特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第14回
昨日盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol2。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。TORJAでは久慈氏が体験したこと、復興に向けての取り組みなどを寄稿してもらった。
「お花見を自粛しないでください」というお願いを、岩手の有志蔵元3蔵でYoutubeでお願いしてから、各方面から「そのとおり」「応援した」という励ましと、賛同のメッセージがどんどん寄せられてきて、テレビなどでも紹介され、コメンテーターや司会者が「そのとおり」と言ってくれていた中、頑張れ、応援している、という鳴り止まない電話の中に、1本の意外な電話がありました。
それは、「こんな時期にお酒を飲んでいるなんて、気がくるっているのではないか」という電話でした。ほとんどが、賛成、賛同の電話でしたので、この電話には驚きました。
確かに、私たちは、お花見をしてください、その時にぜひ東北のお酒を飲んでください、そして東北の食材を使ったおつまみを食べてください、とお願いをしてきました。
しかし、私たちは「酔っぱらって、へべれけになってください」とお願いしているわけではなく、「通常の、日常の生活に何も支障のない方は戻ってください」というお願いをしたつもりでしたが、伝わらなかった方もいたのです。
私たちは、家業の「日本酒」を通したお願いしかできなかったので、結果、お酒を飲んでください、となったのですが、これがもしも私が農家なら、「東北の米を食べてください。おにぎりにして食べてください」ともお願いできたのでしょう。
しかし、私たちは、100年以上続く、日本の伝統産業である「日本酒」の蔵元であり、その立場で「お願い」をさせていただいたのです。ただ、酔っぱらうために飲んでください、とお願いしたわけではなかったのですが、その辺が十分に伝わらなかったことは、大いに反省をしました。
その後は、「酔っぱらうだけに飲むのではなく、伝統産業を復興させるために東北の日本酒をお願いします」とやわらかくお話をするようにしました。
その後は、こういったお電話はいただきませんでしたが、これだけ大きな社会現象を巻き起こした「お花見を自粛しないでください」というお願いは、その後、さらに大きな流れとなり、東京にある東北のアンテナショップでは日本酒やお菓子、物産品が売り切れ、スーパーやコンビニでも大手の東北のお酒を中心に、購入していただく方が圧倒的に増え、飲食店などでは「東北のお酒を飲んで、復興を」というキャンペーンがどんどん始まり、東北のお酒を中心とした、農産品、物産品を買うことで応援する「復興応援消費」が日本全国に広まっていきました。
お花見だけではなく、花火大会やお祭りを早々に中止を決めていた全国の自治体なども見直しをはじめ、再開を決めたところが多数出てきて、自粛ではなく、普通の生活をすることで、東北の応援をしていただきました。
今までの日本の災害の中で、災害後に被災地の物産品を購入して応援するということはあまりなかったので、この「復興応援消費」はまさに東日本大震災から現れた、新しい時代の復興支援の1つとなり、定着しました。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
本文:南部美人 五代目蔵元
東京農業大学客員教授
久慈 浩介