第61回 日本の小学校教育に世界が注目|カエデの多言語はぐくみ通信
日本の小学校の日常を記録したドキュメンタリーがアカデミー賞にノミネートされました。日本の教育では個性が伸びないと、親子留学やインターナショナルスクールが人気ですが、今、海外が日本の小学校教育の理念を取り入れようとしています。
小学校を舞台にしたドキュメンタリー
今回ノミネートされた作品は、山崎エマさんという監督が作った「小学校~それは小さな社会~」から派生した短編で、「Instruments of a Beating Heart」というドキュメンタリーです。今ならYouTubeで観ることができます。
山崎さんは日英ハーフで、現在はアメリカ在住ですが、他のアメリカ人に比べ、自分がなぜ時間を守ったり責任感が強いのかと自問し、日本の公立小学校で過ごした6年間にルーツがあることに思い当たりました。この映画は世界中で上映され、特に教育大国フィンランドではロングランを記録しているそうです。
映画の中では、小学1年生に対しても「責任感」や「頑張ること」を教えようと、先生がドラムをうまく叩けない子に厳しい言葉をかける場面があり、観ていて少々辛くなりました。しかし、練習してできるようになった子どもが笑顔になると、頑張って良かったね、と思えます。
カナダと日本の学芸会の違い
子どもたちがカナダの小学校に通っていたころ、学芸会があり何度か観に行きました。出し物はお世辞にも上手いといえるものではなく、明らかに練習不足です。日本では、学芸会や運動会など親が来るような行事には、先生に叱られながら子どもたちは何日もかけて練習し、ぴったり息の合った演奏や歌、劇、組体操を披露します。上手な出し物が出てくることを期待していた私は、正直カナダ式に驚きましたが、親たちは大喜びで自分の子どもを褒めていました。
完璧を目指して頑張ることを教える日本の教育と、未完成でも出してしまって楽しければそれでいいカナダ式の教育。カナダの子どもたちの音の外れた演奏を聴きながら、授業時間を潰してまで同じことを何度も練習させることが本当に良いことなのか、と考えさせられた経験があります。
掃除なんてもってのほか
十年ほど前に、日本の小学校にアメリカや欧州の校長が視察に来るという日本のテレビ番組を観ました。校長先生が胸を張って小学生が学校を掃除する様子を紹介しましたが、海外の校長は、これは子どもにさせられないと不快感を露わにしていました。
私はずっと海外の学校でも掃除を取り入れるべきだと思っていたので、この様子を観て海外との意識の壁を感じました。そして今、個人主義の行き過ぎに危機感を持つ海外の教育者が、日本の教育を取り入れようとしています。
TOKKATSUに世界がラブコール
日本の小学校にはあるけれど海外にはないもの、それは特活(特別活動)です。学級活動、委員会活動、クラブ活動、学校行事、日直や当番、そして掃除など、日本人なら馴染みのある活動で、それらを通して、生活の基本スキルとなる、整理整頓、時間厳守、礼儀、団体行動や協力する意義を学んでいきます。
カナダの小学校も多少のクラブや学校行事はあっても、全員で役割分担をしてクラスを運営するという活動はありません。現在、アジア・アフリカを中心に、JICAの支援を受けながら、日本の特活を取り入れる学校が増えているそうで、エジプトでは2万校が採用しているそうです。
他にも、日本の小学校は、水泳や裁縫、料理(栄養)、そして九九など、大人になって困らないように教えるカリキュラムがありますが、カナダにはありません。親が教えたりレッスンを取ったりする必要があります。日本では、このように学校で子どもに生活スキルを教えたり躾までしてくれるので、子どもたちは基本の生活習慣が身に着きますが、カナダでは、経験できない子は生活スキルが身に着かないまま成長します。
個性と協調性は共存できるのか
映画の予告編の中で、ある大学の先生が、「日本の集団性や協調性の高さは世界が真似たいことの1つですが、これは諸刃の剣であることを知っておかねばならない」と言っていました。今までの日本の教育は集団を重んじるあまり、個性をないがしろにしてきたことは歪めません。
しかし、日本では、人はルールを守り、犯罪が少なく、落とし物は戻ってきて、電車や宅配は時間に正確で、アルバイトでも責任感を持って仕事をするのは、教育と文化の賜物でしょう。それは、個人の自由を尊重しすぎてブレーキが利かなくなった諸外国が欲っしているものです。
その一方で、日本人は、迷惑を被ることに敏感で少しのことでクレームを言ったり、和を重んじるがゆえに意見が言えなかったり(映画の中の学級会では子どもたちは活発に発言していますが)、頑張ることと過重労働が混同されたり(先生の働かされ過ぎも)、男尊女卑がなかなか変わらないという負の面もあります。
去年、日本から従妹の娘がカナダに遊びに来たのですが、大学生の彼女は日本の規格を超えてのびのびと育っていました。これから就職ですが、日本の負の文化に影響されることなく個性を持ち続けて欲しいと思いました。
良いところを残そう
日本の学校教育は素晴らしいところがたくさんあり、PISAの学力調査でも世界トップレベルです。それなのに、なぜ個性が伸びないという面だけを強調してダメだというのでしょうか。昔に比べて日本の学校も、だんだんと個を尊重する方向に変わってきているようです。どの国の教育も良い面と悪い面があります。日本の教育の良い面は残して個性を伸ばしていく方法は必ずあると思います。
【参考】 The New York Times, Instruments of a Beating Heart
https://www.youtube.com/watch?v=DRW0auOiqm4&t=805s
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