【前編】 ランナー相馬枝里子さん × マッサージセラピスト青嶋正さん|プロアスリート対談


資格取得後、神奈川県内の病院に3年勤め、東日本大震災後に地元山形に戻り小中学校の臨時の栄養教諭として1年勤務する。その後、東京都内の製薬会社に勤務し、結婚を機にアメリカそしてカナダに移住。現在はカフェで働きながら、子どもたちにカッコイイ走り方や食育などを伝えているほか、時間を見つけながら元陸上長距離選手の夫と楽しく走っている。
幼い頃からスキーや水泳、陸上、そしてバドミントンなどさまざまなスポーツをしてきた相馬さん。中学校時代はスキーと陸上を掛け持ちしながら競技を続け、高校時代から本格的に陸上競技を始めたという。前編となる今回は陸上競技時代を振り返ってもらいながら、青嶋先生がアスリートの育成のために何が重要かを切り込んで行く。
青嶋: 長年ランナーを続けていると思いますが、始めたのはいつですか?
相馬: 元々はクロスカントリーをやっていて、東北の田舎だったので部活は陸上部しかなく、夏は陸上そして冬はクロスカントリーという感じだったのですが、フォーカスしていたのは小さい頃から続けていたクロスカントリーです。ランナーとしては、中学時代から全国標準の記録を突破できるようになり、全国都道府県駅伝のメンバーに選ばれたりして、高校から本格的にスタートしました。
自分自身は長い距離が良いと思っていましたが、コーチから800メートルを勧められました。だけど全国レベルにいくと、短距離選手のようなスピードがないと勝てないわけで、1年生の時にインターハイに出場できたものの予選まででした。そこからやっぱり長距離だなということで3000メートルに変更しました。
青嶋: 当時の練習方法はどのようなものでしたか?
相馬: コーチの家に下宿していたのですが、まずそこで自主的な朝練が始まります。走る先輩が多かったのですが、30~40分程度で5~6キロくらいでしょうか。そのあと、学校に行って再び朝練が始まります。これも5~6キロ程度ですので、朝だけで12キロ程度走っていたことになります。午後は、筋力トレーニングなどから始まるのですが、当時はよく分かっていませんでしたが、今思えば「そこを使いますよ」という合図だったのですね。
青嶋: まずいろいろなところ動かすということですね。マックスで一気にやる前にまず動かして、身体を意識させてるわけですね。
相馬: はい。8項目くらいを30~50回ずつ程度行い、そのあとに本気の練習が始まります。1000メートルのインターバルをスピードレースであれば5本だったり、7~10本だったりします。場合に応じて、6000だったり8000だったりしましたが、夏合宿は1万2000メートルの時もありました。
青嶋: 話を聞いていてまず思ったのが、練習はボリュームが重要視されていたのでしょうか?
相馬: そうですね、コーチによると思います。私は量より質というタイプなんですが、量という人もいます。うちの夫なんかは絶対に量を走りこまないとダメだと言います。

青嶋: 今お話いただいたのは、走るとか、鍛えるということだと思うのですが、コンディショニングやストレッチのようなことはどうでしたか?
相馬: 筋トレの方が多かったと思いますね。練習が終わった後の補強の動作の中にストレッチも基本的に入っているような感じだっと思います。私自身の話をすると、フォームがそこまで悪くなかったんです。なので、走った後に柔らかくなるんですよ。そして、怪我をしたことが一度もないんです。
青嶋: 負担がかからないからですね。そして筋肉に十分な強度があるということですね。練習に耐えられるくらいの強度があるから、逆にいうと練習をやった後くらいがちょうどアクティベートなのかもしれないですね。でも、周りには怪我する人とかいましたよね?
相馬: はい、いました。ふくらはぎをよく触らせてと言われていたのですが、みんなから羨ましがられていました。他の人は大抵パンパンになっているので。
青嶋: 嫌な言い方をしてしまうと、動きの中でアクティブモーションがなんとなく行われているけど、意識的にこの筋肉をこうしようということは、ウォーミングアップにしてもクールダウンにしても無かったということですよね。ある程度、トップレベルでやっているチームなのに、そういったことがないということは不思議に感じます。私の感覚でいくとスピードや瞬発力が要求されてあれだけ身体を使うわけだから、相当念入りにコンディショニングをやらなかったらこわいんじゃないかなと思いますけどね。
相馬: 高校はスポーツに力を入れていて、ある程度走れるトップの人材が集まってくる環境でした。だから、どこそこをコンディショニングしようという考えはなく、ある程度できてしまうんですよね。走っていると記録が伸びて行く。走れない人を強化するのではなく、もともと走れる人を強くするといった感じでした。
青嶋: 言っていることはわかります。ある程度素質のある人たちなので、走るという環境を提供してあげれば、年齢的にも勝手に伸びていくんでしょうね。
相馬: そうですよね。そう思います!
