サッカー選手が、時速3㎞走るのが早くなる方法|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第99回】

トロントFCで活躍している櫻井功大選手。より高いレベルを目指してコンディショニングを続けています。毎回、特に痛みがあるわけではないので、日々の練習やゲームで本人が気になった動きや感覚を改善するのが主な作業になります。例えば、
②ボールを蹴るときに足首の動きが十分でない
③試合の集中力が足りない
④試合中良く転ぶ
⑤もっと相手のディフェンスをかわしたい
⑥スタミナが足りない
⑦プレー中のリズムが悪い
これらの理由で、マッサージセラピストに相談する内容ではないように見えますが、良く考えてみると選手のコンディションを向上させる多くのヒントが含まれているのに気づきます。
選手からこのような相談をしてもらえる関係を作るのは、セラピストとしてとても大切です。
この延長線上で私が行うのは、出来るだけ練習や試合を直接観に行く事です。選手から話を聞く以上に、多くの発見があります。先日櫻井選手の試合観戦で気がついたのは、ウォーミングアップで他の選手と一直線に並んだ状態から走った時に、いつも他の選手に遅れをとる事でした。
一生懸命走っているように見えるのに隣の選手に軽く抜かれてしまいます。
始めは、「ボディーサイズの違いでしょうがないのか?」とも思いましたが、相手チームの一番身長の低い選手は、同じウォーミングアップで一番走るのが早かったのです。後日、櫻井選手の走り方改造に取り組みました。
②スタミナの確認
③主要関節の動きの確認
④足、膝、腰のポジションの確認

などを一つ一つ丁寧に確認していくと、最終的に走る時に下半身の動きに癖があり、結果的に足裏の外側に体重がかかりがちである事が分かりました。早速、足首・膝・腰のバランスを整えて本人には、「下半身のバランスは整えたので足裏をフラットには使うイメージで走って下さい!」とお願いしました。
トロントFCの練習は練習着に毎回チップを装着して、練習時の動きのデータを詳細に記録するので結果はすぐに出ました。走り方改造を行った翌日に練習データの最高走行速度が前日より時速3㎞向上して世界のトップ選手並みになったのです。時速3㎞向上というと、1分当たり50m、1秒当たり83㎝以前より多く走る計算となるので、結果的に全てのプレーが早くなり、プレーの質が大きく向上します。
アタッカーが2ゴール決める方法
櫻井選手のチームでアッタッカーを務める選手。試合の勝ち負けに直接関わるポジションのため、ゲームの出来不出来によるストレスが大きいです。実際には、ゴールを決められない原因はアタッカーだけにあるわけではなく、最後のパスを出す人のボールコントロールの技術や、そこに繋ぐまでのチーム全員のボール運びスピードなど色々で連帯責任ですが、アタッカーは最終的にゴールを狙う役なので失敗すると目立ってしまうのです。

特に悪いパスを無理矢理蹴ってミスした時など、ぶつけようのないフラストレーションが溜まり次の試合に影響し易いです。典型的なケースが、失敗のイメージを引きずって体と気持ちが萎縮して動きが小さくなってしまう事です。完全に負のスパイラルに入り込んでしまった状態です。
「毎試合気持ちを切り替えて臨め!」というのは簡単ですが、私が提案した方法は音楽やダンスで体と頭のリズムを変えること。
試合開始時、フィールドの自分のポジションに向かう時ラテン音楽のリズムで踊りながら自分のポジションにつくというものです。真剣勝負のゲームに浮かれて入ってくる選手を見て相手選手は「試合舐めてんのか?」と思うかもしれませんが、それはそれで良し。偶然かもしれませんが、その試合でアタッカーは2ゴールを決めて今も好調を維持しています。
バレリーナのリクエスト

National Ballet of CanadaのFirst Soloist の患者さんから「首を長くしてもらいたい」とリクエストされました。具体策としては、肩をリラックスさせて肩のポジションを下げることにより肩首間の距離が広がり首を長く見せる様にします。しなやかに見えるバレリーナの体にも多くの緊張や疲れが溜まります。特に公演へ向けてリハーサルが多くなったり、本番のステージが続くと症状が顕著に現れます。
そんな中でも、経験豊富なベテランダンサーたちは体に疲れを溜めない事に気づきました。一般的に年齢も上で長年体を酷使して来ているのに何故このような現象が見られるのか?疑問に思い、ダンサーに直接質問してみました。私が答えに近いと感じたのは、ベテランダンサーほど経験からリハーサルやステージで力を抜いて踊る術を知っているという事です。
これはダンスに限った事ではなく全てのスポーツなどにも共通して言える事ですが、動きの基本ポジションは完全に力が抜けたニュートラルポジションなので、体を動かす際に体の力が抜けていれば、最大限の体のパフォーマンスを引き出しやすく疲れが溜まりにくいのです。
この状態に持っていくのが、私の行っているコンディショニングの最終目標です。
今回ご紹介した3つのエピソードは、
②気持ちからのアプローチ
③経験からのアプローチ
と方法は違いますが、体と頭の力を抜くのを目的とした具体例です。
頭と体の力を抜くテクニックを身につけると、常に自分の体の持つ100%に近いパフォーマンスを出すことが出来るので練習効率が上がります。
逆にこれが出来てないと、テクニックが悪いのか自分の体が動いていないのか判断がつかないので無闇にハードな練習しても、何を目的としているのか不明瞭で全く意味がありません。
一生懸命練習しているのに、今ひとつ上手くならない選手は、自分に合った頭と体の力の抜き方を再検討してみる事をお勧めします。





