第99回「価値観③/マルチカルチャーな国で・子育ての価値観」|カナダ・トロントにある幼稚園の園長先生コラム。気付けば息子も大きくなりました…
前2回(第99回,第98回)は我が家の例も挙げながら夫婦の価値観について書きましたが、今回はその夫婦+子供が加わってきた場合の『子育て』に関する価値観について話してみたいと思います。
子供を授かり、幸せに満ちた温かい家族を築き上げる夢を描くのはごく自然なことですが、この子育てとやら、なかなか思うように行かないものです。ましてやここカナダでの子育ては、言葉も、祖国も、文化も、習慣も、宗教も、政治も…それぞれ違うバックグラウンドの人がパートナーの人も多いでしょう。
「価値観」は、家庭環境や社会環境、そして過去の体験に大きく左右されるといわれています。子育てとは、その価値観の違う二人が行う共同作業なのですから、子育てへの考え方や子供の言動に対する感じ方なども違って当然なのです。
だからといって、夫婦間でバラバラな事を推し進めていては、うまく子育てが出来るはずがありません。
どのように子育てして行くのかというビジョンを持ち、夫婦で共有したいというルールをきちんと話し合っておくと良いですね。
子供が乳幼児期は、両親共ににまだまだ未熟なことが多く、子育てに関してはどちらも不安に思ったり、自信を持って子供に接したり出来ない人が多いでしょう。子供の行動範囲もまだ狭いですが、子供は必死で親の言動を見て育つ時期ですから、夫婦で異なる言動を子供に見せないのが賢明です。
例えば、ご飯の前にお父さんはお菓子を食べてもいいと言うけれど、お母さんはご飯まで待ちなさい、と言う。ほんの些細な事ですし、ちょっとした例ですが、こういうことは始終見られます。行き違いが大きくなる前に話し合えたら良いですね。
また、話が少し分かるような歳になれば子供も含めて一緒に考える機会を与えてあげられればベストです。
例えば、(低めの)テーブルの上に座ってしまう…カナダでは学校の先生ですら机の上に座る人が多々います。これはお国柄もあるのですが、日本だと考えられない光景です。同じく、何度言ってもお父さんが子供の前で机の上に座ってしまう。日本人のお母さんにするとお行儀は悪いし、子供には絶対に真似して欲しくない。何度も言っているうちにイライラ…といったような事、日常の中にはよく見られます。
そんな時、「全くお父さんはお行儀悪いから!真似しないでね」と、目くじら立てて子供に話すより、その文化の違いを教えてあげる良い機会だと開き直れば良いだけなんです。
「日本では机の上に座るのはお行儀が悪いと言われているけれど、カナダでは違うからね。だからお父さん、時々忘れちゃうけど〇〇ちゃんは覚えておいてね。〇〇ちゃんは日本とカナダのどっちも知っててすごいもんね〜」と。日本人にすると考えられない行為があるように、逆の状況もきっとあるはずなのですから。
他に私が実際相談を受けた例で、お父さんが食事中に携帯やタブレットコンピューターから目を離さない、というのがありました。これは、我が家では絶対的にタブーでありますが、それこそ、その人の価値観や仕事などの背景もありますから、一概に否定する訳にはいきません。
*自分の「価値観」を押し付けない
*相手の価値観を否定しない
*相手の価値観に関心を示す
*話し合って、お互い歩み寄りを見せる
前述の事柄がとても大切だと前回のコラムで書きましたが、子育て中も同じです。
なぜ、お父さんが食事中も携帯やタブレットを見てしまうのか。ついつい子供の前で文句を言ってしまったり、子供に愚痴ってしまったり…ありがちです。そんな時は夫婦で話し合ってルールを作るのが良いでしょう。仕事やスポーツの試合経過が気になるのかも知れません。時間を制限したり、週末や休日は見ない約束をしたり。歩み寄りを見せられるようであれば、子供の前で相手を否定しないで「お父さん、お仕事忙しいの、大変だね〜」とか「試合がとても気になるんだね、お父さんスポーツ大好きだから」とフォローしてあげると、相手を思いやる気持ちも伝わるかも知れません。
子供の前で決して言ってはいけないのは次のような内容です。
ー「お母さんはこう思っているのに、お父さんは全く聞いてくれない。」
両親が全く違う意見や行動を子供に示してしまうと、子供は困惑したり不安を抱きます。
ー「お母さんはこう思っているけど、お父さんはこう言ってるからお父さんの言うようにしなさい。」
責任転嫁を促すような言動を子供が学んでしまいます。
夫婦の間でルールをきちんと取り決めた上で、子供には色々な場面で、物事の根拠、お父さん・お母さんの感じ方や意見などをきちんと説明してあげると、子供は自分で考え、判断し、決断したことに対しての責任なども学んでいきます。
やがて子供が成長し、マルチカルチャーなこのカナダで価値観の違う人と状況に遭遇した時、どのように対応できるのか。価値観の違う夫婦でも、お互いを尊重しあって、敬意を忘れない、そんな両親の態度を子供が常に見ていればその子の将来はきっと大丈夫なはずですよ!
池端友佳理
京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立、園長を勤める。