身近になった福島|紀行家 石原牧子の思い切って『旅』第41回

「双葉町商店街」の看板が見える。住民はいない。SF映画の現場?車は走行するだけ、許可なしに降りることも歩くこともNG。2011年3月11日14時46分に発生した大地震大津波は三陸沿岸部と同時に福島県の沿岸地域を襲った。翌12日には双葉町と大熊町の海沿いに建設されていた原発1号機の原子炉建屋が水素爆発。14日は3号機、15日は4号機と次々に爆発。すでに避難していた人たちはさらに全国へと移動を余儀なくされた。こうして双葉町の全人口6830人が脱出した。
双葉は、福島はどうなるのか
友人の誘いで私は元金沢大学名誉教授、田崎和江氏の放射線調査に便乗させていただいくことになった。田崎氏は除染作用のある自然界の物質を発見し安価な方法で地元の人たちとともに生活環境の除染成果をあげている精力的な研究者だ。20~30㎞圏の避難準備区域の指定を受けた南相馬市、飯舘村南部を中心に調査を行なう。飯舘村は原発から30㎞の距離にも関わらず放射能値が高く住民全員が避難させられ、6年後の避難解除時には人口の4分の1、1600人が帰還し、内半分以上が余生を故郷で過ごしたい高齢者という現実。田崎氏がガイガー・カウンターを向けると枯葉や大雨で道路に崩れ落ちた土砂、河川敷の砂が400cpm以上の高数値で反応する。彼女はサンプルを大事に袋に入れる。

自ら厳密な値を課している生産者たち
放射能の測定単位は複雑だ。田崎氏のガイガー・カウンターの測量はcpm(count per minute)で、一分間に放射性物質が放つ粒子や光線の量を測る単位。放射能を吸収する除染作用のある物質を探求している。食料品などの安全性の基準で使われるベクレル(Becquerel)は1㎏あたりに含まれる放射能の強さを示す単位。彼女の協力者、南相馬市で自転車業を営む佐藤さんの話によると現在農作物は国の放射能基準値100Bqを超えていると処分されるが福島県は50Bqと厳しい基準を設定。しかし地域の生産者は20Bqと自ら厳密な値を課している。安心して食べて欲しいという涙ぐましい努力だ。

またメデイアで発表されるシーベルトは人体が一時間や一年に浴びる空間放射線量を測る単位で、マイクロかミリ・シーベルト(uSv、mSv)で表される。年間50mSv相当で帰還困難区域とされ、20mSv以下でないと避難解除は出されない。地上1メートルの場所で放射能の空気線量を示すモニタリングポストが点在する。私が南相馬市で目撃した箇所だけでも毎時0.1~0.3uSv、年間で0.9~2.4mSvという低線量になっていた。国連科学委員会資料では自然から受ける一人当たりの年間放射線量の世界平均は2.4mSvと言われるから空気はきれいになりつつある。

庭や畑の地面を3センチ削って袋詰めされた汚物フレコンバックの移動も震災9年後の今もまだ完了していない。1650万個以上のフレコンバックは原発近くの双葉町と大熊町の広さ東京ドームの11倍と言われる中間貯蔵施設に送られ土壌、草木に分別されて30年間眠る。それから先は未定。望遠でよく見ると袋に埋もれるように働く作業人の姿があった。線量は高いはずだ。3月4日、双葉町の帰還困難区域で初めて一部避難解除となった。その理由は浪江駅止まりだった常磐線の双葉駅と大野駅、そして夜の森駅が9年ぶりに復興するからだ。駅へアクセスするための帰還を伴わない〝道路〟が解禁となる。全線開通するのは嬉しいがテレビの映像は整備された道路沿いにブロックされたままの民家を映していた。

ポジティブに邁進する被災者
フレコンバックと同時に目立つのが各地で無数に設置された太陽光パネル。そのキラキラ光る太陽光パネルは福島の未来を物語るようで私はその惚れ惚れする光景にシャッターをきる。田崎氏と再会を楽しんでいた住民の笑顔も忘れられない。今回収取されたサンプルの研究結果にも期待が寄せられている。この日の夕食は佐藤さんの奥さんが腕によりをかけた福島家庭料理。ほっこりした里芋の煮付けが口の中に溶けて筍の入ったおこわとも相性良く美味な食卓となった。ネガテイブを抱えながら福島の被災者はポジテイブにさらに着々と邁進している。


石原牧子
オンタリオ州政府機関でITマネジャーを経て独立。テレビカメラマン、映像作家、コラムライターとして活動。代表作にColonel’s Daughter(CBC Radio)、Generations(OMNITV)、The Last Chapter(TVF グランプリ・最優秀賞受賞)、写真個展『偶然と必然の間』東京、雑誌ビッツ『サンドウイッチのなかみ』。3.11震災ドキュメント“『長面』きえた故郷”は全国巡回記念DVDを2018年にリリース。PPOC正会員、日本FP協会会員。 makiko@makikoishiharaphotography.com











