特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第15回
本文:南部美人 五代目蔵元
東京農業大学客員教授
久慈 浩介
Youtubeでの「お花見を自粛しないでください」というお願いから数日経過したある日、岩手県出身のシンガーソングライター松本哲也さんが、津波で被災した沿岸部の復興が復興していくために「復興食堂」を立ち上げるという話が来ました。私もぜひ沿岸部の復興を蔵元としてお手伝いするためには、なんでもしよう、と決めておりましたので、すぐに協力参加する意向を伝えました。
今までの日常の平穏な暮らしの中に居れば、気心の知れた仲間と居酒屋や喫茶店などで、様々語り合ったりする時間が当たり前にあったのですが、今回の東日本大震災で、その「当たり前」の時間が全く無くなってしまいました。沿岸部の生き残ったみなさんは、被災を逃れた親戚や知人の家に持つものも持たない身一つで非難したり、公民館や学校の体育館の避難所暮らしをすることになりました。私もここでも書いた通り、東日本大震災発災直後は新幹線に閉じ込められ、救出されてすぐに福島市の避難所に行きましたので、そこでの生活の苦しさを良く知っています。
そんな平穏な暮らしの中の当たり前の日常、様々な想いを語ったり、泣いたり、笑ったり、感情を表に出して語り合う集いの場所をつくることは出来ないか、と松本哲也さんたちは考え、ささやかなみんなのふれあいの場所として復興食堂を立ち上げました。
この復興食堂には、岩手県内の様々な方々が協力をしてくれました。被災地の沿岸部では、食べるものも食べる場所もまだまだ足りていないときに、全国から炊き出しの支援が来ており、その中の一環として復興食堂も毎週末沿岸部に出向き、おいしい日常の料理の炊き出しを中心に、様々な今までの日常を味わってもらう計画で進めました。
プレオープンは震災から約2か月後のゴールデンウィークでした。大船渡の海の見渡せる高台に建つお寺の境内と敷地内を使って行われました。
東京からの炊き出しの協力をしてくれたイタリアンレストランの協力のもと、地元大船渡のイタリアンレストランが出店し、キッチンカーで被災地に駆けつけてくれたラーメン屋さんもアツアツのラーメンを出してくれました。それ以外にも、松本哲也さんはシンガーソングライターですので、松本さんのライブや、同じく岩手出身の落語家の独演会、そして盛岡から協力してくれた美容師の皆さんによるカットや、整体師の皆さんによるマッサージ、そして子ども達のために駄菓子屋の開催など、盛りだくさんの内容でした。
もちろん復興食堂では、お酒も出す、という方向で決まっており、その部分は私の方で任されておりましたが、私には一抹の不安がありました。それは、震災から二か月たっていない沿岸部で、はたしてお酒を飲む状態にあるのかどうか、お酒を持って行って喜ばれるのかどうか、行ってみるまでは不安ばかりで、これほどお酒を出すことに不安を覚えたことは震災前から考えても一度もありませんでした。いよいよ復興食堂がオープンしました。さて、お酒は今沿岸部で必要とされているのでしょうか・・・
オンタリオ取扱い代理店: Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人 http://www.nanbubijin.co.jp