園長先生!気付けば息子も大きくなりました・・・第33回「擬声語のススメ」
20年前に誕生した「池端ナーサリー・スクール」。その園長であり創設者の池端友佳理さんのそばにはいつも日系三世のご主人・マークさんと現在21歳で大学在住中の健人くんがいた。母親であり、教育者であり、また国際結婚移民をした友佳理さんとその家族の笑いあり、涙ありの人生をシリーズで振り返ります。
文■池端友佳理 (池端ナーサリー・スクール園長)
最近特に世界中で知られるようになったマンガやアニメ。子供から大人まで年齢層•人種を問わず大人気ですが、この中に出てくる音の表現『擬声語』がマンガなどでは重要ポイントになってきます。日本にはこの『擬声語』が他の国とは比べられない程、数たくさ〜ん存在しています。日本語のマンガを外国語に訳す際、一番難しいのがその表現法とまで言われています。
この、擬声語と言うのは、物が発する音を字句で模倣して表した『擬音語』、これはパチパチやドカーン、ごろごろ〜〜と言ったものと別にもう一つ、状態や感情などの音を発しない(音の出ないもの)ものをわざわざ字句で模倣した『擬態語』、これは”静けさ”を表す「しーーん」とか、”散らばっている様子”を表す「ばらばら」などです。この擬音語と擬態語の2つを総合して擬声語と言っています。
これらの擬声語は私たちの生活に密着しており、気付かないうちに毎日たくさん使っています。擬声語は耳に入りやすく、その音は子供達も覚えやすいのです。ですから、これを使わない手はないのです。
私どものナーサリーでは、まだ言葉を発していない子供も多いので、毎日言葉のシャワーを浴びせて日本語を蓄積してもらう時期になります。
特に乳幼児期の子供と言うのは短くて分かりやすい言葉を吸収していきますから、擬声語などを私たちもよく使っています。もちろんきちんとした名詞も使いますが、とくに最年少組さんなどでは「ワンワンだよー」とか「しゅっぽっぽだねー」などと使います。教育関係の一部では乳幼児に対して赤ちゃん言葉を使うべきではないと文献にあったり、そのように指導する人もありますが、私個人的には海外に住む私たちの場合、擬声語としての赤ちゃん言葉は大いにありだと思うんですね。
例えば「車を片付けて」と言うのと同時に「はい、ブーブー片付けるよ。」と良いながら片付けたりすると物の名前が子供の中でも一致しやすく、また子供達自身もそれらが覚えやすく言いやすいのでブーブー、ブーブーと言いながら片付けたりします。
牧場に行って「牛」と言う言葉が分からなかったり言えなかったりしても「もーもー」だとすっと出てくる…と言った感じです。
特に擬声語と言うのは音と意味が直結した言葉ですから、ちょっとした違いであってもその違いを伝える事が出来ます。
日本の小児科などに行きますと子供がおなかが痛くて受診した場合など、「ぎゅーっと痛い」とか「ジンジンする」「ちくちくする」などと表現する事があります。
これはその痛みの状態をこう表現するんだよ、と言葉で教えた訳ではもちろんありません。ぎゅーっとと言う状態、ジンジンやチクチクと言う感覚を生活の中で体験し、その言葉と結びつけてそれを体験した感覚で覚えて行くのです。
そして、実際にこの様に考えることが出来るのは日本語の言語感覚を磨くのに非常に役立ち、これらを上手に使うと日本語がとても豊かに表現ができるようになるのです。
特に擬態語は本来は音や声が出ない状態を文字によって象徴的に表している言葉ですからその状態が理解できないと非常に難しい訳です。まさに周りの環境、生きた日本語の中からしか学べない、しかも、小さな頃から耳にしてその感覚を養う必要があるのです。
こう言った事から擬声語と言うのは幼児時期から出来る日本語教育にとって欠かせないものの一つと私は捉えています。
これは小さなお子さんだけでなく、子供が大きくなっても日々の生活の中で大いに活用して欲しいですね。何気ない会話の中にもたくさん使って子供に体験させてあげる事が必要です。例えば、「あー、試合を見てるとハラハラドキドキするね〜。」とか、「雪がしんしんと降ってるね」「春の日差しがぽかぽかしてて、風がそよそよ吹いて、気持ちいいねぇ〜」などと言った風にです。
生活の中から五感を通して擬声語を学ぶ。分かっている子とわかっていない子とでは、マンガやアニメの楽しみ方にも大きな差が出て来るでしょう。
我が家の健人もそうでしたが、マンガを読んで日本語を学んでいた時期は日本語が大いに伸びましたし、実は未だに日本語の勉強と言えばマンガのお世話になっているくらいです。…等と言っている私もマンガで育ち、今も大好きです。カナダで育つ子供達にとっても、マンガやアニメは日本語教育の大きな味方だと思いますよ。
池端友佳理 ー 京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。