世界がアートで満たされていったなら第14章
– World filled with ART by Daisuke Takeya –
第14章「Activismとしてのアート。Who Killed Vincent Chin?」
トロントは多文化主義の街だ。信じられない事にほんの数十年前には、Redress運動に象徴されるような大きな社会運動の引き金となる閉鎖的な社会が北米全体を支配していた。「誰がビンセント・チンを殺したか?」は、 制作レニー・タジマ、監督クリスティン・チョイによる米国ドキュメンタリー映画。先日、現代ギャラリーによる「マイノリティー・モデル」プロジェクトとトロント・リールアジア国際映画祭によって上映会が開催された。
ヴィンセント・チンは、 米国のデトロイトで育った中国系移民エンジニア。1982年、結婚式を2日後に控えたヴィンスは親友とバチュラーパーティーでバーに飲みに出かけた。不幸な事にそこでもみ合いになったロナルド・エベンスとその義理の息子に店を出た所を金属バットでめった打ちにされて殺されてしまった。警察官を含む多くの目撃者がいたにも関わらず、事情聴取もされぬまま、エベンスは、執行猶予3年の保護観察と3000ドルの罰金のみ。どんな理由にせよ、人殺しで中古車を買う程度のファインでおしまい?当然、故人の家族は納得できるはずもなく、マスコミを巻き込んだ大きな運動が起こった。事件は、暴行殺人よりも大きな問題をはらんでいたのだ。
80年代のデトロイトは、 多くの失業者が路頭に迷っていた時期だった。失業はオートメーションによる生産効率化による大量解雇によるものだったが、日本の自動車産業が米国進出したことで日本人を妬む人たちも少なくなかった 。ヴィンスが殺されたのは、彼が日本人と間違えられたから(アジア人であったため)ではないか。レイシズムではないかと思われる数々の証言が得られる中、運動が拡大され、連邦地裁は2人に25年の実刑を下した。これは、メディアが真摯にこの事件を追った結果広がった社会現象があったおかげで、この映画も大きな役割を果たしたと言えるだろう。アメリカでの黒人コミュニティーを中心とした人権運動に乗った形で広く受け入れられた。しかし、その後1987年、なぜか白人中心のコミュニティーのシンシナティでの上告裁判がマスメディアを巻き込まない形で突発的に起こされ、2人とも無罪放免が確定した。
映画は、目撃者らへのインタビュー、そして関係者をひとりひとり個別にインタビューする「羅生門的手法」で、事件の陰にある様々な問題を重層的な構成(テレビ朝日のドキュメンタリー映像も紹介されている)。エベンス親子もリラックスした様子でインタビューに答えている。監督のクリスティンによると、ヴィンセントは、映画の中で19回死ぬらしく、毎回彼の死の後で新情報を提供するという形を取っていて、モータウンミュージックと相まってテンポの良い作品となっている。
撮影開始から25年経った今、僕たちの生きる時代は、とても過ごしやすくなったのだなと感じられる。それは、自然にそうなった訳ではなく、この映画の関係者達が関わったようなアクティビズムがあったからこそ。僕たちも未来の社会がより住みやすい場となるように、今しなければならない何かを残して行くという使命があるように感じられる。アートを通じて社会を変革させて行くActivismは、近年また違った形で注目され始めている。アートには未来の形を変える力があるのだ。。。
Todady’s his Work
Perfect World:
ISBN: 978-1-927376-04-1,
published by and available from
Christopher Cutts Gallery.
「Perfect World」というタイトルの作品集。空(から)シリーズの世界の風景画が、森美術館館長の南條史生氏のエッセイ「武谷大介と現代の詩情」によって紹介されている。クリストファーカッツギャラリーより出版。
武谷大介 Daisuke Takeya
トロントを拠点に活動するアーティスト。現代社会の妥当性を検証するプロセスを通じて、その隠された二面性を作品として表現している。ペインティング、立体作品、インスタレーションなどその作品形態は多様で、国際的に多岐に渡る活動を展開。展覧会に、くうちゅう美術館、石巻線アートリンク、OuUnPo ゴジラと不死鳥、六本木アートナイト2013、福島現代美術ビエンナーレ2012、 MOCCA、 国際交流基金トロント日本文化センター、在カナダ日本国大使館、プーチコーブファンデーション、ニュイブロンシュ(2006,2007)、六本木ヒルズクラブ、森美術館、京都芸術センター、ワグナー大学ギャラリー、SVAギャラリー、ソウルオークション、在日本カナダ大使館内高円宮殿下記念ギャラリー、北九州市立美術館アネックス、セゾンアートプログラム/セゾン現代美術館、テート東京レジデンシーなどがある。
その他の活動に、大地プロジェクト共同ディレクター、遠足プロジェクトキュレーター、女川アートシーズン実行委員、明日:アーティストフォージャパン共同ディレクター、元アートバウンド大使 、元日系文化会館内現代美術館プログラミングディレクター、元にほんごアートコンテスト実行委員長、元JAVAリーダーなど、アートを媒体としたコミュニティーの活性化に取り組んでいる。 カナダでのレプレゼンテーションは、クリストファーカッツギャラリー(www.cuttsgallery.com)、 著書に「こどもの絵(一茎書房)」がある。
www.daisuketakeya.com