一夜かぎりの「OMAKASE DINNER」で多様性あふれるコース料理に舌鼓|三大特集で送る「戻ってきた日常」
11月28日、長い冬が始まろうとしているトロントで、これからの可能性に満ちた新しいディナーイベントが開催された。「OMAKASE DINNER」はトロントのローカル・レストランで働く経験をもつ4人のシェフ、牧野遥奈さん・芥川奈緒さん・山中隆佑さん・西村元伸さんがコラボし、カナダと日本の文化や食材の融合を表現した料理をワインと日本酒をペアリングし提供するというもの。
チケットは即日完売する注目ぶり。当日はTORJAのレシピコーナーの連載も好評な相場義之さんも参加し、シェフたち同様、ローカルに混じりソムリエやサービスとして活躍している中込正志さん、下村侑也さん、大水茜さんらもテーブルサービスをサポートし、次世代の日本人たちの手によるハイクオリティーで素敵な一夜が演出され、参加者の方々も大変満足そうだった。
芥川奈緒シェフ
■ AMUSE BOUCHE
foie gras, scallop, sunchoke
■ MAGURO
bluefin tuna, kohlrabi, meyer lemon, apple aioli
私は犬を飼っているので公園や自然の中をよく歩くのですが、そんな大好きなトロントの自然をカナッペに表現したいと思いました。サンチョークのビジュアルが木のような感じがして、それにパンプキンシードなども活かして自然を演出しました。ミシュランにも選ばれたメキシコ料理のQuetzalというレストランで現在働いているのですが、そこはウッドオーブンが特徴なんです。なので、ウッドオーブンを活かしたりんごを使った料理を作りたく、マグロの一皿にアレンジしました。
西村元伸シェフ
■ VENISION
loin & shoulder, mole negro, celeriac morney tetela, black truffle
日本に帰国していた時にロサンゼルス出身のメキシコ人シェフと一緒に仕事をする機会がありました。メキシコ料理はフランス料理とすごく親和性があるんです。さまざまな料理に派生しやすいですし、味に関しても旨みの使い方などがすごく上手だと思います。当時メキシコ人シェフ18番のモーレ・ネグロのソースを学ぶことができてこれはすごいと感じ、いろいろな料理に活かすことができると思い、どこかの機会で使いたいと考えてきました。あらためて違う文化に触れてこれまで自分のやってきたことを混ぜ合わせることができたメニューになりました。
山中隆佑シェフ
■ MADAI
sea bream, maitake mushroom, sea urchin, cauliflower puree
日本を代表する魚として知られている真鯛を使いたいと思いました。淡白な味の鯛で何ができるか、僕の中ではウニのソースが浮かびました。白身にオレンジのソースは色も際立ちます。また、カリフラワーをお出汁で炊くことによって日本らしい風味を詰め、シンプルに表現することで素材の旨みや良さを感じて欲しいと思いました。そしてコンセプトにあるようにカナダで働いている日本人のシェフとして、オンタリオ州で生産販売されている将軍マイタケを合わせて紹介したいと思いました。将軍マイタケはシェフたちにはよく知られていますが、まだまだ一般の方たちには知られていないと思いますが、健康にもよくオンタリオ州で日本の方が生産している素晴らしい食材なので、僕たちのような存在がこういう場で発信していくことが大切だと思っています。
牧野遥奈シェフ
■ ENTREMET
sake jelly, pear & vanilla compote
■ MOUSSE
miso caramel & dark chocolate
mousse, rum, coco nibs, hazelnut
■ PETIT FOURS
raspberry kinako cookie
最近はグルテンフリーの方も多いのでこういうイベントの時はできるだけグルテンフリーのものを作っています。今日のイベントは肉料理などもあったので、さわやかにシーズンの洋なしをコンポートにしてお酒を使ったゼリーに仕上げました。次に冬の雰囲気を演出してくれるチョコレートにプラスして日本のテイストを入れたいと思ったので、ホイップクリームに味噌キャラメルをアレンジし、全ての素材のベースはグルテンフリーでケーキを作りました。きな粉のクッキーは、一番最後にサクッと軽く食べてもらいたかったので日本らしさが伝わるきな粉とラズベリーを合わせて、クリスマスの季節感を演出しました。
カナディアン・レストランで活躍している日本人シェフがいることを知ってもらい、海外を目指す多くの若手にチャンスがあることを知ってもらいたい
長岡裕司さん
「初めての試みだったのですが、多くの方に喜んでいただき好評だったので、このまま続けていければと思っています。このイベントの目的は、ローカルのカナディアン・レストランでも活躍している日本人シェフがいるということを知っていただくこと、そしてそれを知ってもらうことでワーキングホリデーなどで来た人たちがカナダのローカル・レストランでも働けるチャンスがあるということを伝えていくことでした。
今回参加してくれたような若手の日本人シェフやソムリエ、サービスの人たちにスポットライトを当てていくことで、彼らの存在とカナダで働く可能性を知ってもらえればと思っています。
長期的な目標としては、日本人の若い人たちにオポチュニティーを提供できる後進育成のような環境を作りたいので、大きなGALAなどでファンドレージングのようなものができればと思っています。スポーツの世界ではスキルさえあれば海外に飛び込めるチャンスがあります。
成功には言葉の壁もあるかもしれませんが、食の世界も同じでまずスキルさえあれば海外でチャレンジできますし、その可能性は無限だと思っています。」
次世代のシェフにフォーカスしていきたい
銭丸幸志さん
「コロナ禍ではシェフの人たちが本当に大変でした。いま現場で頑張っている若いシェフたちがもっとお客さんの前に出てスポットライトを浴びてもらえる環境を作ってあげたいという話を長岡さんとしているときに、彼もやりたいと意見が一致しました。
長岡さんの方ではオーガナイズやワインなどのお酒の手配ができるので、場所さえあればという話から当店の定休日であればどうぞ使ってくださいと話をしました。私の方では当日にシェフたちが一番良い状態で臨めるよう一週間前から材料の仕入れや仕込みをして用意するなどサポートしました。
キッチンで意見交換や味見が行われているのを横で見ていて私自身もシェフとしても楽しかったです。この取り組みも一回で終わらず2回3回行いたいですし、これからオーナーを目指す飲食人や、トップの環境にチャレンジしていくような次世代のシェフたちにフォーカスを当てていきたいと考えています。」