園長先生!気付けば息子も大きくなりまし…第48回
「消え行く父の日・母の日?」
22年前に誕生した「池端ナーサリー・スクール」。その園長であり創設者の池端友佳理さんのそばにはいつも日系三世のご主人・マークさんと現在23歳で大学在住中の健人くんがいた。母親であり、教育者であり、また国際結婚移民をした友佳理さんとその家族の笑いあり、涙ありの人生をシリーズで振り返ります。
先月の父の日は皆さまいかが過ごされた事でしょう。遠い日本のお父さんを思って電話を入れたり、プレゼントを贈られた方もいらっしゃるでしょう。お子さんの居るご家庭ではお父さんと一緒に過ごされたでしょうか。私も亡き父の事を想い、また主人とお義父さんと健人と一緒に楽しいひと時を過ごしました。
ナーサリーでも園児達は自分たちの顔写真付きの父の日カードとクラフ トなどを作ってお父さんにプレゼントしました。
そんな中、ネット上で日本の『保育園で「父の日・母の日」行事の中止相次ぐ ひとり親の子どもに「つらい思い」させないため』と言う記事を目にして、日本ではだんだんこうなって来ているんだ、とびっくりしてしまいました。理由は片親世帯など複雑な事情を持つ家庭が増えたためで、多くの保育園が、ひとり親などの子供への配慮としてイベントを取りやめているそうなのです。実際の所、多くの人がこの行事で辛い思いをして来たと言う書き込みもたくさんあり、また逆に、反対の声も見られ、中止に関しては今現在の時点では賛否両論の様です。
ただ、これだけ問題になって来ているには日本ならではのお国柄的背景が大きいと言えるのかも知れません。両親との死別は別とし、離婚率は増加の一途をたどっているのは日本もカナダも変わりません。しかし、日本では何故か離婚した際には母親が子供を引き取るケースがほとんどで母子家庭が圧倒的で、また、離婚になった場合、その時点から父親と一切会わずに過ごす事も多い様なのです。カナダでは、親権を巡っては裁判になるケースも少なくない程ですし、大体の場合、何らかのルールを決めて両方の親が子供の面倒をみる事が多いでしょう。ここから、片親世帯の形式の違いが出て来るのでしょうか。
健人が子供の頃、「ハッピーバースデーやハッピーニューイヤーの時のハッピーはおめでとう、って言うのにどうしてハッピーマザース(ファザーズ)デーの時は、『母(父)の日おめでとう』じゃないの?」と聞かれ、「だって、母の日や父の日はいつもの感謝の気持ちをありがとう、って言う言葉で伝えたいからだよ」と言いましたが、確かに考えてみればハッピー〜と言う時は、ハッピーハロウィーンやハッピーイースターなど「楽しい時間を過ごしてね!」的に使われるなー、こちらでは母の日や父の日はそれに近いのかなー、カナダでは感謝を伝えるって言うよりもっと気軽な感じなのかなー、と思った事がありました。
確かに、私はカナダに来て「母の日」「父の日」の考え方が変わった気もします。日本にいた間は、「母の日」には、自分の生みの母に、「父の日」には自分の実父のみに感謝の気持ちを伝えていました。しかし、カナダでは「母(父)の日」にはおばあさん(おじいさん)やおばさん(おじさん)、また友人や見知らぬ人であろうと(お店などで)、母(父)親である人に気軽に“Happy Mother’s(Father’s) Day!!”と声をかける事がとても新鮮で、簡単だけど思いやりの気持ちが感じられてとても良いなー、と想う様になったのです。楽しい時間を過ごす…と言うか、これは「労(ねぎら)いの言葉をかける」感じに受け止められたのです。
自分の父母はもちろんですが、世の中に人がいる限り、そこには父なる人、母なる人がいる訳ですし、その人達に声をかける気軽な気持ち…みたいな。気軽だから、子供を持たない人が卑下する事などないし、子供が居ない人だって親はいる訳ですし、自分の親以外の人にだって“Happy Father’s(Mother’s) Day!”と言っても差し支えない訳ですから。
ナーサリーにももちろんお父さん、お母さんのいない子供だって居ますが、その場合はおじいちゃんやおばあちゃんにカードを渡したりする様にしています。日本では、母の日・父の日には日頃言えない感謝の気持ちを「お父さん(お母さん)、いつもありがとう」と、自分の両親にのみ伝えようとするから、親の居ない子供の家庭の子供が辛い思いをする…と言う考えになってしまうのかも知れません。 私としては周りにいるいろんな存在の人を思いやったり、気軽に労いの言葉をかけ合える様になればステキだな、と単純に思うのです。
池端友佳理ー 京都出身。大阪の大学看護科を経て同大学病院の産婦人科で看護師として経験後、1990年に渡加。伴侶は日系カナダ人三世。一人息子(大学生)の母。1993年に自宅で池端ナーサリー託児所を開設。1999年日系文化会館内に池端ナーサリースクールを設立。園長を勤める傍ら、カナダ唯一の産後乳房マッサージ師として活躍中。