アスリートの身体、怪我、科学。|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第120回】

SNSをはじめとした情報が溢れる時代となり、過去に実績を残したアスリートの考え方が良しとされ、あまり内容についてアップデートされる事なく継承されていく様な指導方法は不適切な時代になりつつあります。
その背景にあるのは、色々なテクノロジーの発達により分析力が上がり、野球に於いてはピッチャーの投げるボールの情報は速度表示だけでなくボールの回転数、ボールの回転軸、投球軌道など知りたい情報を知りたいだけ得る事が可能となりました。
この様な正確な情報により過去に実績が無い人でも発言しやすくなっている様に感じます。
かつての様に、レジェンドなアスリートを連れてきてそのコピーを推奨する様な指導方法は行われない時代だそうです。それはトップアスリートの話で子供たちの指導とは違うという話も通用しなくなっています。
驚くべき事は、科学を元に疑問視されるポイントは、各スポーツの今まで信じられていた基本動作にまで及んでいる事です。野球の話をすれば、象徴的なのはドジャースの大谷選手の打撃スタイルの様に横振りから縦振りへの変化。
大谷選手が打撃不振の時にクリケットの道具を使って練習したのが報道されたりしたのも記憶に残っています。難しい事は分かりませんが、ボールを捕らえる軌道が長くなるとか、ボールを点では無く面で捉える。その動作が自然と出来る道具を使って修正するなどの説明は素人にも納得しやすいでしょう。
例えばここ数十年で10〜20㎞/hくらい速くなったピッチャーの投げるボールに負けない様に速いバットコントロールで対抗するのではなく、ボールが上に上がる角度でバットコントロールしてくればボールが来るのを待っていれば良いという理論には驚かされますが、キャッチャーは160㎞でも170㎞でもキャッチできるんだから、バッターも力まずにボールをキャッチするイメージ+打球がゴロにならずに上に上がる角度にバットをコントロールしてくれば、ゴルフクラブのスウィングと同じように同じ軌道のボールを打てる可能性が高くなるなどの説明は説得力があります。
また、アスリートの技術レベルが上がることにより各競技のスピード感や技術的な限界点に近づく事により、対応する体の動きを追求していくと結局基本的な体の動きに近づいて、他の競技の動きとの共通点が多く出てくるには興味深いです。
このようにアスリートに要求される動きが明確になってきたことにより、練習すべき事もだいぶ変化してきてる様に感じます。決して今まで信じられてきた方法が間違いという事でなく、絶対的なテクニックを推奨するのは、色々な科学的根拠のある方法が現れた事により難しくなりました。
段々と難しい話になってしまいましたが、
結果的に科学的根拠に基づく最先端の練習を積むのに大切な事は、その前に自分の体のコンディションを整える事だと思います。
色々と細かい事を意識しながら練習しなくてはならないのに、自分の体のバランスが悪かったり、硬かったり、自分の100%の能力が出せない状況で練習していても非効率です。
技術的問題点で上手くいかないのか?自分の体が動かないのか?
問題点が見えにくくなってしまうからです。
この様な科学的アプローチが充実したアスリートを支えるために、アスリートのコンディショニングのレベルアップも重要だと考えています。技術的なレベルアップの練習に比べて地味な地道なコンディショニングは興味を持ってもらうまでに時間のかかる作業ですが、
速く走るには?、高く跳ぶには?、上手く回るには?、遠くに投げるには?
といった具体的な例を元にどこの関節がどの様に動いて、筋肉がどの様な状態にあれば上手くいく事をコンディショニングの前後で体感して貰うなどでアスリート本人に伝える事を繰り返して、技術的なレベルアップに繋がる様なタイミングでコンディショニングに対する意識を高めてもらいます。
技術的なレベルアップには、自分のコンディショニングが必要であることが理解されてやっと自分で継続してもらえる状況になるので、時間がかかりますが大切なステップです。
科学的な分析が進んで細かい技術が求められる今日。この流れは幼少期のアスリートにも及んでいます。簡単に言うと、アスリートとしてのスタートからゴールまでに練習するボリュームが増えてしまったので、以前よりも早い幼少期に難しい体に負担のかかる様な練習をスタートするケースも多く見受けられます。
幼少期に難しい事を練習する様になるので本人も親も、一見上手になった様な錯覚にも陥りますが、その反面幼少期の体により負担がかかる様になった事を忘れない様にしなければいけません。
これは、私たちの普段のエクササイズにも言えることで、新しい、難しい、強度の高いエクササイズをすれば良いのでは無く、自分の目的や体に合ったプランをデザインするのが大切です。科学的な情報が溢れる現在、一番大切なのは、自分の体を知った上でエクササイズ、スポーツに取り組む基本的な姿勢を忘れない事ではないか?と考えています。





