カナダでゲーム屋三昧 #15

カナダと日本の「住みやすさ」比較

長時間労働(週50時間以上)の比率

長時間労働(週50時間以上)の比率

Median Household Income(平均年間所得)

Median Household Income(平均年間所得)

住みやすさって何で決まるのでしょうか?2015年人材会社Mercerの「世界の住みやすい都市ランキング(2015 Quality of Living Rankings)」でバンクーバーが5位に位置づけられました。ウィーン(オーストリア)、チューリッヒ(スイス)、オークランド(ニュージーランド)、ミュンヘン(ドイツ)に次ぐ順位です。カナダの都市は、バンクーバー、トロント、モントリオールを代表に、こうしたランキングの常連です。ただ、「住みやすさ」とはいっても、全部に住んで見比べているわけもなく、いったいどうやって評価されているのでしょうか?

一般的には、安定性、医療、文化、環境、教育、インフラ、公共サービス・交通手段といった部分で評価を受けています。私自身、バンクーバーに住んで1年になりますが、物価の高さを実感している自分としては「本当に、ここってそんなに世界最高水準なのだろうか?」と疑わしくなる気持ちもあったりします。こうした総合的な指標で、いったいカナダはどういうところが評価を受けているのでしょうか?ひとまず年収。世界の平均所得ランキングでいえばスイス($91K)やノルウェー($81K)には及びませんが、7位のカナダ($58K)は10位アメリカ($55K)や17位日本($40K)よりも所得水準は高いです。ただ、個人金融資産でいうと1位アメリカ($640K)がダントツで資産を持っており、2位日本($160K)など「平均で」2000万円弱の資産をもつ日本も相当なものです。カナダはそれに比べると7位($40K)と500万円ちょっと。貯蓄でいうと必ずしも豊か、というわけでもありません。そしてなにより、物価。電気ガス水道ガソリンは世界的にも安いものの、基本的に物価は高い。各国の物価指標を表す有名なビックマック指数でいうと、アメリカ$4.76、カナダ$4.64、と日本の$3.14と比べるとずいぶんと高い。物価は日本の1.5倍です。つまりカナダは日本と比べると「給与は1.4倍高いけど、物価が日本の1.5倍だし、(比較的浪費癖が強いカナダ人という特性もあり笑)、貯蓄がいっぱいあるわけではない、というのが現状です。

とはいえ、やはり物事はカネだけではありません。平均年間消費の20%近くを費やさなければならない悪名高いアメリカ医療保健に比べると、カナダは日本と同レベルの4%強。教育支出は日本よりも安く(実質の学費はずいぶん高いですけど!)、衣類・交通費は高いとはいえ、全体的にバランスがとれた支出になっています。ただカナダになくて日本にあるもの。「(金持ちにはシンガポールが最高)、庶民には日本が最高」という言葉があります。コンテンツ、食、ファッション、すべてにおいて日本は高品質なものがあまりに安価で手に入るのです。ラーメンは$10-15が当たり前のカナダにおいて、日本はもっとおいしいラーメンが$7-10と、下手すると半額近い。吉野家の$3牛丼にせよ、コンビニの$1アイス・お菓子にしても、とにかく安い。そしてウマい。バンクーバーは「マズいものも高く、ウマいものはもっと高く」ですが、日本は「安くてもウマい、高いものはもっとウマい」という状況。さらには消費税。8%にあがったとはいえ日本の消費税は安い。カナダでは、13%のHSTに加え、15%のチップがデフォルトで、通常料金の3割増を払っているという状態になります。

では、労働時間の長さについてはどうでしょうか?2010年の週あたりの労働時間を見てみると、週49時間(1日10時間)以上働く人の割合は韓国38%に次いで、日本は23%、過少申告も含めるともっといそうですが、日本は世界二位で長時間労働という状態です(1985年あたりはピークで40%近くがこのくらい働いてました。これでもだいぶ減りました)。比べるとカナダは12.4%で13位、フランス(15位11.7%)やオランダ(30位6.4%)ほどではありませんが、アメリカ(9位15.4%)よりも楽な労働環境にあるといえます。ただ、実はストレス度数をはかってみると、意外にも日本は労働ストレスは「低い」のです。労働時間と疲労率は異なります。ぐったりと疲れて仕事から帰ることが「いつもある」+「よくある」と答える比率を分析してみると、意外にも日本は34%と低いのです。長時間労働者が少ないフランスやハンガリーといった国のほうが50%近くそうした感想をもつのです。図1のなかでは、疲れやすい国民/疲れにくい国民としていますが、本質的には限られた仕事の中で求められるコミットメントが「弱い」ために日本人は長時間ながら楽をしているといえるでしょう。会社に家族的な環境を求める日本人は、「長時間労働をストレスなくこなす」すべを身に着けているのです。

上記のような状況があり、結論としては「日本は(日本人にとって)給与は安いが物価も安く、長時間労働だがストレスは極度に高いわけでもなく、生活のクオリティは高い」ことがいえます。ただ、これは日本の同質的環境に入りこめる日本人に限られた話。カナダ人を含めた外国人には日本の労働環境が耐えられないという声が強いです。あれほど安全性や医療保健に恵まれた東京が世界の住みやすい国ランキングに入らないのはそうした排他性にあるといえます。バンクーバーを含めたカナダ諸都市は非常にバランスがとれ、人口密集度も低く、なにより他文化の人間に寛容で、自然も豊か。確かに世界で最も住みやすい国の一つと評される理由もわかります。逆に「カナダは(多くの人種にとって)物価は高いが給与も高く、短時間労働でストレス度は低く、生活のクオリティは高い」という結論になります。

それではカナダは今後どうなっていくのでしょうか。実は人気があるということは一元的に良い方向にばかり向くわけではありません。人気過多で人が集まりすぎたおかげでバンクーバーの地価はうなぎのぼり、図2でみるように平均年収に比べての住宅価格はこの20年で高騰しています。世界中からおカネを積んだ投資移民が集まりすぎたお蔭で、バンクーバーはそれほど「割りに合う」都市ではなくなってきています。比較すると最近は「トロント」が一番カナダではお勧めかもしれませんね!


nakamura-atsuo中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのバンクーバー法人にて、欧米向けモバイルゲームの開発スタジオ責任者。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 に至る。著書に“The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)、他寄稿論文・講演なども行っている。