園長先生!気付けば息子も大きくなりまし…第47回
「思いやりの気持ちは掃除から」
21年前に誕生した「池端ナーサリー・スクール」。その園長であり創設者の池端友佳理さんのそばにはいつも日系三世のご主人・マークさんと現在23歳で大学在住中の健人くんがいた。母親であり、教育者であり、また国際結婚移民をした友佳理さんとその家族の笑いあり、涙ありの人生をシリーズで振り返ります。
突然ですが…日本で育って来た方ならば、必ず経験するのが放課後の掃除。自分の学び場である教室はもちろん、共同のトイレ掃除や、靴箱も定番ですよね。当然、私は子供の頃はこの掃除当番が大嫌いでした。汚い事をするのが嫌とか面倒と言うよりは、せっかくの貴重な放課後の時間を一分でも早く遊びに行きたいのに、掃除の時間に取られると言う事が嫌だったのです。今では、この掃除のシステムって、なんて素晴らしいのだろう!といつも思います。
コラムを書く中で私がいつも言う事なのですが、私が思い描いている日本文化、日本語教育と言うのは、押しつけではなく、自然に身に付く環境を子供達に与えてあげることです。
これは学校生活の中の習慣もその1つです。『3つ子の魂、百まで』と言いますが、この1番重要な時期に私どもは大切なお子さんたちをお預かりしている訳ですから、言葉の面だけではなく、精神的な面でも生活の中から日本人としての思いやりの心が育って欲しいと願っています。
日本の学校の様に放課後の掃除当番とまではいきませんが、ナーサリーでは年長組さんになると、食後にお当番さんが雑巾がけをします。これは自分たちが汚したものを自分たちでキレイにするためです。掃除する事によって汚い状況に気付き、次は掃除する人が困らない様に出来るだけ汚さない様に上手に食べようと、1人1人が気をつける事でお掃除する人も助かると言う事が身をもって分かり、他人に対する思いやりも自然に養われます。これこそが、日本の学校における放課後の掃除当番の意義なのではないでしょうか。この毎日の繰り返しで、子供達の心に他人や周りを思いやる気持ちが芽生えるものだと私は信じています。
ところが、先月何気なく聞いていたトーク・ラジオ番組(リスナーがテーマに沿った内容に関して自分の意見を電話をかけて言える番組)で、4月下旬のアースデーに行われた学校内における生徒達によるゴミ拾いが問題になっていると言ったものでした。オンタリオではアースデーにちなんでこのイベントはよく行われているものであり、ナーサリーでも取り入れて行っている事ですから、これが何故問題に?と、ビックリしてしまったのですが、ある一部の学校で保護者から苦情が出たとの事で、それが話題に取り上げられていたのです。
ラジオのホストは、小さな子供達であっても社会人の一員としてアースデーの日くらい社会に貢献して、それを実感するのはとても良い事ではないか?との問いかけに、私は反対する人等非常に少ないのでは?と考えていたのですが、それに対し、意外にもリスナーから反対の意見がいくつもかかって来ていました。
「市民は高い税金を払っているのに、子供達に働かせて掃除職員はこの日は一体何をしているんだ!」
「この掃除にかかる時間のために削られた授業時間はどうなるんだ?」
「せっかく掃除をしたのであれば、その報酬として子供達に褒美をあげるべきだ。終わった後に子供の好きなスナックか何かを配って子供達の行為を賞賛すべきだ」
等々、色々な声が聞かれました。
カナダ、特にトロントは人種のるつぼであり、色々な背景の人達が共存している訳ですから、色々な意見があって最もだと思います。しかし、子供達がわずか1日、短い時間、自分たちの汚してしまった場所をきれいにするのに、子供達が関与出来る機会さえも否定する人がいると言う実情に私は非常に驚きました。「日本では毎日放課後に生徒達が掃除するから、わざわざ教室の掃除職員を雇う必要はないんだよ」と、本気でラジオ局に電話したい気持ちになりましたから(笑)
健人が小学校5年生の時、日本の小学校に体験入学させてもらった際、自分たちで教室掃除やトイレ掃除までする事に大変驚いていたのが印象的でした。私にすれば、ごく当たり前の日本の学校生活は健人にすると考えられない事だったのです。
そしてその後すぐにトロントで学校職員のストライキがあり、トロント中の学校の中が汚くなりゴミ箱はゴミで溢れ廊下まで散らかり非常にひどい状態になった事がありました。それを見て健人が、「どうしてカナダでは自分たちの学校を自分たちで掃除しないんだろう?きれいにしようと思わないんだろう?汚くしたら嫌な思いをするのは自分たちなのに。」と言いました。そう言う気持ちになってくれた事が私としてはとても嬉しかったですし、ナーサリーの子供達も普段の生活からみんながそう思ってくれる様になって欲しいなーと切に願っている次第です。
池端友佳理ー 京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。