バードウォッチングは、鳥と出会う小さな冒険ー写真家が見つけた “近くの自然”のよろこび】インタビュー: Zachary Raymond Vaughan氏|特集「トロント発ローカルな旅-ブルース・トレイルを歩き、鳥と暮らす」
鳥たちのさえずりが日々の風景に溶け込み、自然のなかでふと足を止める瞬間が増える新緑がまぶしい春のオンタリオ。特別な道具を持たなくても誰もが気軽に楽しめる、もっとも身近な自然との対話「バードウォッチング」。写真家のザカリー・レイモンド・ヴォーン氏は、「バードウォッチングは誰にとっても素晴らしい趣味」だと語る。高価なカメラや立派な双眼鏡がなくても、ただ鳥を見たり、鳴き声に耳を傾けたりするだけで十分に楽しめるからだ。 日々の暮らしの中で、もっと多くの人が気軽に鳥とふれあう時間を持ってほしい。それが彼の願いだと言う。自然への関心は心身の健康を支え、やがて環境保全への意識にもつながっていく。鳥を大切に思う人が増えれば、鳥たちのすむ環境を守ろうとする気持ちもきっと広がっていくはずだと信じている。
SNSを通じ交流をもつ熱心なバードウォッチャーであり、写真家であるヴォーン氏に自然とそこに生きる鳥たちの魅力を語ってもらった。
四季と自然がつなぐ、鳥との日常
ヴォーンさんはピッツバーグ在住ですが、ピッツバーグとオンタリオは、どちらも温帯湿潤気候に属し、春の芽吹き、夏の深い緑、秋の鮮やかな紅葉、そして冬の雪景色と、四季の移り変わりがはっきりしているなど多くの点で似ている地域です。
豊かな森林が広がり、湖や川も多く、自然の中で過ごす楽しみが身近にあります。また、いずれも都市圏に位置しながら、市内や郊外には自然公園や保護区域が点在しており、日常の延長で気軽にバードウォッチングができる環境が整っているのも大きな魅力ですよね。
ピッツバーグとオンタリオには、共通する鳥の種類がたくさんいます。私が日々撮影している鳥たちは、オンタリオ周辺でもよく見られるものばかりです。「カーディナル/ショウジョウコウカンチョウ(Northern Cardinal)」、「ブルージェイ/アオカケス(Blue Jay)」、「アカオノスリ(Red-tailed Hawk)」、「チカディー/コガラ(Black-capped Chickadee)」などは、ピッツバーグでもオンタリオでもどちらの公園や自然の中で見かけることができ、彼らの日々の行動を観察するのは本当に楽しいものです。
「アメリカワシミミズク」と「シルスイキツツキ」の静かな瞬間
先ほども話されていましたが、オンタリオとピッツバーグには共通する鳥がたくさんいます。地元で見られる鳥との特別なエピソードがあれば教えてください。
最近、「アメリカワシミミズク(Great Horned Owl)」の雛2羽を撮影しに出かけました。巣立ってから約1週間ほど経った頃で、今は1本の大きなホワイトオークの木によくとまっていました。私は彼らを驚かせないように、その木から少し離れた場所に機材を設置して撮影していました。
するとその場所はちょうど、「シルスイキツツキ(Yellow-bellied Sapsucker)」が樹液をなめるために開けた“サップウェル(樹液の穴)”のすぐ前だったのです。
驚いたことに、そしてとても嬉しいことに、そのキツツキが時折やってきては樹液を吸っていきました。この鳥は通常とても警戒心が強いのですが、その時は私の存在をまったく気にしていないようで、素晴らしい写真を何枚も撮ることができました。
鳥の写真撮影は、まさに“その時、その場所”に居合わせることがすべてだと、あらためて実感した瞬間でした。
私の家にやってくるお気に入りの鳥たちが、あなたのSNSにもよく登場しています。
「カーディナル/ショウジョウコウカンチョウ(Northern Cardinal)」はオンタリオでもとても人気がありますし、「チカディー/コガラ(Black-capped Chickadee)」、「ヒレンジャク(Cedar Waxwing)」、「ハウスフィンチ/メキシコマシコ(House Finch)」、カナダヅル(Sandhill Crane)など、他のよく知られた鳥たちも頻繁に撮影されていますね。これらの鳥の、どんなところに魅力を感じますか?
どの鳥も観察していて本当に魅力的な存在ばかりですね!私が特に好きなのは「コガラ(Black-capped Chickadee)」です。もう、本当にかわいくてたまりません。それだけではなく、彼らは周囲の他の鳥たちにとってもとても頼りになる存在なんです。何度見たかわかりませんが、コガラが近くに危険があると警告の鳴き声を発して、他の鳥たちに知らせている場面にたくさん遭遇してきました。驚くべきことに、多くの鳥たちがその警告の意味をちゃんと理解しているようで、おそらくそのおかげで命を救われた鳥もたくさんいるはずです。まさに最高の友だちですよね!
そっと見つめる、鳥たちの時間。
撮りたいのは、自然な一瞬。
鳥の写真を撮るうえで、もっともインスピレーションを感じる場所はどこですか?また、自然や光について気にかけていることはありますか?
