山口晃司さん・笛木良彦さん インタビュー
『「こうじゃなきゃいけない」というものはないはずだから。』
新しい伝統音楽の形を奏で続ける日本の若侍達。
4月16日に日系文化会館で行われた北米ツアー「新しい日本の響き」のトロント公演で、今までの伝統音楽とは違う新しいスタイルでの演奏を披露して観客を魅了したお2人。オリジナル曲から、日本の童謡や歌謡曲、更には洋楽のカバ1曲までと幅広い楽曲ジャンルに、活気みなぎる演奏の山口氏と、クールながらも繊細かつ豪快な演奏の笛木氏という各個性がそれぞれ輝くこのお2人のコラボレーション。対照的な性格を持ち合わせた二人だが、固定観念に縛られず心から音楽を楽しみながら演奏しているという共通点も見える。そんなお2人に伝統音楽をはじめ、様々な音楽観をお伺いした。
■ 違う楽器同士、一緒に演奏をしていて魅力と感じるところ、また難しいと思うところは何ですか。
山口: 僕は、魅力は感じるところはありますが、難しいと思ったことはあまりないです。僕が三味線でメロディーという立ち位置であれば、太鼓はリズムという立ち位置として確立された音楽の仕組みがあるのですが、やはり、伝統楽器なので、互いにメロディーの立ち位置にもなれるし、リズムにもなれる。僕たち2人の場合は、役割分担をするところもあれば、していないところもあって、お互いの役割が入れ替わっているところもあると思えるのがすごく魅力的なところじゃないかなと思います。インプロビゼーションとして毎回毎回が違うセッションだと思って、僕は挑んでいます。
笛木: どんな楽器でもそうだと思うんですが、立ち位置というものを考えながらやっています。ギターとドラムだったら、大体それぞれがやらなければいけないことが想像がつきますよね。それと同じような感覚です。なので、僕的には難しいことは何もなく、やっていることを客観的に遠くから見ているというか(笑)。ただ、どういう風にすれば1番よい結果となるかはいつも考えるようにはしています。
■ ご両人とも伝統音楽家だけでなく現代の音楽家の方ともコラボレーションをされていますが、その時に気をつけていることはありますか。
山口: 他のアーティストの方と演奏する時は、先ほど笛木さんが言っていたように、なるべくその立ち位置に沿うように、要望に沿うようにするようにしています。例えば、三味線と演歌の共演であれば歌の方が主役なので、僕が目立ちすぎてもいけないだろうと思いますし、そこは、ニーズに合わせます。でも、僕としては、どういう形であっても「山口晃司」らしさはどうしても出てしまう部分はあると思います。
笛木: 僕はそんなに目立たなくてもいいと思っています。太鼓だけで演奏するときには、西洋のドラムセットのように太鼓を並べることはあっても、シンバルは必要ないなと思っていますが、和太鼓のセットにシンバルがあるのは晃司君が欲しいと言うからです。(笑)晃司君と演奏する時は、晃司君のリクエストでその音が必要だと言うのでいつも持っていっています。
山口: シンバルの音が僕の頭で鳴っているんですよね。(笑)オリジナル曲を作るときもそうですが、自分の頭の中で全部音楽や曲が鳴っていて、頭の中で鳴っている音がある時はどうしてもその音が実際に欲しくなってしまうんです。(笑)頭の中で聴こえる音を無視したり別の方法で実現するなどの工夫をするのではなくて、限りなく実現させていくことで自分の理想には近づくだろうと思っています。「こうじゃなきゃいけない」というものはないはずだから、やっぱり、どんどん新しいことにチャレンジしていくといいのかなと思っています。
■ 普段はどのような音楽を聴いていますか?
山口: 僕が1番大好きなアーティストはL’Arc-en-Ciel です。曲や世界観、表現力もパフォーマンスもいろいろな幅があって全部カッコいいので、すごく大好きです。POPはあまり聴きませんが、ラウドやミクスチャーなどのハイブリッドロックを普段は聴いています。日本のアーティストだと、ONE OK ROCKとか地元・名古屋出身のSPYAIRとか。後はビジュアル系ですね。GACKTとか、the GazettEとか、DIR EN GREYとか。だから、実は三味線は自分の曲以外、ほぼ聴いたことがありません。(笑)
笛木: 僕は、もっと古いロックですね。50年代、60年代とか、The Allman Brothers Band、Cream 、Led Zeppelinとか、後はカナダでいえばThe Band とかがよくiPhoneに入っていて聴いています。彼らが元々やっていた音楽は、ジャズやブルースで、まだロックが確立されていない時代だったので、そういう意味で自分に当てはめると、トラディショナルなことをやっていて次の新しいジャンルを作ろうかという所が似ているのかなぁと思います。その頃の人達にとってはジャズやブルースがバックボーンになっていたので、今の人たちとはロックの感じが違う。テクニックもグルーブも今の人たちよりも明らかにうまい。バンドとして、いわゆるセッションミュージシャン・スタジオミュージシャンみたいな行動をしていた人たちで、そういう人たちみたいになりたいなとは思っています。結局は、過去にさかのぼって勉強している感覚ですかね。自分としては新しいことをしているつもりはなくて、昔の人ほど新しいことをしていたと思います。
■ 指導者としても活躍されているご両人ですが、海外で活躍している日本人の一先輩として、トロントで夢を追いかける人たちにメッセージをお願いします。
山口: 僕が夢追い人達にいつも言うことは、とりあえず全力で楽しんだ方がいいということだけです。全力で向かっていると、様々な障害が起こってきますが、それら障害を楽しいと思えるかだと思います。全力でないとそのような障害は起こりませんから。とことんやって叶わなくても、頑張ったという努力の証があればそれでいいんじゃないかなと思います。夢追い人というのは、夢を追うのが楽しいのだから。夢を叶えても、きっと次の夢をまた掲げてそれに向かって追いかけ続けるのが夢追い人だと僕は思います。
笛木: 僕は「夢」ではなくて、「目標」にした方がいいかなと思います。この仕事を何年もしている中で、好きだけじゃだめだなと思うようになりました。いつ辞めてもいいという覚悟を持っていますが、好きなものが仕事になってしまったので、仕事をするからには報酬に見合う仕事をしなければならない。自分の好きなことをしているだけではプロではない。プロであるからには、クライアントから求められるものを提供してお金をもらうことです。自分の本当に好きなことができるのは、20年・30年先だと思っていますから、それに向かって勉強しているし、クライアントの要求に応えるためにも勉強している。若い頃に思っていた以上に今いろいろなことを吸収しようとしています。「夢」はないが「目標」はある。では、その「目標」のために何をしているか。それに対して「意味」を持って行動しているつもりです。自分が目標を達成するには、自分がどうすればいいのかということを考えなければならないと思います。
山口晃司
三味線の先生だった祖母の影響を受け幼少より三味線を始める。国内で数々の賞を受賞し、現在は日本全国に「山口晃司三絃会」という三味線教室を展開し、津軽三味線を教えている。また吉田兄弟の弟・吉田健一氏がプロデュースする「疾風」という三味線グループとしても活動する他、細川たかしをはじめとした演歌歌手との演奏や、TVCMや番組音楽も手がける。
笛木良彦
幼少より和楽器に慣れ親しみ、和太鼓邦楽演奏集団「打歓人」の旗揚げに参加後、プロ活動を始める。以降ソロコンサートやワークショップを通して、日本国内外で和太鼓の魅力を伝えている。多種の邦楽グループやユニットに参加する傍ら、和洋問わない様々な音楽ジャンルのミュージシャンやエンターテイナーとのコラボレーション演奏を行っている。