カナダでゲーム屋三昧 #20
21世紀、脳拡張の時代
ゲーム3割、遊び3割、グローバル化3割
バンクーバーにきて1年半が経ちました。『ゲーム屋三昧』も20回目を数えます。過去19回分の執筆テーマを振り返って分類してみると、「(歴史・社会学含めた)遊びの哲学」5件、「ゲーム産業」5件、「(日本の)グローバル化」4件、あとは漫画、ヒット産業全般などなど。これって、つくづく今の自分の頭の中を表しているなあと感じます。
結局のところ、私の問題意識は下記3つの疑問がそれぞれ3割ずつ占めている感じです。「どうやってゲーム事業を成功させられるんだろう」「どうやって日本企業がグローバル化できるんだろう」「そもそもゲームをやってて社会のためになるんだろうか」。この1年半はその3つの難問を、実際に体を動かしながら、グルグルグルっと頭の中でまわし続けていました。正解はもちろん見つかってませんが、糸口のようなものを掴んでは消え、という繰り返しです。
「脳」が拡張していく21世紀
ところで、こうして自分の行動が数値化されることって、意外な発見をもたらしてくれます。例えば、最近は趣味のランニングをRun Keeperと数値計測アプリを使いながらやっています。15年2月に走り始めて、7か月たったところでランニングの回数は100回、50時間、550㎞を走ってきました。ペースでいうと徐々にあがって、5分/㎞くらいです。自分で実感しているより、ずいぶんたくさん走っており、数字にされることで明確な達成感があります。
でもなにより効果が大きいのは、「常にその場で自分の動きを見直すことができる」ということ。このペースは1週間前に同じコースを走った時よりも3秒遅い、といったことが容易にできるので、常に自分をチェックしてくれるパートナーがいるようなものです。
今のモバイルアプリはこうした「自分の行動を数値化できる」便利な機能であふれています。ネットを通じてここ数年起きているのはモバイル、ソーシャル、クラウド、ビッグデータの4つのトレンドと言われています。それぞれがバラバラの進化にも見えますが、「いつでもどこでも『自分』についてまわり(モバイル)、他人との『関係性蓄積』にも影響を与え(ソーシャル)、その記録や記憶を容量無制限に『保存』でき(クラウド)、そこから『分析』が行われる(ビッグデータ)」ということでまとめてみると、、、実はこれらは人間の「脳」が行っていることの代替なんです。
技術は人間がもっている能力を「引きのばして使う」ことを目的に進化してきました。「足」の代わりになってきた鉄道や自動車、飛行機。「手」の代わりになってきた製造技術、機械。「目」の代わりになるカメラやビデオ。「口(言葉)」の代わりになってきた電話、通信。21世紀に入り、歴史上はじめて技術は「脳」を代替・延長する時代へと入り始めたのです。
自ら主体的に未来の担い手になること
脳が拡張していく21世紀、なんだかワクワクしませんか?でも、それってただ待っているだけで手に落ちてくるような変化じゃないんです。戦後すぐIBMは「世界のコンピューター市場はせいぜい5台くらいしか売れないだろう」と予想しました。彼らがその誤りに気づくのは半世紀経ったMicrosoftが台頭してからのことでした。
IBMは戦後のコンピュータ業界の8割近いシェアをもった巨大企業でしたが、BtoBのハード事業に拘りすぎた結果、BtoCでOSというソフトウェアから産業をおさえたMicrosoftにとってかわられます。そのMSもClosedなライセンスビジネスに拘り、Mobileベースで優位性をもったAppleに凌駕されます。そしていまや歴史上世界最高の時価総額をたたき出したAppleもまた、GoogleやAmazonとの熾烈な競争にさらされています(下図参照)。

変化は見える者にしか見えておらず、ただその技術を消費しようと待ち構えているだけでは、楽しむ余裕すら起こりません。ホリエモンのソニー買収時の記事などを読むと強くそう感じます。
newspicks.com/news/1145182/body
今、自分で仕事をまわしながら、一番面白いなと思うのは、世界全体が向かっている方向性を先取りできたり、なにより「自分がそれを切り開く担い手になれること」を感じる瞬間だったりします。世の中には主体的に関わることでしか得られないものがたくさんあります。
ゲームを含めたエンタメが対象としているのは、まさに人間の「脳」です。いままではゲーム職人達が「面白さ」をレシピもなく手の加減のみで最適に調整する時代でした。そうした職人技が、モバイル、ソーシャル、クラウド、ビッグデータなどの技術の支援を経て、天才を経ずしても再現できるようになる。人の遊び方・動き方が変わる。そんな未来につながる道のきっかけを手探りで探している毎日です。
正しい時代、正しい場所で未来の担い手になる
イノベーションが起きる産業というのは趨勢があります。織物(1800年)、鉄道(1830年)、化学(1860年)、電力(1890年)、自動車(1920年)、航空機(1950年)、PC(1980年)、ウェブ(2010年)。その時代にあわせて、最も活性化する産業は常に移り変わってきました。今の時代にウェブを経由せずにイノベーションを引き起こす事例は少なくなっており、チャンスがほしい人にとってはこの業界に関わり続けることが必須になってくるでしょう。少なくともあと20〜30年の間は。(下図、USAの産業別特許申請数「Technology」を参照)

チャンスをつかむために必要なこと。それは「正しい時代、正しい場所で未来の担い手になる」ということ。好きなことではなく時代に求められることを中心に考える。今サービスが一番加速度的に発生している産業で、自分たちとサービスとのかかわりを考える。Facebook、What’sApps、Uber、Airbnb、Tumblr、様々なサービスがウェブを通して、Mobileに流れ込んでいます。その決着点になるのは、やはり脳の機能代替サービスであり、技術によってより人間らしく生きる方法の模索です。
今回はだいぶPoeticなテーマになってしまいましたが、本気でこんなことを考えながら、事業をしています。まずは手元の小さな端末でより多くの人がHotになれるサービスを、ということで先日発表したPAC-MAN256は1週間強で500万人以上がDLする人気アプリになりました。www.gamecast-blog.com/archives/65838851.html
今後もこうしたImpactfulなタイトルをどんどん世に送り出していきたいなと思っています。
中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのバンクーバー法人にて、欧米向けモバイルゲームの開発スタジオ責任者。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 に至る。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)、他寄稿論文・講演なども行っている。