私は主に公園で鳥を撮影しています。アクセスしやすく、よく整備されていることが多いからです。特に、草原や森林の縁に鳥がいることが多いので、そうした特徴のある公園は撮影にぴったりの場所です。たとえ素晴らしい写真が撮れなかったとしても、美しい日に外を歩きながらバードウォッチングができるだけで、私にとっては十分に価値のある時間です。
撮影では、一般的に曇りの日の光を好みます。直射日光の強い晴れの日よりも、柔らかい光のほうが美的にも好ましく感じられますし、撮影時に気にかける変数が少ないため、構図づくりに集中しやすいからです。
「ブルージェイ/アオカケス(Blue Jay)」もよく撮影されていますね。これらの鳥を撮る際に、特別な撮り方や工夫はありますか?
「ブルージェイ/アオカケス(Blue Jay)」は、私が撮影するのが特に好きな鳥のひとつです。とても個性的で、表情や動きにもたくさんの魅力があります。私はよくピーナッツをあげるのですが、できるだけ多くのピーナッツをくちばしに詰め込もうとする姿を見ているだけでも、とても楽しい時間になります。毎日少しずつ餌をあげることで、素晴らしい写真を撮るチャンスも生まれます。一方で、自然の中で彼らを撮影する時は、採食中や食べ物を隠している最中などに注意がそれていることがあり、そういうタイミングでうまく撮れることもよくあります。
「アカオノスリ(Red-tailed Hawk)」や「アメリカワシミミズク(Great Horned Owl)」などの猛禽類は、撮影が難しい印象があります。どのようにアプローチして撮影しているのでしょうか?
猛禽類を撮影する時は、たいていの場合「運」によるところが大きいです。私はただ散歩をしているだけで、木の枝にとまっているところや木の中にいるところに偶然出くわすことが多いですね。何よりもまず大切にしているのは、彼らとの距離を保つことです。自然の中にいるとき、私たちはあくまで訪問者であり、野生の生き物には最大限の敬意を払うべきだと思っています。だからこそ、安全な距離から観察することが何よりも重要です。そして、鳥が私を気にせず自然に振る舞っているときこそ、本来の姿をじっくり観察し、写真におさめることができます。
バードウォッチングが深める自然へのまなざし
オンタリオもピッツバーグも四季がありますが、春・夏・秋・冬、それぞれの季節で撮影が楽しい鳥を教えてください。
私は四季を通じて鳥の撮影を楽しんでいます!春は、やはり「ムシクイ類(Warblers)」の渡りが楽しみですね。色とりどりの小さな鳥たちがせわしなく動く姿は、きっと誰が見ても魅力的だと思います。夏は、「オオアオサギ(Great Blue Heron)」や「アメリカササゴイ(Green Heron)」の撮影が好きです。魚を捕らえる瞬間をじっと待って撮るのは、本当に楽しい時間です。秋は、紅葉を背景にした鳥の写真を撮ることがメインになります。赤や黄、オレンジに染まる葉と鳥の組み合わせは、美しい構図を生み出してくれます。そして冬は、「カーディナル/ショウジョウコウカンチョウ(Northern Cardinal)」の撮影が大好きです。雪景色の中に立つ、あの鮮やかな赤いオスの姿は、何ものにも代えがたい美しさがあります。
公園や自宅の庭などの日常的な場所でもよく鳥を見かけますが、驚いたような日常のエピソードがあれば教えてください。
地元の公園や庭は、鳥を見つけるのに本当に素晴らしい場所だと思います。遠くまで出かけなくてもいいですし、鳥たちと友達になれることもあるかもしれません!ここ数年、私は自宅の庭にたくさんの実のなる低木を植えてきました。ウィンターベリーやチョークベリー、それにコーラルベリーも2本育てています。昨年は、「マネシツグミ(Northern Mockingbird)」が冬の間ずっと庭に居ついてくれました。朝、階下に降りて窓の外を見ると、真っ白な雪景色の中でベリーをついばむ彼の姿があり、それは本当に贈り物のような時間でした。彼には「いつでも戻ってきていいんだよ」と伝えたいですし、また来年会えることを願っています。
オンタリオは「アルゴンキン州立公園(Algonquin Provincial Park)」に訪れたことがあるそうですね。いかがでしたか?
近いうちに、ぜひまたオンタリオでバードウォッチングをしたいと思っています。今まで訪れた中でも、「アルゴンキン州立公園」は本当に素晴らしい場所でした。どの日でも驚くほど多くの野生動物に出会えるのが魅力ですが、なかでも一番印象的だったのは「ハシグロアビ(Common Loon)」を見て、声を聞けたことです。彼らが水中に潜って魚をとる姿を、何時間でも見ていられると思いました。また必ず北の方へ撮影旅行に行きたいと思っています。
Zachary Raymond Vaughan
(ザカリー・レイモンド・ヴォーン)
アメリカ・ピッツバーグ在住。野生動物を専門とする写真家であり、熱心なバードウォッチャー。「高価な道具がなくても、鳥を見たり鳴き声を聞くだけで誰もがバードウォッチャーになれる」という信念のもと、日常の中で鳥とふれあう楽しさを広く発信している。
WEB: https://www.zachvaughanphotography.com/
Instagram: @ZachVaughanPhotography