伝統の道を拓く①|金継ぎ開拓民のお茶休憩
ありがたいことに、現在では金継ぎ師として皆様にお引き立て頂いておりますが、実のところ、この地で金継ぎ師となることは全くの想定外でした。今号より、カナダにおける私の挑戦を複数回に亘ってご紹介しようと思います。
私はもともと伝統工芸を未来につなげたいという思いを抱き、職人や産地を長期的に支援できる国際的な市場を築くために海外へ渡る決断をしました。どこにも所属していませんので、日本で作った貯金が当面の活動費であり生活費となります。
しかし、カナダに来た直後にパンデミックが発生。外へ出られず、伝統工芸品を輸入することも、対面でその魅力を伝えることも叶わなくなりました。そこで、これまで培った経験や技術を活かし、他者との接触を避けつつ日本の伝統を広められる、金継ぎの受注を始めることにしました。
手探りでのスタートでしたが、まずはSNSを駆使して情報を発信し始めました。KijijiやFacebookへの投稿で拙い英語で金継ぎの説明をし、「壊れた器があれば直します」と宣伝します。しかし、寄せられる反応は「壊れた器を直す必要はない。新しいものを買えばいい」「接着剤で直せるのに、その価格は高すぎる」「それはアートではなくただのパッチワークだ」といった否定的なものばかり。
そう、当時金継ぎはほとんど知られていなかったのです。残念ながら、私はそれらの言葉にうまく説明できるだけの英語力がなく、自分の文化の客観的な分析もできていませんでした。また、家族も友人もおらず、全くコネクションがない地で、日本文化に関心を持つ人々や金継ぎを知る人々に辿り着くことは非常に困難でした。更に機械やカメラに疎い私は、インスタ映えする写真や動画を撮ることも、洗練されたウェブサイトを作ることもできません。
そんな中、ふと始めたのはインスタグラムのライブ配信でした。ライブなら編集の必要がなく、作業の手元を映すだけで、様々な人が見に来てくれます。視界の端にモニターを置き、誰かがライブを覗く度に、金継ぎや素材、作業内容について独り語りのように説明をします。これを毎日毎日、何時間も続けました。すると、このライブ配信が、思わぬ形で新たな展開をもたらしたのです。(次号に続く)
2月8日 11:00〜13:00 Eaton Centreで開催される日本酒イベント「NEXT STOP JAPAN 2025」にて、金継ぎデモンストレーションを行います。日本酒試飲もありますので、お気軽にお立ち寄りください。
詳細は https://introjapan.ca/nextstopjapan2025/ をご覧ください。