世界がアートで満たされていったなら 第38章
おらっちはHot Springだら。温泉はARTだ。
野沢温泉に行ってきた。名曲『おぼろ月夜』の舞台となる菜の花畑、おいしい漬け物の「野沢菜」のあの野沢温泉。町内にある約30の源泉は、湯仲間と呼ばれる地域住民によって維持管理され、13の共同浴場=外湯が一般公開・使用されている。最近では “シャレオツ”なお店も多く、進化したのかなと思いきや…実は日本の温泉、世界から大人気なのです。野沢温泉の場合、冬のスキーシーズンには大勢のオーストラリア人観光客が訪れるらしく、オーストラリア人オーナーが展開する約20件もの民宿もあるとか。今度はスキーシーズンに行ってオージーと絡もうかな(笑)。
と、アートコラムである事を忘れそうになりましたが、世の中の多くの隔たりや境界線を越えて共感できる温泉。人と人とを結ぶアート=温泉のアートフェスティバルも実はあるのです。温泉大国日本では、『混浴温泉世界/別府アートマンス(大分県別府温泉)』や『道後オンセナート(愛媛県松山道後温泉)』といったものが有名です。実際に行かれた事のある方もいるのでは?「男も女も、服を脱ぎ、湯につかり、国籍も宗教も関係なく、武器も持たずに丸裸で、それぞれの人生のあるときを共有する。(混浴温泉世界ホームページ、コンセプトより抜粋)」なんて素晴らしい。オリンピックへ向けた昨今、日本の文化戦略という言葉をよく耳にしますが、お役所、企業、その他皆様にもぜひ、平和的な武器=アート、文化へよりいっそう力を入れていただきたいものであります。
温泉はさておき、日本各地で盛んになった地域密着型アートフェスティバルは、官民が協力し、一般市民がボランティアや運営スタッフとして関わるものが多い。フェスティバルそのものが関係性の芸術というアート作品なのだろう。関係性の芸術(リレーショナルアート/英語だとRelational Art)という言葉が使われるようになって久しい。90年代、フランスのキュレーター、ニコラ・ブリオーが提唱したこの手の芸術、アート作品の内容や形式よりも、制作のプロセスの中で生まれる周囲の参与(Participation)コミュニケーションこそがアートである、という考え方。今年7月26日に開幕する、新潟県の『大地の芸術祭』でも河岸段丘の自然豊かな農村がそっくりそのままアート化する。
一方で、世界の有力キュレーターの何人かは、このリレーショナルアートの動きは終わっている、と言っている。その根拠がどういった物なのか想像するところ、市民の参加によってお祭り的に皆で作っていく楽しさの代償として、その専門性や希少価値が無くなってしまっていることが大きく関係しているのだろうと思う。
作品の内容や質が特異な物ではなく一般受けする理解されやすいものになってしまうと、どこのフェスティバルへ行っても似たような物ばかりで、わざわざ行く必要もなくなってくるのである。アートフェア然り、アイドルグループ然り、地方ショッピングモール然り、、大衆化する文化の宿命とも言える単一ジャンル化、マンネリ化、つまらない化。温泉文化はとりあえず気持ちいいのだが、地域特色の再検証を通じた他地域との明確な差別化、魅力を十二分に伝える活動が重要になってくるように思える…なんて露天風呂につかり考えながら、一杯いかまいか。
Today’s his WORK
縄文トンネル(グラフィティ)制作現場(2015年)
キース・へリング、マドンナらを輩出した80年代のニューヨークのクラブのミックスカルチャー現象(のようなもの)を、『縄文トンネル』内にて制作。廃材やペンキ垂れ流しを火焔型土器や演歌のCDのメロディーと一緒に展示するという日本的文化融合を試みた。
武谷大介 Daisuke Takeya
武谷大介は、トロントを拠点に活動するアーティスト。現代社会の妥当性を検証するプロセスを通じて、その隠された二面性を作品として表現。ペインティング、立体作品、インスタレーションなどその作品形態は多様で、国際的に多岐に渡る活動を展開。展覧会に、福島ビエンナーレ2014(’12)、新宿クリエイターズフェスタ2014、六本木アートナイト2013(’12)、Artanabata 織り姫フロジェクト(仙台)、女川アートシーズン(宮城)、くうちゅう美術館(名古屋)、MOCCA(トロント)、国際交流基金トロント日本文化センター、在カナダ日本国大使館、ニュイブロンシュ(トロント、’06、’07)、六本木ヒルズクラブ、アートフォーライフ展(森美術館)、京都アートセンター、ワグナー大学ギャラリー(NY)、SVAギャラリー(NY)、ソウルオークション(韓国)、在日本カナダ大使館内高円宮殿下記念ギャラリー、セゾンアートプログラム(東京)、メディアーツ逗子など多数。今年は、トロント市内クリストファーカッツギャラリーにて個展開催予定
大地プロジェクト共同代表、遠足プロジェクト代表。過去にアートバウンド大使 、日系文化会館内現代美術館理事、にほんごアートコンテスト実行委員長、JAVAリーダーなど。カナダでのレプレゼンテーションは、クリストファーカッツギャラリー(www.cuttsgallery.com)、 著書に「こどもの絵(一莖書房)」。www.daisuketakeya.com