痛みの対処法あれこれ。|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第112回】
先日膝が痛いと相談された12歳のアスリート。翌日にはお母さんが昨日飲んだ痛み止めが効いて良かったと報告してくれました。痛みが薬で治まったから良いのか悪いのか?は難しい問題ですが、少なくとも痛みの根本原因を解消しなければ、長期的に見ると問題を慢性化させてしまうリスクが伴い、さらにその慢性化した問題を大きくする可能性があるので注意が必要です。
膝の痛みを例に、対処例を説明します
膝の痛みには色々なタイプがありますが、アスリートに多いのは膝のお皿の下辺りの痛みです。この同じエリアの膝の痛みでも、原因がいくつも考えられます。
- 一番多いのは、過度な練習により痛みが発生しているケースです。ジャンプをした時など衝撃に伴う痛みや、膝を深く曲げた時の痛みを訴えるケースが多いです。
- 体の急激な成長により膝の周りの腱が引っ張られて同様の痛みが発生するケースも多いです。
①と②のケースは原因は違いますが、結果的に膝の周りの筋肉や腱に疲れが溜まって緊張が高まり膝の動作時に摩擦を生じやすくなり炎症を引き起こすパターンの問題です。
対応策としては①休息、②テーピング(筋肉の動きをサポート)、③アイシング(血流を抑えて炎症痛みのコントロール)などが一般的ですが、根本的解決に至らず回復迄に時間がかかってしまうことが多いです。なぜかと言うと①~③は全て患部への刺激量を制限して痛みをコントロールして自然回復を促す患部のみにフォーカスしたアプローチだからです。
膝の痛みに限らず、問題点の解決には患部の痛みコントロールに加えて根本原因を取り除くアプローチを同時に行わないと、回復に時間がかかったり、同じ問題を何度も繰り返して慢性化してしまったりします。このケースの場合は膝に負担をかける根本原因として、例えば腰や足首の関節の可動域の悪さが考えられます。それは、膝と連動する動きをする関節だからです。
可動域の悪さは関節を動かす筋肉の疲れ、緊張が原因している事が多いので薬で痛みの原因である炎症などは抑えられても可動域を悪くしている筋肉の緊張がとれる可能性は低いため、膝周辺の緊張が柔らぐことはなく、常に摩擦による炎症が起こりやすい状態は続くことになるのです。
膝が痛いから膝の問題とは限らず少なくとも関連部位をセットでアプローチすることにより、複数の原因からなる複雑な問題点も複雑なことをすることなく、自然に回復する可能性が出てきます。このように、たかだか膝の痛みでも色々な原因があり回復方法は複雑なので、長期的視線に立つと「薬が効いたから良かった!」と喜んでいて良いか悪いかは難しい問題なのです。
痛い・痛くない問題
私は、「痛い?か痛くないか?」という体の判断基準は、あまり好きではありません。たしかに、患者さんの訴えのエリアを特定するには便利なのですが、その痛いエリアを正確に特定してマッサージしたり鍼を刺したりすれば問題が解決するか?と言うと、答えはNOだからです。
むしろ、問題解決策と痛い痛くないは、あまり関係ないと考えています。多くの場合、痛い箇所は最終的にストレスがたどり着いた部分で根本原因でない可能性が高いです。フィギュアペア世界チャンピオンのりくりゅうペアを始め過去の世界チャンピオン、オリンピックチャンピオンにも一貫して「痛い?痛くない?」でコンディションを判断しないように過去30年間言い続けています。
基本的に体が痛いなどと言ってる様では、トップアスリートは務まらないし、私の仕事は体が痛くならないように事前にアスリートの練習状況や性格などバックグラウンドを理解した上で対策を打つ事であり、アスリート本人にそれを理解して頂く事だと考えるからです。
数年単位の長期間サポートさせて頂くアスリートの場合、定期的に怪我をしないためのコンディショニングを行っているのでいきなり大きな問題が発生するケースは少なく、痛みの原因はAcuteな筋肉レベルの問題が多いのも痛い痛くないは判断基準としてあまり重要視しない理由です。
むしろ痛みを伴わない関節の可動域制限など痛い痛くないでは判断のつきにくい部分のコンディショニングの方が重要だと考えています。またここの疲れは関節動作を直接妨げまるので怪我をするリスクが高いからです。筋肉よりも感覚神経の分布が少ない腱など関節周りの重要箇所は痛い痛くないでは判断つきにくいのでアスリートに常に注意を促しています。
出来たら、足首、膝、ヒップ、肩など主要関節の可動域を各可動方向毎に毎日チェックして頂きたいのですが、毎日タフな練習を積む選手たちに強要するのも如何なものかと思うので、最低でも足首の可動域くらいは自分で毎日チェックして判断基準にしてもらう様にお願いしています。
この様なチェック方法は、一般の方にも勿論有効なのですが、一般の方はトップアスリートのようの全ての関節を100%使う動きをすることが少ないので、より問題点を見逃しやすく、見逃しても問題になりにくいです(腕が肩の高さまでしか上がらなくても、日常生活で、それ以上の可動域が必要な事が少ないので気がつかないなど)。
一般の方もトップアスリートと同様に関節可動域を基準としたコンディショニングを行えば、将来的にも大きな問題を防ぐ効果が十分に期待できます。