オンタリオ州の教育制度はどう変わる!?|白ふくろうの「カナダの社会・経済」ネタ探し【第32回】
昨年、オンタリオ州政権が変わってから1年経ちました。前政権の施策をことごとくひっくり返すことを公約にして政権奪取を勝ち得たことから、その公約を続々と実行しています。その中の一つが教育制度改革。新聞やニュースで断片的に報道されていますが、制度として何を目指しているのか整理してみたいと思います。
Education that Works for You
これが、キャッチフレーズになっており、その中で「Modernizing Classrooms」、「Modernizing Learning」、「Modernizing Health and Physical Education」の3つが柱となっています。
まずはClassrooms
一番力を入れているのが、オンタリオ州公立校全校に生徒一人あたり1メガバイトのインターネットを完備し、テクノロジーを使うデジタルスキルを伸ばし、e-learningの機会を提供できる環境を整備すること。既にオンタリオ州北部で32%、都市部で35%が整備を終え、2021-22年度までにその他の地域、学校でも完了する予定。
e-learningについては、高校の卒業要件30クレジットの中で最低4つをe-learningで取得することになり、2020-21年度から適用になります。
Provincial Code of Contactが改定され、携帯/スマホの教室内禁止が2019年9月から実施されます。授業中、教員の指示で使う、健康上の目的、特殊教育で必要、この3つの場合以外では、教室内での使用ができなくなります。各教育委員会はこの州の改定に伴い、それぞれに規則を改定する必要があります。
EQAO(Education Quality and Accountability Office)の評価プロセスが見直されることになります。EQAOは、生徒の到達度を計りデータとして活用することで公的教育制度の改善、向上に努めるもの。その改善テーマとして、社会に出るためのスキル向上、保護者への支援、デジタルプラットフォームの活用などが挙げられています。
クラスサイズの変更がニュースなどで取り上げられています。その変更内容は次のようになっています。Kindergarten:変更なし、G1-G3:変更なし、G4-G8:各教育委員会全体での平均クラスサイズを24.5以下に変更。州政府支援基準平均クラスサイズは、23.84から24.5に引き上げ。G9-G12:各教育委員会全体での平均クラスサイズを22以下から28以下に引き上げ。州支援基準平均クラスサイズは28に引き上げ。
ニュースなどで報道される話題は、この高校でのクラスサイズ引き上げ。しかしよく読んでみると、28人以下となっており、実際のクラスサイズを強制しているものではありません。問題は、州支援基準平均クラスサイズの引き上げ。州から各教育委員会への支援金額を一クラス28人として計算するというもの。クラスサイズが大きくなることで、一人一人の生徒に対する指導時間が減り、教育の質が落ちると話題になっていますが、問題の本質はクラスサイズではなく、州の支援金が減ることによる教育委員会の運営の問題。州政府によると、この28人クラスというレベルは、カナダ全土の平均クラスサイズに沿っているとのこと。各教育委員会がより効率的な運営を行ない、支出を削減し州の支援金減額分を相殺できれば、クラスサイズを維持でき、教員の雇用も継続できるという構図。まさにビジネスの発想です。
Grants for Student Needs(GSN)という支援があります。これは、教育法Education Actで詳細に規定されている様々な項目に対する支援ですが、今回この支援についても大々的な見直しがなされるようです。2019-20年度は特に生徒の学習成果を支援する部分に注目した部分の若干の変更にとどまるようです。ただ、この見直しの中で、特殊教育とスクールバスなど生徒の通学への支援については、変更はないと確約しています。
その他、教員採用プロセス、地域優先支援、公共料金支援など細かな見直しがなされています。
次はLearning
注目は数学。州政府は数学4年戦略を発表しており、そのアプローチは「生徒の数学理解レベルの向上」、「日常生活で出会う数学的問題ができるようにする」、「生徒が将来仕事につける可能性を引き上げる」、このアプローチに沿って、この9月から始まる4年間で全ての学年に新数学カリキュラムが導入されます。
さらにこの新カリキュラムを成功させるために、新任教員には数学理解テストの合格が義務付けられることになり、現教員には数学認定コースを受けるための援助が与えられるとのこと。
オンタリオ州はSTEM(Science、Technology、Engineering、Math)教育に力を入れており、その新戦略が出ています。Career Studies、Business Studies、 Computer StudiesのカリキュラムにSTEMの重要性とその仕事につくための重要なスキルが盛り込まれることになっています。
その他、財務(お金の動き)理解力、先住民族教育、デジタルカリキュラムなど2019年9月より導入される予定です。
最後のHealth and Physical Education(HPE)
2019-20年度より新カリキュラムが導入されますが、報道では性教育ばかりが取り上げられています。このカリキュラム変更には、いわゆる性教育に加え、メンタルヘルス、いじめ、オンラインの安全性、中毒、大麻、薬物のリスク、性表現、性自己認識、性指向、健康、身体、精神に関する知識が織り込まれており、同時に指導学年の低学年化も織り込まれています。
このカリキュラムについては、他州と同様、子供が適正な成熟度に達していないと保護者が判断した場合、受講拒否権が認められています。カリキュラム内容はオンラインでも提供され、家庭での指導に使えるようになる予定です。
こうして全体を見ると、なかなかバランスが取れているように思います。予算を減らされる側の声ばかりが新聞報道などで取り上げられますが、各教育委員会の運営努力が求められているように思います。
白ふくろう
1992年音響映像メーカー駐在員として渡加。8年の駐在の後、日系物流会社に転職、休眠会社を実業会社へ再生再建。2007年より日系企業団体事務局勤務、海外子女教育・日本語教育にも関心が高い。2009年より、ほぼ毎日トロントやカナダのニュースをブログ(カナダはいいぞ~。トロントはもっといいぞ~)で配信している。