グルメの王様のおしゃれ美食道 第21回「上海・夜霧のブルース」

タイトルは、父と仲良しだった往年の歌手ディック・ミネの昭和22年の上海を歌った名曲で、子供の頃によく耳にしました。その後の津村謙の「上海帰りのリル」もいい曲でしたね。その頃から上海という独特な響きを持った見知らぬ地に魅力を感じていました。ミネさんの歌詞♪夢の四馬路か虹口の街か♪が、何故スマロなのか、ホンキュなのか分からず首を傾げたことを思い出します。私にとって家族や親友達がいる上海は第二の故郷と言ってよいほど親しみがあります。その憧れの上海に初めて行ったのはもう昔のこと。いつもどおり、事前に美味しい料理を研究し特にクレームブリュレと共に後援会長を自認する程好きな「小篭包」は、絶対世界一の「南翔饅頭店」で食べようと決意。上海に着くなりそれこそ堰を切ったように有名店を駆け巡る凄まじい美食旅行となりました。上海に行くと必ず訪れるのが、准海中路と豫園です。今は香港を思わせる近代的なビルが立ち並ぶ国際都市となりましたが、私が大好きな上海は、何故か旧きよき日本を感じさせるあの素朴な街並みの上海です。そして名所豫園は正に中国そのもの、と言える商店や料理店が集まった場所です。上海に限らず中国香港の旅では面白い話題満載なのですが、中でも変わった経験は、中国香港で今まで一度もお金を使ったことがない、紙幣や貨幣に触れたことが無い、ということでしょう。家族や親友達の大歓迎振り故のことなのですが、一度もじっくり見たことが無い人民幣で将来何か買ってみたい、といつも思っています。上海料理店というととても親しい銀座の東京飯店や、同じくよく知っている大門の新亜飯店の名前がすぐ浮ぶのですが、近年は横浜中華街でも点心を始め上海料理の名店が増えているようで、喜ばしい限りです。さて当地の上海料理店に目を向けると、一番印象深いのが、先程の豫園にある道教の寺院を髣髴させる店名の「城隍廟小吃」ですね。同名の近年評判のフードコートも豫園にありますが、この店名を見ると一目で上海料理店と分かります。

「城隍廟小吃」はScarboroughのSheppard南 / Brimley西にある、小さな上海料理店ですが、マダム以下ウェイトレスの皆さんが、一生懸命仕事をしている姿に接するのは、大変気持ちよいですね。中国料理店の魅力の一つに「わいわいがやがや」がありますが、いつも店内は上海語が飛び交い、目を閉じると昔初めて上海を訪れた日が蘇ってきます。
上海料理の代表的なメニューをご紹介すると、上海に行くと連日の宴席で必ず登場するのが海老の炒め物「清炒蝦仁」です。上海滞在を終える頃には、ちょっとした清炒蝦仁通になってしまいます。また豚のモモを柔らかく煮込んだ「老上海走油蹄膀」は美味しい料理で、上海人が大好きなチンゲン菜に囲まれて登場しました。魚料理としては、これも上海では立地的に白身の魚が多いのですが、今回はパイナップルソース付きのから揚げを注文してみました。そしてデザートは、これまた上海料理店で必ず出てくる、小豆餡の入った卵白のフライ「高力豆沙」で締めくくりましょう。他にも上海料理には世界的な名料理が数多くあるので、また機会を見つけてご紹介したいと思います。上海の人達と料理を堪能し、表に出る頃には、気分は既に上海人♪青い夜霧に 灯影が紅い♪と歌いたくなりました。
辻下忠雄
エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。




