グルメの王様のおしゃれ美食道 第24回「一億総美食評論化」


一昔前、テレビで日本のフジテレビのニュース番組を30分見られてとても重宝したことがありました。深夜の放映なので録画して楽しんでいた人も多かったのですが、何故か?突然の中止となりとても残念に思った事がありました。その中で印象的だったのは、九州の有名な温泉地で更なる活性化を求め策が講じられた話題です。結果としてお客様からアンケートを取りそれを参考にしよう、という事になったのですが、これに異論を唱えた人がいました。その人は何とグルメのガイドブックで知られるあのザガット氏!同氏の意見とは「見る目を持ったお客の意見でなければ参考にならない。」思わず心の中で拍手喝采。
私がガイドブックを読み始めたのは、今から丁度50年前。今でもモノクロのその小さな本を読み返しています。ここで大切なのは、執筆者の皆さんは社会的地位もあり、すでに立派な人生の経験者ばかりだった、ということです。東京の数多くの名店が登場していましたが、単にお店や料理人を紹介するのではなく、「経営者の何々君は・・・」という書き出しを見ると、その知識人脈への信頼感から胸をワクワクさせました。皆さん他界されまた同様の本が無くなり残念無念です。
当時は日本ではまだ料理評論家という言葉がなく、その後登場した第一号は、皆さんも良くご存知の山本益博氏です。私が最も信頼する料理評論をする方々ベストスリーは、父とも親交のあったアサビビール初代社長の山本為三郎氏。お偉い方に失礼ですが、ヤマタメさんとして多くの人から慕われた実業家でした。次に映画評論でもお馴染みの荻昌弘氏。同氏がホスト役を努めるグルメ番組を何本も収録し頻繁に見ていますが、あのソフトムードが素晴らしかったですね。そして作家の深田祐介氏。昔家族が、コスモポリタン日本版の同氏の記事で取材を受けたこともあるのですが、この方の評論もとても厳しくて大好きです。番外ながら近年親友の米国公認会計士の順子さんがこれに加わりました。東京で一時帰国の度に一流店でご馳走になってしまうのですが、彼女の料理評もとても的をついています。世界各国の有名店を、同じく公認会計士のご主人と巡る美食歴に敬意を表します。
美食評論家です、などと挨拶すると皆さんお世辞に「どこが美味しいですか?」と尋ねてくれるので、こちらもお世辞に「先日行ったお店はまあまあでした。」などと応えるのですが、本当に正しい答は、まずその質問者の美食歴を伺ってからでないと出来ません。NHKの長寿番組「きょうの料理」の特集番組で親しかった築地田村のおやじさんが「美味しい物を食べたことがない人に、美味しいものを出しても美味しいとは言わない。」とずばり言い放ちましたが、全くその通りです。美食歴を持った人の見解こそ参考にすべきでしょう。
トロントで私が薦める料理店は、香港系のフードコートです。特に萬錦商場(HWY7南/ Woodbine 東)のそれは特筆すべきものがあります。万人向けの軽食といえる香港文化の賜物「腸粉」とご存知お粥、そして甘い油條。これに「魚シュウマイ」が加われば完璧な美味しい定食の出来上がり。こちらのフードコートは、「さーこれから美味しいものを食べるぞー。」というお客の意気込みが感じられる、貴重な食空間と言えますね。
辻下忠雄
エッセイスト・生活礼儀情趣導師(生活開発プロデューサー)
1947年東京大田区に生まれる。成城学園出身。フランス料理界、ナイトクラブ界、中国料理界の大御所として多くの逸材を育てた父と、料亭経営の傍ら歌舞伎の舞台にも立った祖父の下で育つ。美食歴59年究極の美食家。紳士の中の紳士。ベストドレッサー。生活信条は「明るく・楽しく・仲良く」超楽天主義者。トロント在住。





