フィギュアスケーターの憂鬱|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第114回】
今回はフィギュアスケーターにまつわる様々なストーリーをご紹介します。各スケーターによって色々な考え方があると思いますが、3~4歳のキッズスケーターからオリンピックチャンピオンまで数十年にわたってサポートしてきた経験から私の考えを紹介します。
10歳以下のキッズスケーターやスケートママに「目標は何?」と聞くとほぼ100%オリンピックチャンピオンと返ってきます。夢のある大きな目標をもつ事はモチベーションにも繋がり良い事だと思いますし、そんな事を子供の頃から言い続けて本当にオリンピックで金メダルを獲ったスケーターも知っています。
ここでスケーター&スケートママに知っておいてもらいたいこと
本当にオリンピックを目指すなら、自分なりの準備が必要だということです。つまりコーチの言いなりに幼少期から長時間練習するのがオリンピックチャンピオンへの近道ではないということです。
よくあるパターンは、幼少期にコーチから君は将来性があるから練習量を倍にしてエリートクラスで鍛えましょう!と誘われてフィギュアスケートオンリーの生活を始めるパターンです。トロント近郊のスケート大会で上位を独占するチームのコーチから誘われたりするとスケーター本人だけでなくスケートママも、うちの子結構いけてるかも?と一気にスケート熱が高まります。
毎朝6時から朝練習、その足で学校に送って12時くらいで学校を早退して午後から再度リンクに戻って数時間の特訓。プラス、ダンスや音楽のレッスンをこなす生活。スケートママは送り迎えで、毎日市街を200㎞ドライブするハードワーク。
まだ、成長期前の時期にこれだけの練習量をこなせば、この年齢でこのボリュームの練習しているスケーターは少ないので、試合で良い成績を収める可能性が高いでしょう(幼少期の過度なトレーニングについては賛否両論色々な意見があります)。
この幼少期からの特訓の延長線上にオリンピックチャンピオンが見えてくるかというと、多分見えてきません。なぜかというと、このペースをオリンピックチャンピオンまで継続するのはとても難しいからです。
このように幼少期から過度な指導法というのは、いつの時代もどこかのクラブで行われていて、一見凄く整ったプログラムに見えるので、試合で良い成績を取りたいスケーターが多く集まり、短期的には非常に人気が出て、クラブとしても試合で多くの入賞者を出したりします。
逆に、この指導法が同じクラブで長く行なわれない理由は、数年経つと多くの問題が表面化するからです。このような指導法で幼少期から本当の勝負の年齢である15~18歳位まで怪我なしにスケートを続けられるスケーターは少ないのです。
スケートコーチにしてみれば、スケートを教えるのが仕事だから、特訓についてこれる体は各自に任せているということかも知れませんが、結果的にスケーターの疲労が蓄積してくれば怪我のリスクは高くなり、疲労のためにうまく行かないジャンプを特訓して、より疲れて下手になるネガティヴスパイラルに陥って、本人たちはこの状況に気が付かずに、挙句の果てコーチにも見捨てられてミゼラブルにスケートを止めるというストーリーを多く見てきました。
このようなストーリーに陥らないためには、「オリンピックを目指す!」プランを自分で考えるのが大切です
なぜならば、スケーターは、それぞれ①ボディーサイズ、②性格、③家族のサポート体制、④目で学ぶタイプ、⑤耳で学ぶタイプ、⑥成長のタイミング、⑦ファイナンスコンディション、⑧筋肉、骨格の状況などが全く違います。
これらの条件に合ったベストなトレーニングプランが立てられるコーチは、多分どこにも存在しないので自分で自分に合ったベストのプランを立てるのが大切なのです。私が知っている限り、トロントで一番、カナダで一番、世界で一番など言われるコーチでも、コーチングのパターンは大体一つなので全スケーターに良いコーチである可能性は低いのです。有名コーチだから全てお任せしておけば大丈夫と考えるのは、オススメしません。
ついでに言ってしまうと、本当にオリンピックチャンピオンを狙うのに一番大切なのはティーンエイジャーになった時に自分のベストなパフォーマンスを発揮することです。この発想からすると幼少期に特訓していっぱいジャンプを跳んで表彰台に乗ることは、それほど重要ではないのかもしれません。
なぜならば、数年後には成長期がきて過去数年間朝練を含む猛特訓で身につけたジャンプがボディーサイズの変化に伴う感覚の変化でゼロになる可能性も高いからです。極端な話をすれば、どうせなら成長期が終わるまで難しいジャンプの練習なしで、体が成長した後にスムーズにジャンプ練習がスタートできるように、基本スケーティングスキルの練習だけ行う!なんてアイデアもあります。
最大のメリットは、幼少期に体を酷使していないので怪我のリスクは低いでしょうし、体力的ににも精神的にもタフな状況で戦っていく余力がある可能性が高いのです(その頃、幼少期から特訓を続けてきたスケーターは怪我だらけで疲れきっている可能性が高いです)。
このような理由から、スケートコーチにおだてられても、オリンピックチャンピオンが目標でも、スケーター本人やファミリーにとってのチャンピオンの形を自分たちで話し合って、フィギュアスケートに取り組むことをお勧めしています。