金メダルを取るコツ⑥ 「元高校野球・強豪校のピッチャー」|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第84回】

肩が上まで上がらない!
今回は、元高校野球・強豪校のピッチャーの話からスタートです。その彼は、痛みはないが高校で野球をやっている時から肩が上まで上がらないんですと言います。詳細を聞いてみると、中学生の時はピッチャーとして成績が良かったが、高校に入ってから①コントロールが悪くなり、②スピードも落ちて、野球部コーチからオーバースローからアンダースローに転向を勧められた(肩が上がらないため)とのこと。アンダースローは上手くいって甲子園出場が決まったが、バッティング練習中に肩を痛めて、自分だけ甲子園出場する機会を逃し苦い経験となっていると教えてくれました。
現在の生活にはあまり支障のない肩の問題ですが、裏には深いストーリーが隠れていた!
これだけの歴史のある15年物の肩のトリートメントは、結果として15分ほどで改善しました。しかし、肩が動いたのは良かったのですが、15分で改善した事から考えると、
むしろ、このように考えた方が話のつじつまが合うのではないかと感じました。この仮定をもとに前述ストーリーを書き換えると、

これは、コンディショニングによりアスリートの人生を大きく変えてしまったストーリーなのです。
TORJA読者のアスリートのみなさんが、できるだけ後悔の残る現役生活を送らないようにこのストーリーをご紹介しました。このストーリーをベースに、より良い結果へ辿り着くために、どの様なことが出来たのか考えてみたいと思います。
Point1. スランプの脱出法
以前、イチロー選手がスランプから脱出する方法は、「何もしない事!」と回答していた記憶があります。私も基本的にこの意見に賛成です。私はアスリートが、いきなり技術的にスランプに陥ることは無いと考えているので、下手に技術的な修正を加えると、かえって悪化させる可能性があると思うからです。
一番初めにやるべき事は技術的なことでなく気持ちと体をニュートラルポジションに戻すことだと思います。スタートラインがハッキリしないと修正しようが無いからです。
Point2. 問題点の見極め方
オーバースローのコントロールが悪くなった時に、少なくとも手首・肘・肩の動きを丁寧に観察していれば、肩の運動制限が見つかり良い方向に転んだ可能性が高いです(問題点がクリアーになれば改善できた可能性がある)。
Point3. 肩の動きの見極め方
肩の6つの方向の基本動作を観察します。
2) 腕を後方向に肩の高さ位まで上げられるか?
3) 腕を外側に回して耳に触れるか?
4) 腕を体の前を内側に回して反対側の肩の高さ位まで上げられるか?
5) 肘を90度に曲げて「小さく前に倣え」の状態で内側に90度回せるか?
6) 肘を90度に曲げた「小さく前に倣え」の状態で外側に90度回せるか?
動作を言葉だけで説明するのは難しいのですが、興味がある方は「肩関節の可動域」などのワードで検索すると動画などが見つかります。
ポイントはどこまで動かせることができるのか理解することです。
Point4. 肩の動きの改善法
痛みが出たり、十分に動かせないのは、硬くなった筋肉が邪魔をしている可能性が高いです。基本的に、「痛みの出る部分=硬い部分」を適度な刺激のセルフマッサージやストレッチで緩めてあげると肩の本来の動きが回復します。
改善する箇所がハッキリせずアプローチを始めるのでなく、目的を持って始め、効果を確認することが大切です。
Point5. 俯瞰的アプローチ
肩の問題でも原因は肩周辺にあるとは限りません。肩周辺にくっついている筋肉の反対の端は背骨にくっついていることが多いので、背骨の脇を首から腰辺りまで1ポイントづつ順番に深く探っていくと、他と比較して緊張が高い改善すべきポイントが見つかります。
背中の強い緊張は、肩の動きを妨げるだけでなく背骨の柔軟性を阻害します。背骨の改善ポイントにフォーカスして緊張を取ることにより、それだけで肩の動きが回復することもあります。俯瞰的アプローチを省略して、違和感のある肩周りだけフォーカスしても根本的な解決策にはつながりません。
野球選手の例の様に、改善点がうまく見つからずに長年放置され、本人も諦めモードに入ってしまうのはよくあることです。
問題点を長年放置しないために知っておくべきこと
通常、X線やスキャンなどで内部状況を確認して骨折など特別な問題のない場合、基本的に4〜6週間あれば回復するのに十分な時間だと言えます。つまり、それ以上経って回復が見られない場合は方向性が間違っている可能性が高いと言えます。
ポイント1〜5のように基準を持って、丁寧にコンディションを見直すことをお勧めします。
治るべきものが治らない理由
通常の初期対応においては痛みのコントロールが優先されるため、運動制限などは見逃されがち(我慢できてしまう)です。痛みが強い、常に痛むなどの炎症を伴う痛みは、炎症が治れば改善される可能性が高いですが、エンドモーションに感じる痛み(動かしていった最後に痛む、体重がかかる、捻るなどに誘発される痛み)は、いつも痛いわけでないので長年見過ごされる可能性が高いです。
厄介なのは痛みが不定期なので、本人の自覚なしに長期間にわたり、体に負担をかけて2次的な問題を引き起こす事が多いことです。
関節の動きが悪いのを、「我慢できるからいいや」と長年放っておいたせいで、関節内の軟骨をすり減らすなど大きなを問題となるケースもあります。
この様に、大きな問題は積み重ねから起こるので、あまり気にならない様な慢性症状を見逃さずに対処するのが致命傷となる状況を防ぐ重要ポイントです。
金メダルを獲るコツは、痛みや疲れといった自覚しやすく見えやすい問題を対処するだけでなく、①見えにくい、②感じ難い、③我慢できる程度の問題点を見つける、④アスリート本人が気づくように情報提供して、問題点を私に話して貰うこと、だと考えています。
この一段高いレベルのコンディショニングを心がけてきたことにより、日本、カナダ、スペイン、ポーランドなどトータル20人近くのオリンピック選手から信頼を得てサポート、金メダルに導く結果となっています。そして、これらの経験を日々トロントの患者さんのトリートメントに生かしています。





