怪我を防ぐ方法|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第118回】
主な怪我の原因は、大きく分けて転倒や衝突、オーバーストレッチ、摩擦など様々で、一見違った問題のように見えますが、よく考えてみると全て体の柔軟性が関係している事がわかります。
なぜならば、転倒や衝突などの原因による体へ衝撃が加わったとしても、十分な柔軟性が有れば体へのダメージは最小限に防げるからです。足首を捻って捻挫したかな?と思っても、それが自分の足首の可動域内であればほとんどダメージは無いので、足首の硬い人とは結果が大きく異なります。
関節の周りの怪我の主な原因である摩擦の問題も、十分な柔軟性があれば基本的に摩擦自体が最小限に抑えられるので予防効果が大きく見込まれます。
ここで言う柔軟性とは具体的に何を指すかと言うと主要関節の可動域の確保です。足首、膝、股関節、仙腸関節、肩関節などの主要関節は、それぞれ関節が動く方向、動く角度が決まっています。
疲労が溜まってくると、その関節の可動域に運動制限が生じて筋肉等に負担がかかります。
このサインを見逃さないためには、各関節の特徴を理解して運動制限が起こっていないかを自分で確認するのが効果的です。なぜならば、可動域が制限されても痛みは伴わないので自分の目で確認するなどしないと長い間見逃してしまうのです。
主要関節の可動域の目安
足首関節の可動域は、通常、背屈(足を上方向に曲げる)で約20~30度、底屈(足を下方向に曲げる)で約45~60度です。膝の可動域は、大まかに言うと伸展(ストレート)、屈曲(曲げる)、内旋(内側に向ける)、外旋(外側に向ける)の4つの動きがあります。
膝の可動域の角度は、通常、完全に伸ばした状態から約140度までです。股関節の可動域は個人によって異なりますが、一般的には約120度から140度の範囲内で動くことができます。
仙腸関節の可動域は、正確な数値は人によって異なりますが、一般的には約5~10度程度です。肩関節の可動域は、前後に約180度、外転(腕を横に広げる)および内転(腕を体の前に持ってくる)それぞれ約90度から120度、上腕外転(腕を上に持ち上げる)は約90度から120度、内転(腕を体の前に持ってくる)は約70度から90度です。
これらの可動域を定期的に自己診断するのが大きな怪我を防止するのに効果的です。
自分の主要関節の可動域の制限が見つけられれば、その動きから関節の動きを妨げている筋肉を限定する事が出来ます。問題となる筋肉を見極めることが出来れば、正確なアプローチで効率の良いコンディショニングを行う事ができて、怪我防止に大きく役立ちます。
どちらかと言うと、この様に柔軟性を作るよりも、弱い部分を鍛えて弱い部分を補うという考え方が最近優位な様な気もしますが、関節が疲れて可動域に制限があるのに、そこを改善する前に鍛える作業をしたら、可動域制限が改善される事は無いので、無駄な負荷がかかってしまったり、鍛えたことにより期待できる効果が十分に見込めない可能性が高いです。
結果的に怪我防止対策として、どちらが有効か?
このような問題ですが、衝撃の力に鍛えた筋力で対抗するよりも柔軟性で衝撃を吸収した方が怪我のリスクを回避したり、怪我のレベルを軽減させる確率が高いというのが私の経験からくる印象です。
実際のアプローチは、どのように方法でも良いと思いますが、今回お話しした様なポイントが理解されていないと、どんなに良いテクニックでも、どんなに時間を費やしても、ほとんど意味がないです。数週間アプローチして改善が見込まれない場合、ポイントが抜けていると考えた方が良いでしょう。
主要関節の可動域を向上させるTAD式アイデア
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②膝のお皿の真上辺りを深く探って膝の上の腱を掴んで1~2分押さえる。
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③テニスボールの上にお尻で座って気持ちの良いポイントを見つけて5分くらい圧をコントロールしながら刺激する。
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④テニスボールの上に横向きの体勢で左右の股関節を乗せて圧をコントロールしながら5分位刺激する。
①②③④のアプローチにより足首、膝、股関節動きを妨げる部分が緩むので主要関節や周りに筋肉の緊張を緩めて柔軟性の高いコンディションを維持する事が出来ます。この様な基本的なアプローチをした上で普段行なっているエクササイズやスポーツを行えば怪我のリスクが少ない効率的なパフォーマンスが得られると思います。