのか心配したことがある。
▶その苦悩について専門家に相談したのは、3人に1人(32%)。
▶若者の63%は、心の苦悩について手助けを求めることを恥ずかしいことだと思っている。
多くの子供たちが苦しんでいる実態が伺えます。
制度的な側面からは
▶心の健康治療を受けている若者が成人の心の健康治療を引き続き受ける割合が低いため、苦悩の6割を解決できる治療体制が活かされていない。
治療施設、窓口と専門家の不足を指摘する声はありますが、制度を活かす工夫で効果を上げることはできそうです。心の健康は、当事者や家族だけでなく社会が一体となって、手を差し伸べ、適切な治療と、その原因を解消する必要がある問題だと思います。
白ふくろう
1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。