世界がアートで満たされていったなら 第41章
アイデアってみんなのもの?Property of all
佐野研二郎氏作の2020東京オリンピックの大会エンブレムが白紙撤回され、 ザハ・ハディド氏による新国立競技場案と共に新たに公募し直すという事に。今回のオリンピックに向けた諸処の不祥事についてどう考えたらいいのだろう。色々と心配である。ザハ氏の設計コンセプトは優れているし、佐野氏のエンブレムのコンセプトもなかなかであると思える。「でもね、大会エンブレムは素人でもわかるパク*じゃねえすか」と思われている方々も多いのではと思われる。
ここで、ソル・ルウィットの言葉を引用したい。ルウィット氏は、言わずもがな世界的なアーティストである。
I believe that ideas, once expressed, become the common property of all. They are invalid if not used, they can only be given away and can not be stolen. Ideas of art become the vocabulary of art and are used by other artists to form their own ideas (even if unconsciously)”. Sol LeWitt, 1973
ルウィット氏が、言わんとしているのは、アイデアと言うものは出された時点で全て公共となり、使われなければ無用の長物となるので、皆で使う他に選択の余地はなく、それ故に盗まれるということはあり得ない。アートに関して言えば、アートとは世に出た時点でアートのボキャブラリーとなるもので、それらのボキャブラリーを駆使してアーティスト達は自らのアイデアを作品化するものだ、というもの。
ルウィット氏の作品は幾何学形や色彩をバリエーション化し、複雑に組み合わせて作品化しているのだが、例えば色彩に著作権があったとしたら、アート史が無色で味気ないものになっていたかもしれない…と考えると全ての創造物が、何かしらの過去の創造物の二次創作であるという彼の考え方が見えてくる。
数十年前にニューヨークのデザイン事務所のインターンをしていた頃、よく42丁目のパブリックライブラリーにあった「ピクチャーコレクション」に素材を借りに行かされていたのを思い出す。このコレクションは過去の雑誌や新聞などから切り取られた画像がカテゴリーごとに整理されていて、多くのデザイン・イラスト関連の業種の人達がそれらの素材を借りに来て、手作業でコピペして使用していたのだ。ネットが広まるよりもずっと以前の話である。色々な過去の素材から作品が制作される…それは、最近始まったことではないのだ。
オリンピックの大会エンブレムの公募が、 国民の支持を得られる、開かれた文化形成の観点で行われていたなら、結果は全く別のものになっていたかもしれない。過去の事例が想起されるものが選ばれても、世論は擁護に回っていたかもしれない。ネット上にある厳しい意見にも、半分うなずける。半分うなずけるというのは、オリンピックという世界を巻き込んだ宴の成功は、開催国の世論が高まっていかなければ 望めないという意味で である。Property of all。最低でもオリンピック・パラリンピックとはそういったものであって欲しい。
Today’s his WORK
福島のアリス FUKUSHIMA NO ALICE
UNKNOWN ASIA公式サイト:http://unknownasia.net
武谷大介 Daisuke Takeya
武谷大介は、トロントを拠点に活動するアーティスト。現代社会の妥当性を検証するプロセスを通じて、その隠された二面性を作品として表現。ペインティング、立体作品、インスタレーションなどその作品形態は多様で、国際的に多岐に渡る活動を展開。展覧会に、福島ビエンナーレ2014(’12)、新宿クリエイターズフェスタ2014、六本木アートナイト2013(’12)、Artanabata 織り姫フロジェクト(仙台)、女川アートシーズン(宮城)、くうちゅう美術館(名古屋)、MOCCA(トロント)、国際交流基金トロント日本文化センター、在カナダ日本国大使館、ニュイブロンシュ(トロント、’06、’07)、六本木ヒルズクラブ、アートフォーライフ展(森美術館)、京都アートセンター、ワグナー大学ギャラリー(NY)、SVAギャラリー(NY)、ソウルオークション(韓国)、在日本カナダ大使館内高円宮殿下記念ギャラリー、セゾンアートプログラム(東京)、メディアーツ逗子など多数。今年は、トロント市内クリストファーカッツギャラリーにて個展開催予定
大地プロジェクト共同代表、遠足プロジェクト代表。過去にアートバウンド大使 、日系文化会館内現代美術館理事、にほんごアートコンテスト実行委員長、JAVAリーダーなど。カナダでのレプレゼンテーションは、クリストファーカッツギャラリー(www.cuttsgallery.com)、 著書に「こどもの絵(一莖書房)」。www.daisuketakeya.com