カナダでゲーム屋三昧 #21

たった8年で世界1のホテルチェーンに成長

Airbnb(エアービーアンドビー)というサービスを聞いたことはありますか?個人が自分の部屋をホテルとして貸し出せるソーシャルレジデンシャルサービスです。この不思議な社名はAirBed&Breakfastからきています。正直…絶対流行らないと思ってました。ホテルの事業者登録もしていない、単なる一個人の部屋に、レビューがついているという安心感だけで泊まる?相場より安いからという理由で?

見ず知らずの他人に依頼できることといえば、Websiteをつくってもらったり、翻訳をしてもらったり、ビジネス的な業務委託であれば可能でしょう。ただ食事であったり、特に寝る場所という最もプライベートな部分においてまで、ソーシャルなサービスは本当に成立しうるのか?甚だ疑問でした。

2008年に出来たこの会社、いまや時価総額$25B(約3兆円)と、任天堂やパナソニック、日立製作所といった日本Top30にランクインする規模。たかだか10年足らずで世界190か国、34,000都市に150万室(の貸し出しをする個人オーナー)を擁し、いまや世界有数のホテルチェーンのヒルトン、マリオットの2倍以上となる部屋数。これまで4000万人の宿泊客を迎えて、「世界最大のホテルチェーン」ともいえる状態にきました。

Facebook、Uber(http://torja.ca/business/namco-007/)などソーシャルなつながりで資産をもたずに「コネクト」自体をサービスとする事業が、21世紀に入って飛躍的に伸びています。それぞれ5年程度でUSAの1/4を占めるところまで到達し、その波及規模・スピードたるや空前絶後。デジタル時代において、「Fastest takes all」な特徴が際立って出てくる時代になりました。

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とりあえずやってみた

驚くべきは、これだけの規模がありながら、周囲に経験したことがある人がなかなか見当たらない国、ニッポン。それもそのはず日本全体でのオーナーは15年4月時点で約8000室、この1年で3〜4倍増えたとはいってもパリの1/5にも満たず、世界各国の50万人都市と同規模の室数という状況。なんとも日本らしいですが、まあ一言でいうと、まだ流行ってません。日本全体で150万室の旅館・ホテルがあるので、まだ全体の0.5%。

ということで、ひとまず、やってみました。チキンな自分としては、ひとまず日本語の通じる日本でデビュー戦。場所は観光都市、鎌倉。まずログインして検索すると10数件、価格は1泊2000円から1万円以上と多様。オーナーの写真、間取りなどを確認。チキンな自分としては、女性の部屋になんて曲がりなりにも泊まれない…ということで同年代とおぼしき男性宅を選択。レビュー7件ついてますが…英語のみ。日本人が泊まった形跡はない。

挨拶と旅行意図などを書いて予約申請をすると、オーナーの審査があります。え、自分が審査されるの?と思いましたが、まあ確かに何者か分からない人間を泊めるストレスは客よりもホストのほうが大きいものでしょう。Facebookで登録しているので自分がどんな人間でどんな関係性をもっているか、思えば一発で分かりますよね…

10分もしないうちに登録した携帯にテキストでメールが入り、駅への到着時間などのやりとり。丁寧に道案内のメールもしてくれる。非常に不思議な感覚で、ホテルに泊まりに行くはずなのに、待ち合わせのように時間や場所のすりあわせをしなければなりません。きちんとした対応をせねばと思い、ドギマギしてしまう。「お客様」という感じでいくよりも、本当にまだ会って日も浅い友人宅に泊めてもらいにいくような感覚。

通された住所、何度も何度も確認しました。え、これ、だよね?どうみてもアパートの一室。普通に独り暮らしの大学生が住むような部屋です。挨拶を交わし、室内に通されると、2DKの一室。なかなかどうして快適な間取り、モノがほとんどないのでかなりスッキリとした畳の部屋。ただふすま一枚で隔てているので、隣ではホストの息遣いまで聞こえます。

