AI時代のクラフトマンシップの再評価|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第84回
AIが奪う新卒の仕事、輝き出す「手に職」の時代へ

AIの急速な発展とその社会実装により、アメリカの新卒者の失業率が過去類を見ないほどに上がっているそうです。特にホワイトカラーの職種において、知識や経験を持たない新卒者に与えられる仕事は、データの打ち込みやリサーチだったわけですが、AIの方が早く正確に、さらに安くできるとなると、確かにこれは避けがたい流れなのかもしれません。
チャット型の生成AI「Claude」を展開するAnthropic社の創業者ダリオ・アモデイ氏は「5年で新卒者の仕事の半分が消える」とまで警鐘を鳴らしています。
このコラムでも昨年、「見直されるブルーカラー」というタイトルで記事を書きましたが、溶接工や電気技師、配管工なんかはその希少性と専門性によって、ホワイトカラーよりも給料が高い事例がたくさんあります。
また、「IT土方」というような皮肉めいた言葉が示すように、一部のホワイトカラーの職種が薄給・長時間労働の象徴になりつつある中で、さらに事務、データ分析、執筆や資料作成などの業務の希少性は、生成AIによってさらに低下していくでしょう。
もちろん、AIは人間の仕事を奪うわけではなく、AIと人間が補完的に業務を行うようになるだろう、というような専門家の声もあり、長期的な雇用の影響という点ではまだまだ不透明ではありますが、職人的、クラフトマンシップ的な価値観の見直しが進みそうです。
効率化や省人化は企業に利益をもたらすので、経営判断としてのAIの導入は全く正しいと言えるのですが、実は、飲食業界でも職人の育成、クラフト志向というものが再評価されてきています。
「手間」が武器になる時代:職人仕事がもたらす新たな競争力
丸千代山岡家が運営するラーメン山岡家さんは、全国展開しているにも関わらず、かつて店舗展開をする上でセオリーとされていたセントラルキッチン方式という常識に逆らって、スープやチャーシューの仕込み、ネギのカットといった業務を各店舗でおこなっています。
また、最近カナダにも出店した丸亀製麺さんも、職人の育成をおこない、麺の製麺はすべて店舗でおこなっています。
これは当然、ライブ感やエンタメ性、商品の確からしさの演出という役割も果たしますが、冷徹な効率化社会の中での戦略的な脱工業化と言うことが出来るでしょう。
ほとんどのビジネスは、モノや情報を仕入れて、それに付加価値をつけて販売することで利益を得ています。加速度的にAI時代に突入する中で、どのように付加価値をつけるのかというプロセスが大事なことは明白で、さらに言うと、非効率であること自体がラグジュアリーであり、めんどくさいけどちゃんとやる、というような愚直な態度こそが価値を発揮するのではないかと想像しています。
この職人、クラフトマンシップへの回帰は、資本を持たない中小企業や個人店にとって大きなチャンスです。これまで、労働集約による効率化や大規模化の面では、どうしても資本力のある大手に太刀打ちできないのが現実でした。
しかし、人が手をかけて作るという価値が見直される中で、小さな店が「非効率」を逆手に取った武器として活かせるようになったのです。毎日スープを炊いて、チャーシューを仕込んで、状態を見ながら微調整を重ね、大量生産では真似できないひと手間の物語はSNSとの相性も良く、顧客との関係性の構築にもつながります。
今後、さらにAIが進化していく中で、手仕事やコツコツと重ねる地道な努力が選ばれる理由になることを願っています。そしてその流れが、若い人や次の世代にとっての希望や誇りになれば幸いです。






