園長先生!気付けば息子も大きくなりました・・・第11回 「日本を伝える」
20年前に誕生した「池端ナーサリー・スクール」。その園長であり創設者の池端友佳理さんのそばにはいつも日系三世のご主人・マークさんと現在21歳で大学在住中の健人くんがいた。母親であり、教育者であり、また国際結婚移民をした友佳理さんとその家族の笑いあり、涙ありの人生をシリーズで振り返ります。
文■池端友佳理 (池端ナーサリー・スクール園長)

子育ての中で一つ、後悔している事が私にはある。私は京都出身なのだが、健人に私の心である京都(関西)弁を受け継がなかったことである。多くの方がご存知の様に、関西人と言うのは、関西弁を誇りに思っているものだ。いや、日本を語る時に方言なしには本当の日本文化を語れないのではないだろうか。あれほど小さくて狭い国で多種多様な各地の方言。日本の素晴しい特徴だと思う。
健人が小さかった頃「ぼくのお母さんはね、英語と日本語と、関西弁が話せるんだよ」と、自慢げに色々な人に言っていた。故郷に帰る度に、言葉のスイッチを入れ替えている私の姿に息子は感動してくれていた。「健人もそのうち話せる様になるよ…」と言われていたが、その環境になければ話せるはずもない。健人が1歳になる前からホームデイケアをしていた私は、日本の様々な地域から来られている家族の子供達をお預かりしていた関係上、標準語で対応することにしていた。その中にいた健人は当然、私の標準語を聞いて育っていたのだ。
健人は小学校と中学校の時、3週間ずつ日本の学校で体験入学をさせて頂いた。その際、周りは皆関西弁で健人も一生懸命関西弁を話そうと練習までしたものの、どうしても話すことが出来なかった。関西人でない俳優がドラマで関西弁を話しているかの様な違和感がどうしても取れないのだ。
未だに「どうしてお母さんはぼくに関西弁を教えてくれなかったの?!」と問いただされる。本当に、何故なのだろう…今からでは遅い。まるで”日本人でありながら、子供に日本語を教えなかったのは何故?”と言う程、深刻に受け止めている。
親が家庭内で話しているのを聞いて育つ以外、海外に住む子供達にとって、この”方言”の存在を教えるのは非常に難しい。北は北海道から、南は沖縄まで日本には掛け替えのない地域別な文化がぎっしり詰まっており、方言はそれに深く関係している。
また、日本には今では使うこともない古くからの言葉も豊富にあり、当時の温かみが伝わって来るものもたくさんある。例えば、「おっとう、おっかあ、おらは….」昔の農民達の生活がにじみ出る様な言葉は、なんて温かい庶民の響きを感じさせるのだろう。
”ぼうや〜、良い子だ、ねんねしな…”。私が子供の頃から存在する「日本むかしばなし」は子供達に昔ながらの口調で民話を語り継ぐ、貴重な番組だと思う。健人が子供の頃はビデオしかなかったので、日本から取り寄せて親子で楽しんだものだ。
その様な日本を伝えるには、ナーサリーの先生達にも活躍してもらわねばならない。ナーサリーには、色々な出身地の先生達がいるが標準語に直す様になどとは指示していない、いや、それどころか、自らの言葉を大切にしてもらうことを推奨している。関西弁の先生が「なんでやねん」と言う言葉を右手付き(漫才師が相方に突っ込む様な仕草)で話す言葉が流行った事があった。活きた日本語とは環境の中に生活溢れる言葉が飛び交っている状態であり、私の理想とする所である。
関連して、ナーサリーで大切にしているのは、昔ながらの文化と習慣、つまりそれらを行事として園児達と共に楽しむことである。方言を伝えるよりは簡単と言えるだろう。
私自身、子供の頃から、京都では何に付けてもお祭りごとや行事が常に周りにあった。それらを迎える事によって季節を、また、年の節目を自然に体で感じていた様に思う。私にとって、故郷『日本』は魂である。全く同じとは言えなくても、健人にはカナダの行事に交えて、日本を感じて欲しいと思う気持ちは強かった。ここカナダに於いても、私は健人とは子供の頃から今に至っても、カナダでの行事に加え、日本の行事を大切にしている。それは、日系文化会館やナーサリーなどで行われている季節の行事にボランティアという形で参加することでもある。お正月はマークの家族や親戚一同で行うことはもちろん、日系文化会館でのお正月会も良い感じで恒例となっている。家族で行う節分の恵方巻きのまるかぶりや端午の節句(大人になってからはあまりしなくなったが…)、七夕のナーサリーボランティア(園児達も楽しみにしている流しそうめん)や夏祭り、そしてお盆にはお墓参りもしている。これらは強制した訳でもなく、あくまでもいつの間にか習慣化された事であり、健人もそれらを楽しみにしているのが私としては嬉しい限りだ。カナダに住み、子供を育てる読者の皆様にも、ぜひこの日本体験を子供さん達にもさせてあげて欲しい。特に日系文化会館では様々な催し物が開かれおり、参加自由であるから、ぜひ足を運んでみてはいかがだろう。
ナーサリーでも、各月で日本の行事を紹介し園児と共に楽しんでいるが、そこには食文化がいつもそばにある事も忘れてはならない。行事に合わせて、特別ランチやおやつも用意される。行事と料理の関係は、方言の様に地域ならではの、おもしろみのある背景が共存する。反して、カナダの行事は歴史が新しいからなのだとは思うが、どうも甘みのあるチョコレートやスナック類が関係している様に思えて残念でもある。
それに比べると、歴史ある日本は行事に関連した食文化も多様で非常に楽しい。お正月のお節料理に始まり、お雑煮などは各地で味も材料も違う。先ほどお話しした節分も恵方巻きなど関西地方から別の地方隅々まで広がったのは最近の情報網からによる結果であろう。桃の節句の甘酒やちらし寿司、ひなあられ、端午の節句の柏餅やちまき、お盆は各地方で当地郷土料理があり、お月見の団子など…日本の真髄である文化、行事、料理、方言などは根深く繋がっている。それらを海外で住む子供達にも伝えて行きたい!!
それが私達の願いであり、また日々、追求すべき課題なのである。
池端友佳理 – 京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。













