ユネスコ登録で加速する日本酒市場 カナダで進む日本酒の魅力発信|特集「SAKE Meets Canada 日本酒レガシー 」
日本酒の世界市場の着実な拡大をうけ、ジェトロでは2月を「Sake Month」と定めたトロントで大規模プロモーションを実施した。
在カナダ日本国大使館ではオタワ市内のレストラン業界やソムリエ業界関係者、政府関係者等を招き、日本酒に関する知識向上とカナダへの日本酒の普及と輸出促進のための日本酒マスタークラス・イベント「9 Brands Sake」が催されたほか、「LCBO」とのタイアップによる特設販売コーナー設置やテイスティングイベント、トロント最大のショッピングモール「イートンセンター」では体験型イベント「Next Stop: Japan-Raising a Glass to Sake-」、ジャパンファウンデーションでは「Special Sake lecture and tasting」と題した日本酒と日本文化や旅行などをテーマにしたイベントが開催された。
日本酒の世界市場は着実に拡大インバウンド需要の高まりと日本酒の国際化が進む
全国約1600の酒類メーカーが所属する日本酒業界最大の団体である日本酒造組合中央会が2024年度の財務省貿易統計発表に伴い、2月に「2024年度日本酒輸出総額記者発表会」を開催した。発表によると、2024年度(1月~12月)の日本酒輸出実績は434.7億円(前年比105.8%)、輸出数量は3.1万KL(前年比106.4%)と金額・数量ともに前年度を越え、カナダやアメリカ、韓国、フランスなどが過去最高額となり輸出国数も過去最高を更新した。
輸出金額トップは中国、続いてアメリカ、香港だが、カナダやアメリカなど北米市場ではレストランや小売店での取り扱いが増え、輸出金額・数量ともに大きく成長している。10年前と比べ、1Lあたりの平均輸出金額は705円から1400円と約2倍に上昇し、「プレミアム」な日本酒の需要が拡大している。
日本酒造組合中央会は、世界のソムリエへ日本酒の魅力を理解してもらうため、2022年に国際ソムリエ協会(ASI)とのパートナーシップを締結。ASIの主催する各地のソムリエコンクールや若手ソムリエ教育プログラムへ参加し、コンクールで受賞したソムリエを日本に招聘するなど、ガストロノミー分野で影響力が高い彼らに対する啓発活動に力を入れている。これにより、ソムリエを通じて世界中のファインダイニングで日本酒が扱われるように展開したいと考えている。
ワイン文化が浸透しているカナダでも過去最高額を記録し、その存在感を高めている。この背景には日本文化・日本食ブームが続き、現地レストランや販売の取り扱いが増加し、ファインダイニングとよばれる富裕層向けのレストランで新たに日本酒を提供する機会も増えている。今後、さらにソムリエやシェフなどへの日本酒の多様性や食とのペアリング優位性、サービス方法等の提案が継続されれば、一層の浸透が図れるだろう。
カナダで一層の高まりが期待される「日本文化や日本酒に対する認知度や関心」
当日は日本貿易振興機構(ジェトロ)の理事を務める河田美緒氏が登壇したほか、オンタリオ州の日本酒インポートエージェント団体「Sake Institute of Ontario(SIO)」の小澤彰太郎会長の司会のもと、2018年に「酒サムライ」の称号を持ち、カナダ国内外で精力的に日本酒の普及に取り組んでいるソムリエのマイケル・トレンブレー氏が日本酒に関する基礎知識や文化、歴史について講義を行った。
また、日本政府観光局(JNTO)トロント事務所が提案する「Sake and Beyond」のプレゼンテーションでは、日本の伝統的な酒造りの技術や文化を深く理解できる日本各地の酒蔵を紹介した。イベントの後半は、SIOメンバーによる日本酒の試飲会とそれに合わせた日本食が振る舞われた会場では、ジャパンファウンデーション・トロントの山本所長が挨拶を述べ、来場者たちはテイスティングを堪能した。
ジェトロ・トロント事務所の幡野裕一所長は、「今回のイベントはチケットが即完売するほどの注目を集めました。日本酒は日本文化を象徴する重要な要素であり、その市場拡大には戦略的な取り組みが欠かせません。カナダ市場は高いポテンシャルを持ち、今後の成長が期待される段階にあります。そのため、日本の事業者が成功するためには、単に商品を輸出するだけでなく、現地の消費者に受け入れられる環境を整えることが不可欠ですので、今回のようなプロモーションなど今後も力を入れていきたいと思います」と語ってくれた。
河田美緒理事 一問一答
ー理事は北米市場全体を見ていらっしゃるということですね。今回、日本酒に焦点を当てた場合、カナダのポテンシャルについてどのようにお考えですか?
そうですね。カナダは非常にポテンシャルのある市場だと思っています。実際に、日本食の人気が高まっており、日本からカナダへの食品輸出もここ数年で大幅に増加しています。日本食の人気の高まりとともに、日本酒の需要も確実に増えていると感じます。今回のイベントでも日本酒への関心の高さがうかがえました。
ー日本酒は日本国にとっても非常に重要なコンテンツですね。カナダ市場での展望をどのようにお考えですか?
日本酒は単なる飲み物ではなく、日本の文化や風土を反映したものです。それがカナダに浸透することで、日本文化への理解が深まり、より身近に感じてもらえるのではないかと思います。単に輸出が増えるだけでなく、日本文化の魅力を伝える役割も果たしていくと思います。
ートランプ政権の影響も含め、追加関税の行方が大きな話題になっています。
企業にとって非常に不安定な要素となっています。米国とカナダ間に関しても一定の猶予期間が設けられていますが、それでも今後の動向を注視する必要があります。企業によっては、早急に対応策を考えているところもありますし、一方でしばらく様子を見るという選択をしているところもあります。
ーその上で今後、カナダと日本の関係の結びつきについてどのようにお考えですか?
昨日オタワで「日本・カナダ商工会議所協議会合同会合」があり参加しましたが、そこであらためて確認されたのは、今後ますます日加関係が重要になっていくということです。カナダと日本は非常に良好な関係を築いてきました。日本とカナダが協力していくことの意義はますます大きくなっており、経済、技術、文化の各分野でさらに重要なパートナーシップを築いていくと思います。また、カナダにはシリコンバレーのような世界的なスタートアップの流れもありますし、アカデミアや研究機関との結びつきが強い印象を受けています。そして、カナダは資源が豊富で、日本とは異なる強みを持っています。両国の特徴を活かしながら協力することで、より良いビジネス環境を生み出せると思います。
伝統と革新が織りなす、日本酒と工業デザインの融合
会場中央には、ジャパンファウンデーションが2019年に催した「Ceramic Design For Sake Exhibition」の日本酒のために製作された陶磁器が展示された。
これらは日本各地の陶芸の中心地にある工房や工場で生み出された酒器で、職人の技を受け継ぎながら、現代的な感性を取り入れた工業デザインが、日本酒の新しい楽しみ方を提案している。シンプルだが個性が光るデザイン、手にしっくり馴染む質感。それぞれの酒器が持つストーリーを感じ、日本酒文化の進化を実感できるひとときだった。