第100回「コロナ禍と子供たち」|カナダ・トロントにある幼稚園の園長先生コラム。気付けば息子も大きくなりました…
2020年、3月17日。Covid-19による緊急非常事態宣言が発令され、オンタリオ州のロックダウンが始まりました。全ての学校、デイケアセンターも閉鎖となり、池端ナーサリースクールも閉園を余儀無くされるのでした。
さて、突然ですが…このTORJAにて執筆させていただき、今回でなんと100回目!!を迎えることが出来ました。TORJAの記念すべき第1号から約8年以上に渡ってお付き合いして来ていただいた、と言う事になります。かねてより、記念すべき100回目でTORJAからの引退を決めていましたので、実は今回が最後のコラムとなります。
この数ヶ月間、寝ても起きてもコロナの話題ばかりですので、コロナ以外のもっとハッピーな話題で終えたかったというのが本音なのですが、こんな時期だからこそ、子供と自粛に関する問題に触れておこうかと思います。
ある日を境に社会との関係が閉ざされる…今まで誰も体験したことのない異常な状況が私たちにも、そして子供たちにも訪れ、子供たちの生活、教育環境、人間関係までをもが、大きく激変してしまったのです。
子供たちは今まで通っていた学校やデイケア、お稽古事の全てが中止・閉鎖となり、大好きな友達と会うことも、野外で思う存分走り回ることも、公園で遊ぶことすらも出来なくなってしまいました。
ナーサリーが閉園となり最初の2週間が経った頃には、世の中がどんどん悪化して行くのが見られ、これはなんとかしなければ…と、ナーサリーが立ち上げたのはオンラインによる、バーチャル・プログラムでした。コンピューターに弱い職員たちがあーでもない、こーでもない…っと、小さな子供たちでも楽しめる内容にしたのですが、子供たちはナーサリーの先生やお友達に会えて、それはそれは大喜び、大興奮!!イベントもバーチャルですることができ、イースターでは、ナーサリーの教室に隠したイースターバニーのエッグハント。こどもの日には、ナーサリー(日経文化会館)の鯉のぼりや桜の様子もバーチャルで伝えることができ、文明の利器には感謝感謝です。私も、久しぶりにみんなの顔を見た瞬間は涙が出るほど嬉しくて、こんな小さい子達も頑張っているんだ、私たち大人も頑張らないと!!と勇気をたくさんもらいました。少しの我慢だからね〜。
と、…そう言いながら、なんと10週間もの月日が流れて行ったのです。
小さな子供たちを抱えて、何をしたら良いのか、または子供を横に自宅勤務の人もたくさんいた事でしょう。見た目は元気な子供たちも心身の状態はもちろん、生活や勉強のルーティーンもひどく乱され、保護者も疲労困憊といったところでしょう。大人は家庭の事、仕事の事、今後の事、目に見えない先行きへの不安とストレスに苛まれ、その様子は子供たちにも伝わり、両親の雰囲気が変わって行くのが子供たちにとっても寂しく、不安で怖い状況が続きます。
そんな時、子供は駄々をこねたり、泣いたりするんです。自分が辛い時、子供が言うことを聞かなかったり、泣きわめいたりすると益々イライラするかも知れません。でも、ぐっとハグしてあげてみて下さい。怒らず、叱らず、しっかりハグして「そっか、そっか、何があったかなぁ〜。寂しいのかなぁ〜。どこか痛いのかなぁ〜」と背中をさすってみてあげて下さい。その時の感情は、自分自身をもさするかのように自分に返ってくるのではないでしょうか。
そうです。お父さん、お母さんだって辛い時は辛い、悲しい時は悲しい。大人だって泣きたい時は泣いても良いし、愚痴をこぼしても良いし、我慢する必要ないと思うのです。
子供の中には我慢し過ぎる子、泣きたい時に泣けない子、他の人を頼れない子がたまにいると聞きます。そのまま大人になっても色んなことを一人で抱えこみ、弱音も吐けず、不安な気持ちを他人に見せず、我慢するのが当たり前と信じて、いずれは心の病へと発展して行くこともあります。そんな風になる必要はないし、子供をそんな風にさせてはいけないんです。
辛い状況の今こそ「◯◯ちゃんも外行けなくてつまんないし寂しいよね〜、ママもお友達に会えなくて寂しいよ〜。早く、前みたいに戻って欲しいよ〜」と、我慢せずに親が弱い部分を子供に見せても良いと思うのです。ただ、その後に「でも、ママは◯◯ちゃんがいてくれたから良かった〜。寂しいのも飛んでった〜。ハグできて良かった〜」などと、その子の存在がいかに大切であるかを一言付け加えるだけで、子供の不安な気持ちも和らげ、家族の一員として役に立っていると子供の自尊心を高めることも出来ます。
家族は別として、他の人とはハグすら出来ないこんなご時世ですから『人に近寄ったり、触れ合ったりすることは良くない事、してはいけない事=悪』と、他者との関わりがこう認識されてしまわないかが危惧するところです。
現在行なっているナーサリーのバーチャル・プログラムは視覚・聴覚を使って先生や友達など、他者と関わりを持てるだけでも非常に効果的だと確信していますが、当然、人間は五感を使って関わるのがベストです。そばで触れ合い、くっつき合って遊べるのも時間の問題と言えるよう、今よく使われている『 New Nomal』が人間関係を歪める形でないことを心から願ってやみません。
池端友佳理
京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立、園長を勤める。