商工賃貸について|そこが知りたい!不動産のプロが教える賢いカナダライフ【第51回 】
今回は、トロントでの商工物件についてお話したいと思います。商工物件の種類は、Office(オフィス)、Retail(店舗)、Industrial(工場、倉庫等)の大きく3種類に分かれます。本編では主にオフィスと店舗について取り上げたいと思います。
オフィスと店舗の平均賃料
トロント不動産協会(Toronto Real Estate Board=TREB)の2021年第4四半期の報告によれば、商工マーケットにおける賃貸案件数は前年に比べると大幅増加(前年同期比約40%アップ)、オフィスの平均賃料は増加し21・01ドル/sqft(前年同期比6.5%アップ)、店舗の平均賃料はほぼ横ばいで21・01ドル/sqft(前年同期比0.7%ダウン)でした。(図1)
2021年においてはオフィスと店舗の1sqft当たりの平均賃料は図2の通り、アップダウンを繰り返しました。
オフィスも店舗も第3四半期における平均賃料がもっと高く、オフィスは19・04ドル/sqft当たり(2020年同期比2.3%ダウン)、店舗は26・98ドル/sqft当たり(2020年同期比38・2%アップ)でした。
同じ第3四半期で比べますと、コロナパンデミックを迎えた2020年第3四半期の特徴は、オフィスの賃貸は増加し平均賃料もアップ、店舗の賃貸は減少し平均賃料も大幅にダウンしました。これに対して、2021年第3四半期はオフィスの平均賃料は横ばい、店舗の平均賃料は大幅アップと逆の結果となっていて、コロナ後の商業ビジネスの復調に向けて動き出した時期といえるかと思います。(図3)
図4は、2021年第3四半期におけるトロント市での取引実績に基づいたオフィスと店舗の平均賃料です。
商工物件の費用
賃貸商工物件においては、テナントが負担する費用として次の項目が挙げられます。
① HST… 住宅賃料にはHSTはかかりませんが、オフィスや店舗の賃料にはHST13%かかります。
② TMI… T(Property Tax)、M(Maintenance Fee)、I(Insurance)の3つすべてをテナントが負担する必要があります。例えば、
20ドル×1.13=22.6ドル(税込賃料)+15ドル(TMI)=37.6ドル×1000(sqft)=3万7600ドル(年間賃料)÷12=3133ドル(月賃料)となります。
③ 光熱費… 電気、ガス、水道、インターネット代などはテナント自身が負担します。
商工物件の探し方
① MLSで探す… MLSではオフィスや店舗の賃貸・売買情報、営業権の売買に関する情報等が掲載されています。しかし住宅物件の賃貸情報はMLSにほぼ9割掲載されているといわれるのに比べて、商工物件はMLSにすべて記載されている訳ではありません。
② 商工エージェントネットワークで探す… MLSに掲載する前のステップとして、「EXCLUSIVE」と呼ばれるクローズの形で情報がやりとりされる場合も多く、こうした情報は商工エージェントのネットワーク内においてやりとりされます。
③ 現場に行き探す… 特に店舗などはMLSを通じた一般公開情報にはされにくいため、現場でのみ賃貸情報が掲載されることもしばしばあります。またAAAランクのオフィスビルなどはオーナー側のリーシングマネージャーに直接連絡して賃貸情報を確認する必要があります。
契約について
契約を結ぶ際には次の点にご留意ください。
① 基本的に5年間契約… 賃貸商工物件において、住宅のようにレントコントロールはありません。そのため、テナントにとっては安定した賃料を確定するため、5年間の契約がもっとも多いケースといわれます。また、急に追い出されてはビジネスの致命傷になるため、初回5年開+2回の更新オプション(5年+5年)などを設け、長期的に物件を確保できるようにします。賃料は将来的には上がることがから、オーナーから5年間ごと、あるいは毎年数%又は何ドルずつの賃料アップを行う、と契約書に記載することを求められるケースも多いです。
② 弁護士のリーガルチェックが必須… 商工賃貸においては、期間も長く賃貸契約も複雑な内容を伴うケースもあるため、弁護士によるリーガルチェックが必須となります。特に店舗において、営業権を買い取ってビジネスを行う場合、営業権譲渡に関する売買契約、ならびに店舗物件自体に関する賃貸契約の両方のレビューが必要です。営業権買取りの場合、後で賃貸契約書を確認したらニーズと合っていなかった、ということにならないよう十分に検証、確認する必要があります。
③ 契約成立の前提条件… 営業権買取りにおける賃貸契約書のチェック、市当局からの許認可の取得など、ビジネスにおいて必須となる要素がきちんと満たされなかった場合には契約を白紙撤回できるよう、契約成立の前提条件を入れることも大事です。
④ フリーレント… オフィスや店舗には契約締結後に内装期間が必要となります。そのため、フリーレントとして数か月間の賃料を無料にしてもらうか、オーナーに内装費用の一部を費用負担してもらうなど交渉し、契約に明記する必要があります。
留意点
⑤ 契約違反による立ち退き… 例えばテナントが賃料を滞納した場合、住宅においてはテナントを追い出すことは実現するには時間を要しますが、商工物件においては弁護士の介入のもと、オーナーは鍵を取り換え、店舗やオフィス内に残っていた物品を差し押さえ、これを売却する権利を有します。
⑥ 途中解約時のサブリース… 例えば現在のオフィスの賃貸契約が5年間で、まだ2年しか経っていないけれどオフィスを移転したい場合、残存の3年間についてサブリース相手を探すことができます。一方、5年間は長いけれどまずは2年程度の物件を探したいというケースにおいて、サブリースの物件を探す方法も有効といえます。
商工物件も住宅同様に人気のエリアや良物件は非常に動きが速いです。十分に情報収集すること、契約書レビューをきちんと行うこと、スピーディーに判断することが大切です。
※弊社では、オフィスや店舗等の賃貸・売買商工物件、営業権買取りのお手伝いもいたします。お気軽にご相談ください!