vol.12|『激しく煌めく短い命』|翻訳の窓から – 書評で読む世界


〈私は久乃が好き。久乃は私が好き。それで十分やろ〉
綿矢りさが『生のみ生のままで』から六年の時を経て、再び女性どうしの恋愛を描いたのが本作『激しく煌めく短い命』(文藝春秋)である。京都での中学生時代の出会いから別れ、そして十七年後の東京での再会が綴られる。
語り手の悠木久乃は、入学式の日、たまたま隣に並んだ朱村綸に髪の毛を結んでもらう。中学入試の失敗を高校受験で取り戻そうと真面目に勉強する久乃の生活は少し窮屈だ。イジメの餌食にならぬように目立たないように過ごしている。対して綸は明るく自由奔放で、派手な女子グループのファッションリーダー。対照的な二人は不思議と惹かれ合い少しずつ距離を縮めていく。
コギャル、援交、ルーズソックス……。平成初期の日々を背景に、友情とは少し異なる感情に戸惑いながら手探りでスキンシップを深めていく二人。だが、周囲の目や差別意識が恋路の行く手を阻む。中学校で少しでも異質だと思われたら、たちまちイジメの恰好の標的となる。〈京都ならではの差別意識〉や排他的なコミュニティーの圧力にも取り囲まれ翻弄された久乃と綸は、壊滅的な別れを迎えた。
時は流れ、平成の終わり頃の東京。広告代理店に就職した久乃は孤独な日々を送る。ある朝、SNSに〝りん〞の名前を見つけて、彼女に再会する機会を得る。
久しぶりに会う綸は、年下の恋人のプロポーズを待って東京で暮らしていた。誰とも深く関わらずひとりを貫いてきた久乃の胸で恋心に再び火がともる。改めて少しずつ距離を縮める二人。そこに影を落とすのは綸の恋人だ。しかし一つの事件が綸の人生に大転換をもたらし、久乃に大きな決断を迫る。
〈私と綸を一番差別しているのは……私自身だ〉〈私たちは……今ある時代しか生きられない〉。立ちすくんでいた久乃は、深呼吸をして一歩踏み出す。十代の幼い恋で自らを傷つけた少女は、今それを愛という剣に変えて、〝激しく煌めく短い命〞を携え人生を切り開こうとしている。二人の恋を見守ってきた私たち読者は、そっとエールを送ろう。

眞鍋惠子
書評家・豊﨑由美を師と仰ぐ翻訳文学書評グループBookpottersのメンバー。英日ときどき仏日の字幕翻訳者。




