グルメの王様のおしゃれ美食道 第25回「逸品ヘンリー王の鶏料理」


ニューヨーク5番街の名フランス料理店La Grenouilleとの出会いは、前にもお話した世界の名フランス料理店を紹介した美食パスポートの1978年版でした。そしてこの度、遂に待ちに待った訪問の機会を得ることが出来ました。
ややこじんまりした感じのお店ながら、他の名店同様、スタッフの数の多さに圧倒されました。とても豪華な内装でフランス語が飛び交い正にフランス料理店。席に案内されると担当のマネージャーが今日のお薦めメニューを説明してくれました。


実はここにきたらこれ!と決めていたものに、大好きなスフレがあります。スフレは今から丁度40年前有名なオードブルである事を知ってから、それ以来フルコースの初めに食べることを夢見てきました。ロジャームーアの007シリーズ「オクトパシー」で、インドの富豪を演じる大ファンのルイ・ジュールダンが彼のお屋敷で、監禁中の007をディナーに招待する場面があるのですが、双方ディナージャケットに身を包んだ豪華なテーブルに一番初めに出されたのがスフレでした。その場面だけ何度も見直していますが、やっぱりスフレはオードブルに限ります。このお店のスフレは種類が多く楽しいのですが、やっぱり定番はチーズスフレですね。
一昔前モントリオール銀行の窓口で知り合った香港出身のチャーミングレディーが、結婚後サンディエゴに住んだのですが、ラスベガス旅行の際わざわざ車を飛ばして会いに来てくれた上、グルメの王様を招待するには最高級のレストランを、と色々調べてくれて感激しました。その時レストランでまず注文したのがチョコレートスフレでした。

さてこのお店ではマネージャーの解説が見事で、一応こちらの好みも伝えたのですが「その料理は他のお店でも食べられますが、この伝統的な鶏料理は当店でしか味わえません。」返す言葉がありませんでした。こういうマネージャーが居るととても頼もしいです。メイン料理の前に注文したのが、これも大好きなリドヴォーの料理。英語ではスィートブレッドと称する子牛の胸腺です。今まで数多くのリドヴォーと出会ってきましたが、ナンバーワンと言える程の調理に感心しました。他に貝料理も取ってみましたが、これにパンを浸して食べる為でもありました。


そして遂に噂の鶏料理が登場します。POULADE POCHEE HENRI Ⅳ AU RAIFORT メニューに無いので、マネージャーに書いて貰いました。私が常々楽しい食事に不可欠と言っている、目の前で切り分ける見せ場があり、主任ウェイターらしき男性が、フランス語と共にテキパキと切り分けれくれました。この名物料理を口に含んだ瞬間、脳裏を横切ったのは、中国の特選料理の「乞食鶏」です。これ程柔らかい上品な鶏料理は流石に珍しいですね。食事中今度はやや格上のマネージャーが来て、この料理を解説してくれました。心憎い演出ですね。「レストランで食事をする目的は、ただお腹が一杯になれば良いというものではありませんよ。」無言でそう語り掛けられている気がしました。 ヘンリー王の名前を冠した料理は牛肉の網焼きなど他にもありますが、日本であまり見られないことでこれもお国柄でしょう。大満足の食事を終え表に出る時の挨拶は、“ Merci. Au revoir. ”。
辻下忠雄
エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。






