「旅立つあなたへ」| カナダ・トロントにある幼稚園の園長先生コラム。気付けば息子も大きくなりました…第92回
6月と言えば卒業シーズン。我がナーサリーでも多くの園児達が巣立って行きます。成長を喜ぶと同時に、非常に寂しい季節でもあります。私のSNSでも少し前に、日本の友人が子供達の卒業と進学・就職という旅立ちの様子を写真などでアップしていて心が熱くなる思いで見ていました。
そして今、カナダでもそんな時期がやって来たのですね。卒園児達が成長し、大学や就職でトロント・カナダを離れる、日本に行くことを決心、等とそれぞれの道を選び、また旅立ちの準備の中、ナーサリーを訪ねて来てくれたり、メッセージをくれたりと個々の報告をしてくれる度にその一人一人の思い出がこみ上げています。今日は親御さんの思いを重ね、母としての思いを子供やその親御さん達へのメッセージにして送りたいと思います。
親や家族というものは、あなたがお母さんのお腹の中に居る時からあなたの存在を有難く感じ、あなたが生まれて来る日を心待ちにしていたものです。小さな命の誕生と共に両親や家族が一体となって大喜びしました。がむしゃらにおっぱいを飲むあなたを愛おしく感じ、小さな小さな手を握りしめて、あなたを守り続けると心に誓いました。
新米の両親は何が何だかわからなくて、あなたの泣き声に戸惑い空回りした日々もありました。でも、天使の様なあなたの笑顔を見ていると勇気が湧いて来たんです。あなたの成長は目まぐるしくて、出来ることがどんどん増えて来る、そんな毎日が楽しくて、同じ様な写真もいっぱい撮ったりして…。
なのに、親も未熟なところがいっぱいあってね、イライラして八つ当たりしてしまったり、つい大きな声を上げてしまったりする事もあって、あなたが涙をいっぱい溜めながら眠りにつく姿を見て何度も謝ったりしたんです。ごめんね、ごめんね、お母さんも成長する様努力するからね、って。きっとどの親子もみんな同じ道を通っていくのだと思います。
そして、子供が成長すると共に悩みも出て来るもの。好き嫌い、引っ込み思案、泣き虫、お友達への噛み癖。先生のいうことが聞けなかったり怒られたり、友達とケンカしたり。小さな頃はそんな事、当り前。大きくなるに連れて何とかなるもの。どんな状況であっても、親というものはね、子供を信じているんです。あなたは悪くないんだ、きっと何かの原因があるんだ…ってね。どんな事があっても、あなたを信じ、守ってあげたいと思うのが親。
あなたが大きくなるに連れ、あなたの世界はどんどん広がって、私達の手の届かないところに。友達と過ごす時間は何よりも楽しいものでしょう。だけど、友達関係に悩んだり、勉強のことで嫌になったり。親に反抗したくなる時があったって当然だと思う。私達親も同じ経験をして来ています。相談してくれたら、何かアドバイスできることがあるかも知れません。
スポーツや音楽、アートなど自分の好きなことを見つけ、それに熱中できるのは幸せなこと。楽しくて充実して、めいっぱい青春そのもののあなたをそばで見ているだけで、親もワクワクドキドキ。まるで自分のことの様に第二の青春を味あわせてもらっているのですよ。
それだって良い時ばかりじゃないでしょう。したいことが出来ないことだって、うまく行かない時だって、試合に負けて悔しい思いをすることだってあるでしょう。それを私達はそばで見守ることしか出来ないかも知れないけれど、困難を自分自身で乗り越えて、少しずつ大人になって行くあなたの姿を見て誇りに思っているんですよ。
高校・大学で自分のしたいことが見つかるかも知れません。逆に、まだまだ何がしたいのか、自分にとって何が大切で何をしないといけないのか、見つけられないかも知れません。そんな時は焦らなくて良いんです。まだまだ若いあなたは、少々時間をかけても良いんです。
もし、あなたが夢と希望に満ち溢れた道がすでに見つけられている状況ならば、あなたの持ち前の性格で多くのことに挑戦してください。あなたが今まで培って来た能力を思う存分発揮してください!
そして最後に…。社会に出たら、うまく行かないことも出てきますし、辛くてストレスでいっぱいになることも出てくるかも知れません。そんな時、頑張り過ぎないでね。悲しければ泣けば良いし、家族に電話したら良い。自分を責めて押しつぶさないでね。もう我慢しきれなくなったら帰ってくれば良い。あなたには、あなたのことを心底愛してくれる家族が居るんです。あなたの両親はあなたがいくつになっても、いつでも、どんな時でも、どんな状況でもあなたを愛し続けてくれるんです。あなたには帰ってくる場所がある。それを念頭に安心して羽ばたいて行ってください。
大好きなあなたへ。
池端友佳理
京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立、園長を勤める。