周防正行監督 インタビュー
「シコふんじゃった。」「Shall we ダンス?」で日本アカデミー賞を受賞し、
海外でも評判の高い周防正行監督が登壇
トロント日本映画祭スペシャルインタビュー 周防正行監督
これまでにトロントへ何度か訪れたことがあり、今回改めてモザイク文化とはこういうことだと感じた周防正行監督。TJFF(トロント日本映画祭)の最終日、TORJA編集部は監督初のミュージカル作品となった今作の「舞妓はレディ」に関する制作エピソードやこれまでの映画作りのきっかけについて、さらに大学で映画監督への夢を見つけた監督から夢や目標に出会うためのアドバイスなど色々とお話を伺った。
■日本での公開は昨年終わり、フランスのJapan Expoでも公開された今作の「舞妓はレディ」。北米ではプレミア上映だと思いますが、ヨーロッパと日本の方の反応の違いはどうでしたか?
僕、フランスは行ってないです。だけど、(主演の)上白石萌音さんがパリでの上映後「おおきに」と言って帰る方がいたという話をしてくれたので、それはとても印象に残りました。あと、今回字幕の評判が良くて難しいと思っていた方言を上手く字幕で伝えて下さったので、海外のお客さんにも安心して見てもらえると思います。また「SAYURI」とかハリウッド映画と違う今の日本の京都文化を伝えたいと思っていたので、こちらでもそれを期待しています。
■題材を得るきっかけや刺激、タイミングなど何か特別なものはありますか?
驚きです。「ファンシイダンス」というお坊さんの映画は、現実の修行僧の姿を知った時の「えっ、若いお坊さん?」という驚きがスタートです。社交ダンスも刑事裁判、舞妓さんの世界だって同じです。僕の映画作りは「そういう世界があるのだ!」という驚きがスタートになっていますね。
■今作は今までと違いミュージカル形式ですが、難しかった所とミュージカルだからこそ楽しめた所はありますか?
舞妓さんの世界を伝えるのにどういう伝え方があるのだろうと考えていた時に、お座敷って全部歌と踊りが付き物でその楽しさを伝えるのにミュージカルはありだと思いました。それで、シナリオを書きながら曲も作って、皆に歌のレッスンをしてもらって録っていく。そういうことが難しいというより楽しかったです。特にミュージカル俳優ではない、僕達がその歌声をほとんど知ることのない役者達が「え、こんな風に歌うの」と楽しんでもらうのが狙いでした。キャスティングする時も歌が上手いという理由ではなく、まず脚本の中に出てくる登場人物のキャラクターに相応しいと思った人にオファーして、その時に「実は歌ってもらうのですけど」と。だから僕自身もどんな風にその人達が歌うのだろうという楽しさがあったので、今回は本当、撮影自体が楽しい映画作りでした。
■大学在学中に映画関連の講義を経て映画監督を目指されたとお伺いしていますが、それまでに何か具体的な夢があって大学に入られたのでしょうか?
大学は自分が何をしたいのか知るために行ったので当時夢はなかったです。そもそも、映画監督は人間的に優れた人がやるもので、僕は映画を見ることは好きだったし映画から色々な事を学びたいと思っていたけれど、作るという発想は全くなかったですね。たまたま、大学で映画表現論という授業に出会うことで、映画を作ることを自分でイメージするようになりました。
■映画監督になりたいなど自分の目標を見つけた時にどう始めればいいかアドバイスはありますか?
映画監督はそれまで映画会社が助監督を募集して試験を受けて入るのが日本のスタンダードだったけど、撮影所システムが崩壊してからは、こうすれば映画監督になれますという道がなくなりました。今なら普通の一眼レフでも映像が撮れるから、自分で作ってユーチューブから、みたいな道が出来ちゃうじゃないですか?だから、その時代によってやり方も違うし、どうしたらいいのか自分で考えてやってみるしかない。手当たり次第に、思いつく限りのことをやってみるのみです。皆困るのはやりたいことが無いから、全てをなげうってでもこれをやりたいというのが見つかった人はかなりの段階にいる人だと思います。僕もそうだったけど、自分が今何をやるべきなのか分からない人が多いので。やりたいことが見つかったら、その為にどうしたらいいのだろうと具体的に考えていきやすいです。
■大学でやりたいことに出会えた周防監督から読者へ向けて、やりたいことに出会うきっかけ作り、それを見つけた時にどういう心構えで向き合えばいいのかアドバイスをお願いします。
僕の時代で既にそうでしたが、色々な情報があってその世界のことを分かった気になってしまいがちな人が増えていますね。本当にその世界に入ってみないと分からないことはたくさんあります。僕でもこれが自分が一番好きなことでやるべきことだと分かっているわけではありません。本当に自分にふさわしいことや好きなことを明確にこれだ!と思っている人はごく少数だと思います。草刈民代さんは8才でバレリーナになると決めて、バレリーナになったわけですが、それは稀だと思うのです。普通は、やるべきことがそう簡単に見つかるわけがないんです。
仕事って人に必要とされて初めて仕事になるのであなたじゃなきゃダメと言われることも大切です。自分は皆に何を必要とされているのかという所から好きじゃないけどいつもこれ頼まれるとか、そういうことから自分の生きていく道が見えてくることもある。だから、こんなこと大したことないとか、好きでもないと簡単に思わないで欲しいです。よく言うのは、「世界はあなたが考えているより広い」。本当に色々な人がいて、色々な仕事があって、色々な考え方があるから、自分が生きてきた経験の中からこんなものだと決めつけるなんてとんでもない。世界はもっと広い。だから何にでも向き合ってみればいいと思います。
プロフィール:1956年10月29日、東京生まれ。立教大学文学部仏文学科卒。在学中に映画監督になることを目指し、助監督時代を経て、1989年、一般映画監督デビュー。これまでに「シコふんじゃった。」、「Shall we ダンス?」で日本アカデミー賞を受賞。「それでもボクはやってない」では2007年度キネマ旬報ベスト・テン日本映画部門1位に選ばれ、「終の信託」は毎日映画コンクール日本映画大賞を受賞している。