思いがけぬ出会い、スーパーなUXサービス

真夜中まで遊んで帰宅したため、翌日朝に一緒にお茶を飲みながら、自然と身の上話になりました。聞くと、ホストもゲストとしてAirbnbを使っており、1か月前にはじめたばかり。登録に必要なものはほとんどなく、写真を撮ってサイトにUPして終了。誰かに会ったり、部屋をチェックされたりすることもなく、初期費用はゼロ。いきなり「自分の部屋に泊まれるよ」事業を開始できます。

Uberもそうですが、結局Facebookなどのように「すでに出来上がっている社会的関係性そのものがその人の保証」となり、レビューでの蓄積をみればそんなに危ないことはできないのです。ホストもゲストも。プロのカメラマンが部屋を撮ってくれるサービスもあるそうですが、最近ホストになりたい人が殺到しているとかでスケジュールも1か月待ちの状態。

物損保険なども自動でかかっており、宿泊費も宿泊費がはいるたびに毎日でも決済される仕組みとのこと。なにより秀逸なのは、「相場の価格設定メカニズム」。Webサイトをみると、その周辺の価格設定をみながら、いくらくらいにすることをお勧めするようなメカニズムがあるのです。同じような成功法則をもつのが楽天。楽天がEコマースとして成功したのは、オーナー単独での自助努力にまかせず、きちんと情報をもつプラットフォームである楽天が市場情報を伝え、きちんとオーナーの商品価値・事業価値をプロモートする仕組みになっている。

今回1番楽しかったのはホテル体験そのものよりも、そこで生まれるオーナーとの予想もしない接点でした。以前は地方で議員秘書をしていたという彼は「ローカルからグローバルへ」をテーマに、福祉・介護のコミュニティケアを志していました。どんな経験をもとにこのビジネスをはじめて、日々どんなユーザーがきて、どんなやりとりをするのか。禅や民俗学を愛する彼は、色々な思いを抱えて、人生の岐路を経て、いまこうして自分と会っているのだなあとじんわりとした縁を感じ、なによりこうした「出会い」も含めたサービスというのは20世紀型のビジネスにはありえなかった話だなと思います。

自然と自分のなかで「ホスト」が「彼」になっているのが分かります。20世紀で何か商売を立ち上げるには「既定のルールに基づく」必要がありました。安全保障のための許認可制度といったものです。それは必然的に入口を狭めるものになってしまいます。

けれどこうしたソーシャルサービスは、入口を出来る限り緩めて、むしろプロセスにおいて偽悪的なものを「自動的に排除するプロセス」を埋め込んでいる。それがレビューであったり関係性の可視化であったり。オンライン上にいわゆる「ムラ社会」的な連帯をつくることによって、お互いの信頼関係の構築コストを極限まで下げてくれている。

21世紀におけるビジネスはこういったことがデフォルトで求められる時代になるのではないか、と思います。ちょっと病みつきになる魅力をもつAirbnb、さすがは世界一のチェーンだけあります。他に代替できない圧倒的な付加価値をもっています。おすすめです。

左)2DKの一室を貸し出したAirbnbの「ホテル」右)ホストとゲストの距離の近さはこれまでの常識ではありえません

左)2DKの一室を貸し出したAirbnbの「ホテル」
右)ホストとゲストの距離の近さはこれまでの常識ではありえません


nakamura-atsuo中山 淳雄
Bandai Namco Studiosのバンクーバー法人にて、欧米向けモバイルゲームの開発スタジオ責任者。2004年東京大学西洋史学士、2006年東京大学社会学修士、2014年Mcgill大学MBA修了。(株)リクルートスタッフィング、(株)ディー・エヌ・エー、デロイトトーマツコンサルティング(株)を経て現在 に至る。著書に”The Third Wave of Japanese Games”(PHP, 2015)、『ヒットの法則が変わった いいモノを作っても、なぜ売れない? 』(PHP、2013)、『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』(PHP、2012)、他寄稿論文・講演なども行っている。

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