青嶋: 失礼な話、今の練習の話を聞くと、何にも頭を使っていない感じがします。ただ走る!そしてただ走らされている、心肺機能を鍛えているだけに感じます。逆にトップが集まってきている環境だからこそ、一定のレベルを維持できてしまうんでしょうね。コーチは、指導者としての引き出しが少なかったのかもしれませんね。自分が現役時代に「この練習でやれたのだから、みんなもこれでいけるだろう」みたいな感覚になっている引き出しの少ないコーチを私もたくさん見てきました。
相馬: はい。例えば「スピードが出ない=つま先から入っていない」ということに終始するのですが、つま先だけで走ってもスピードが乗らないんですよね。走れる人は足首がどうこう、手の振りがどうこうではなく、一直線に真下に身体が乗っているのです。
青嶋: 結局それがパワーを生んでバランスもいいということなんでしょうね。一番インパクトを持って足に対して強度が出せるポジションかつ変なところに負担がかかっていないので、結果的に怪我もしにくいということなんですよね。
相馬: はい。でも走れなかった人はずっと走れなかったです。最後まで。
青嶋: ここまでの話だけでもたくさん問題点が浮かび上がってくるのですが、仮にコーチの引き出しが一つでも良いこともあるわけですから、伝え下手というのがまず一つの問題ですよね。そしてなかなか走れない人は理解力不足というより、土台があったほうが良かったということです。つまり身体ができていなかったんじゃないかと思いますね。
「走れる=身体ができている」ということで、ストレッチなんかほとんどしたことなくても、たまたま生まれつき関節の可動域が長くて、いい筋肉を持って生まれてきたために、16~17歳くらいまでなんとなくいけちゃう人っていますよね。
そしてトップでない層の人たちにも土台から教えてあげれば、走れるようになったかもしれないし、そこに逸材がいたかもしれないということなんですよね。ランナーやバレリーナの方などこういった対談を通して私の考えや情報を共有できたら良いなと思っているんです。
青嶋: 学生時代はコンディションイングという考えは全くなかったということだと思いますが、今の陸上界というのはもう少し進化しているのでしょうか?
相馬: どうなんでしょう。怪我が多いという原因には走りすぎだったり、筋力不足だったりということはあると思います。あと体重制限も看過できないと思います。私たちの時は、練習前と練習後にマネージャーが体重をチェックし、コーチに報告されていました。
青嶋: その目的はなんだったのでしょうか?基準があるのですか?
相馬: 軽くなければ走れないという考えに基づくものです。私は太る体質ではなかったけど、それでも絞れ絞れ言われてきました。でもレース前は内緒で1キロくらい増やしていました。そうじゃないと踏ん張れないんです。もちろん基準なんてありません。ただ、走りが重いと言われるだけです。でも、それは生理の時かもしれないし、テスト勉強で寝不足だったり、疲れが取れていないかもしれないわけで、それを考えずにただ重いと。高校生の女子なんかは成長期ですし、体重を増やすなと言われて貧血になってしまうわけです。全国的に「鉄剤注射」は問題として指摘されたと思います。
【鉄剤注射問題】
中学・高校の陸上長距離・駅伝の強豪校では、選手の体重を管理するため食事量を制限するケースが多く、その結果、選手に貧血が生じ、応急対処するため、血液中で酸素を運ぶ赤血球の材料である鉄を血中に直接注射する手法が横行していた。鉄の毒性から、内臓疾患や骨がもろくなるなど様々な悪影響を引き起こす可能性が指摘され、2019年に日本陸連は、中高生の長距離選手に対する鉄剤注射の不適切な使用が後を絶たない問題に対処するため罰則規定を適用、「不適切な鉄剤注射の防止に関するガイドライン」を発行した。
青嶋: 話を聞いていて思い出したエピソードがあります。あるスケートコーチがトロントで合宿をして小学生くらいの子どもたちを引き連れてきたときに、激しい議論をしたことがあります。練習もハードで全員が疲労骨折寸前という状態に加えて、食事では「キャベツダイエット」を行なっていたのです。違和感しかなくて、プロテインはどうするんですかと議論しました。適量のプロテインとエッセンシャルな栄養素を補うことで痩せることが可能だという気づきを子どもたちに気づかせてあげようとしました。
この手の問題は本当に深刻ですよね。ランナーでいうと太っている人は走れない理論、スケートでは太っている人は飛べない理論というのを見聞きしたことがありますが、僕はスポーツ医学の専門家でもアスリートでもないけど、そんなのは絶対にありえないですよね。
【キャベツダイエット】
ダイエット中でも満腹感だけではなく、食物繊維やビタミン類が豊富なためダイエットにおすすめと言われている。しかし、キャベツ単品で食事を済ませてしまうのは体に良くなく、主食・主菜・副菜のそろったバランスの良い食事の中に、副菜のひとつとして取り入れることが重要である。とくに、エネルギーとなる糖質や、筋肉のもとであるたんぱく質を十分に摂ることは大切で、これらが不足して筋肉量が低下すると、代謝が下がり痩せにくい体になるとされ、そうなると食物繊維やビタミン類も本来の働きを期待することができない。












