怪我をしたくないアスリートへ|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第103回】
木原三浦ペアが、イタリア・トリノで開催された、グランプリファイナルで見事優勝して世界一となり、またまた我が家に金メダルを持って来てくれました。スケートカナダ・NHK杯の金メダルに続き完全優勝で2022シーズンを終える事が出来ました。これに驕ることなく、「りくりゅう+TADチーム」は2023年春の世界選手権へ向けて気を引き締めていきます。
定期的に訪れるアスリートやバレエダンサーをはじめとした色々なフィールドのプロフェッショナルな患者さんは、体に不調があって来るだけではありません。自分がプロフェッショナルであるために、必要であると感じてコンディショニングのルーティンに組み入れてくれています。
体に痛いところもないのに何でマッサージセラピストにコンディショニングしてもらう必要がある?
というのは素朴な疑問だと思うので少し説明します。
そもそも、体に痛みや違和感がある状態で自分の100%の実力を発揮することは100%不可能である事を理解しなくてはいけません。例えば、腰に長年問題を抱えるバレリーナの動きが100%でない事は、レベルの高いバレリーナの場合バレエの先生でも見破るのが難しいです。なぜかと言うと故障を抱えるバレリーナは、故障した箇所を使わずに周りにはバレない程度に踊るくらいのテクニックは持ち合わせているからです。
しかし、正確でない誤魔化した動きは体のどこかに負担をかけることになり、数年の時を経て大きな問題を引き起こします。このような状況は、いつのまにか本人にも意識されずに自動的に行う防衛反応の様なものとなるので大きな問題が発生するまで見逃されてしまうのです。現実問題として、自分が怪我で休めば現在の自分のポジションが他人に奪われてしまうというような心理的要因も問題点を水面化にしてしまう要因です。つまり表面的に上手くいっているように見える動きも体が100%でなければ、100%ではあり得ないし誤魔化しは効かないのです。
私の日々取り組んでいるアスリートをはじめとしたのコンディショニングというのは、この様な厳しい長年の経験をベースにした、出来るだけコンディションを100%に近づけて怪我を予防して良いパフォーマンスを生み出すメソッドです。怪我をするリスクを出来るだけ取り除くには怪我をするパターンを理解するのが有効です。
①繰り返し動作
②アクシデント(衝突、転倒など)
③関節疲労(腱や靭帯)
④筋肉疲労
⑤跳んだり跳ねたりの衝撃の蓄積
などです。
①~⑤のタイプの怪我を防止するのに、まずやるべき事は体の柔軟性を上げる事だと考えています。「xxxの筋肉が弱いから問題が発生するのでxxxの筋肉を鍛えて怪我を防止しましょう!」という考え方もありますが、過去の経験上その方向で取り組むにしても、柔軟性がなければ問題点がマスクされたままで有効な対策とならないと考えるので柔軟性を最優先するアプローチを行います。
柔軟性を向上させるのに一番大切なのは、有名なインストラクターを見つけて毎日レッスンを受けることではなく、まずは自分の骨、関節、筋肉の構造や仕組みに沿って体を動かしたり観察して自分の体のコンディションを理解することです。
ここを理解すると日々の練習やトレーニングの安全性や効率が飛躍的に向上して問題点を自分で解決出来るようになります。これがTORJAのコラムを通して皆さんに毎月お伝えしているTADメソッドのコンセプトです。
そんなこと言われても解剖学も勉強した事無いのに出来るわけ無いと言われてしまいそうですが、実際に皆さんに行ってもらいたいアプローチは決して文章で見るほど難しいものではありません。一番簡単なのはTORJAのバックナンバー(https://torja.ca/
aoshima-tadashi-101/ )で自分に必要なトピックを見返してもらうことですが、ここで基本的なアプローチをご説明します。
鏡の前で出来る基本的アプローチ
①真正面と真横から自分の姿勢を確認左右前後に体が曲がって無いか?
②肩の高さは左右同じか?
③肩のポジションが前の方にズレて無いか?
④足先の開き具合や位置は左右同じか?
⑤頭のポジションは左右前後にズレていないか?
⑥その場で足踏みして膝が胸近くまでくるか?
床に仰向けに寝て出来る基本的アプローチ
①足首を足裏側に曲げて爪先で床を触れるか?
②両肩がべったり床についているか?
③背中が浮いた感じ、違和感が無いか?
④膝裏が床についているか?
⑤膝のポジション向きは左右同じか?
関節の基本的アプローチ
①足首、膝、股関節、肩、首といった関節を色々な方向に動かして動かしにくい角度が無いか?大きく動かせるか?
②関節を深く曲げて痛みが出ないか?
このような項目を確認するだけでも、自分で正確にコンディションを把握する事が出来ます。コンディショニングは、新しい理論や新しいマシンを使えば高度なことが出来るわけではなく、逆にシンプルなことが出来てない人が難しいことをしても、たぶん上手くいきません。決して難しい事ではないので、まずは実際にこの様なコンセプトに基づいてコンディショニングを始めていただけるきっかけになれば良いと思います。
また、私が一番コンディショニングに取り組んでもらいたいのは、多くの人が必要性を感じていない幼少期のお子さんたちです。「子供は肩凝らない!」的な感覚が根強くありますが、同じ人間の体ですのでそのような事はありません。
今回のコンセプトをご理解いただき、無駄なストレスが体にかかる前の年齢から正しいコンディショニングを身につける考え方が広まり、怪我のないアスリート・ダンサーとして自分のキャリアを終えられるハッピーな人たちが増えれば良いと考えています。