第60回 海外での日本語教育ってたいへんだ|カエデの多言語はぐくみ通信
海外で子どもに日本語を教えたいと考える永住日本人家庭や国際結婚家庭にとって、バイリンガル教育は大きな挑戦であり、同時に貴重な機会でもあります。私の子どもたちはカナダで育ちましたが、日本に住むことなく日本語を使えるようになりました。振り返ってみると大事なポイントがいくつかありました。
1. 周りを気にしない
日本人の両親なら親子の会話は日本語のみ使用するルールを設ける、国際結婚家庭なら親が自分の母語で子どもに話す「一人一言語(OPOL: One Person, One Language)」の方針を貫く必要があります。周りに遠慮して外では英語(現地語)、家では日本語だと特に小さい子どもは混乱します。私はカナダ人の義家族の前でも子どもたちとは日本語で通していました。
2. 日本語は楽しい
子どもが日本語を学ぶ意欲を持つためには、日本語を楽しいものと感じさせる必要があります。絵本や童謡、漫画、アニメ、ゲームなど、子どもの興味を引くコンテンツを活用しましょう。私の子どもたちは日本の漫画を楽しめましたが、与えるタイミングを逃すと漫画でも興味を示さない子どももいます。日本語での読み聞かせはたっぷりとしてあげてください。私は疲れて読み聞かせに短い絵本や物語を選んでいましたが、反省しています。
3. 嫌いにさせない
「日本語嫌いにさせない」が最も大事なルールです。幼児期は日本語を自由に話せても現地校に上がると一気に現地語が子どもの一番使いやすい言葉になります。また、日本語も読み書きを含む勉強になっていき、子どもの日本語離れが起きます。しかし、多少の無理をさせないと日本語からどんどん遠ざかっていくのも現実です。子どもの性格も考慮し、無理強いせずに日本語を学習させるバランスがたいへん難しく、このバランスに皆さん苦慮します。私は甘いママではないため、日本語を勉強するのは当然のことという空気を醸し出していたと思います。
4. 日本語を使う機会を確保する
海外では意識的に日本語を使う機会を作ることが必要です。日本の祖父母や親戚と定期的にビデオ通話で話すことも有効ですし、日本への一時帰国で日本語環境にどっぷり浸かると、子どもの弱くなりかけた日本語が生き返ります。日本語を話す友達やコミュニティーとの交流も大事です。私は子どもたちにコミュニティー内で日本人の大人とお喋りすることを促し、その後で子どもにお礼を言って最大限に褒めていました。
5. オンラインを利用する
海外で日本語を教えてくれる教育機関が近くにあればいいのですが、都市に住んでいない家族もたくさんいるでしょう。今はオンラインで日本語を教えてくれる学校や通信教育もあります。オンラインでは子どもの興味を維持するのは難しいでしょうが、いろいろな方法を試すしか手がないように思います。私の時代はオンライン教育はまだ主流ではありませんでしたが、幸い地元の日本語教育機関を利用することができました。
6. 長期的な視点を持つ
言語の習得には時間がかかるため、長期的な視点を持つことが大切です。子どもの年齢や成長段階に応じて、柔軟に教育方法を見直しながら進めます。たくさんの難しい時期がありますが、第一の壁は前述したように現地校入学、その次は現地校の勉強が難しくなりクラブ活動が活発になる10歳前後、そして思春期真っ盛りの中学生時代でしょう。ただ、高校生くらいまで日本語を続けると、日本語教育を頑張った親に感謝してくれるようになります。
7. 日本文化を大切にする
言語教育と文化は切り離せません。日本の文化や伝統行事にも触れると日本語を学ぶ意義を理解します。たいへんですが、家庭でお正月やひな祭り、子どもの日の行事などを祝うことで、日本文化への親近感が高まり、日本語を学ぶモチベーションも向上します。同時に日本の歴史や地理について話したりすることも、文化と結びついた学びとなります。
8. 配偶者の協力を得る
国際結婚の場合、配偶者(多くは夫)があまり日本語教育に協力的でない、または協力どころか反対する場合も多くあります。その理由は、子どもがかわいそうだ、または、スポーツや音楽に集中させる時間がない、などです。これは子どもの教育のどこに優先順位を置くかがポイントですが、できれば子どもが生まれる前から夫婦で話し合っておくのがよいでしょう。
9. 日本語ができたらラッキー
親や子どもが日本語教育に苦痛やプレッシャーを感じていると楽しくありません。もし環境や条件、子どもの性格が合わず難しいようなら、しばらく日本語から離れるのもよいかもしれません。子どもにとって最も大事な現地語が守られていれば、「日本語はプラスαでできたらラッキー」くらいに思うのでよいのではないでしょうか。
10. まとめ
海外での日本語教育は多くの挑戦とある程度の犠牲を伴いますが、もう1つの言葉と文化は、子どもにより豊かな視野とスキルを与えることができます。バイリンガルのわが子の姿から、異なる文化や考え方を尊重し公平性を大事にする寛容が見て取れます。とても難しい挑戦ですが、やってみる価値はあるでしょう。
カエデの「バイリンガル子育て相談」受付中!
カエデのマルチリンガル子育てブログ」を読みたい方はこちらへ
▶︎ https://warmankaede.com/
