第107回 りくりゅうペア世界一への軌跡から学ぶ。|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第107回】
3月に行われた世界フィギュアスケート選手権ペア競技で優勝。世界チャンピオンとなる数年前からトロントを練習拠点としていた木原三浦ペア。2人に向けた賞賛の言葉は、SNS等に溢れているので、ここでは切り口を変えて木原三浦ペアが、ゼロ以下の状態からスタートしてどの様に世界チャンピオンまで辿り着いたのかという部分にフォーカスしてスケーターだけで無く多くの人の参考になるようなトピックをご紹介します。
十数年前にトロントで練習していた日本のトップスケーターより「木原君のサポートお願いします」と木原選手がトロントに来る数ヶ月前に連絡がありました。私はその数年前より同じくモントリオールやロンドンで練習していたペアスケーターの小野選手や須藤選手をサポートしており、ライバルチーム木原選手のコンディションが、あまり良く無いという情報は事前把握していたので、正直なところ関わると大変そうなので乗り気ではありませんでした。
しかし木原選手と直接会って話してみると木原選手の人間性の良さに惹かれサポートチームをスタートすることになりました。木原選手は多くの問題を長年抱えていたので、まずは体をニュートラルに戻すのに数ヶ月費やしてスタートラインをハッキリさせてから世界チャンピオンという目標に向けて計画を立てました。
第一のポイント「難しい技術の練習をする前にハードな練習に耐えうる体作り」
一般的に体作りというと筋肉トレーニングをイメージしますが、ここでいう体作りとは、長年溜まった疲れを一度リリースしてニュートラルポジションを見極めることを指します。スタートラインがハッキリしないと強化するにしても緩めるにしても、何をどうするのか判断がつきません。つまり全身を完全に緩めてみた上で各関節の可動域などの状態を確認して、やっと改善すべき点が明確になります。
ここまでの地味な作業は時間がかかるのでコストの面からも人任せで無く自分自身でコンディションを把握改善して貰う必要があります。そのめにコンディショニングの際は、内容を説明して理解してもらい、毎日自分でも手入れをしてもらうようにしてスピードアップを図りました。
第二のポイント「パートナーである三浦選手のコンディショニング」
まだ若い三浦選手は、これまで大きな怪我もなく来ているので、コンディショニングに対する認識が低かったので、数年後に世界チャンピオンになるためには今何をしておかなくてはならないかを理解して貰うために2人で色々な取り組みをしました。
それほどコンディショニングの重要性が感じていない選手にしっかりとコンディショニングしてもらうほど難しいことはありません。いくら口で説教じみたことを言っても全く本人に響かないので、体のコンディションを整えるメリットを一つづつ本人が自覚出来るように示してあげなくてはいけません。例えば昨日上手くいかなかったジャンプをボディーメカニクス的に分析して、この関節が硬いから、この筋肉が動いていないからジャンプ動作が上手くいかないと仮説の元に私がコンディショニングをして次の日にジャンプが絶好調になる様なケースを幾つも見せてあげる事によって、少しずつコンディショニングの重要性を理解してもらいます。
次に目標は正確性です。どの筋肉のどのポイントをどの様な刺激でアプローチして、どの様に変化させるのか毎回正確に実行して貰います。ここまでくると、私がうるさいことを言う必要がありません。本人がコンディショニングした方が得だと自覚しているからです。
第三のポイント「世界チャンピオンの夢を実現した際にリズムを崩さない準備」
数年前は、試合に行っても良い結果が出ずにメディアからの注目度はゼロで、目の前を素通りされてしまっていました。「試合に集中出来て良いんじゃない?」と言うしかなかった状態から、昨年の北京オリンピックの活躍後は急に注目度があがり周りからチヤホヤされる状態になりました。これは想定済みで、数年前からいきなり身の回りに優しい人たちが増えた時の心構えを3人で考えました。
スケート以外でも、自然に人を惹きつける魅力を持つ2人が、世界チャンピオンを機に驕って魅力を失わない様にする様に事前に3人で話し合いました。一番気をつけなくてはいけないのは、周りが何かと大目に見てくれるようになってしまうことです。本当は身のこなしを含めて、世界チャンピオンとして、より引き締めていかなくてはいけないタイミングなので厳しいアドバイスも頂いて改善していきたいところなのですが、TV等の露出も増えて周りが一変して甘くなり、自分の立場を勘違いして調子に乗りやすくなりがちなので、自分たちで再度気を引き締める必要があると確認しました。
第四のポイント「りくりゅうペアチーム結成時からの目標である、「ペアスケート競技の魅力を世界中の多くの人に伝えられるスケーター」を目指す
これからも皆さんの応援宜しくお願いします。