特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第16回
複興食堂が震災後の2011年5月にオープンして、私もお酒を持っていく事になりました。まだまだお酒は必要ないのではないか、飲む環境ではないのではないか、と不安いっぱいで、復興食堂の初日を迎えました。
キッチンカーでは料理が進み、駄菓子屋では品ぞろえを整え、境内の中には食事を受け取るブースや、ジュースやお茶などの飲み物を飲むブース、そして私のお酒、サッポロビールさんのビールなどのアルコールのブースが設置されました。
お寺の境内でお酒を飲むというのは、今考えれば何とも背徳感のある行為だと感じますが、あの時は、お寺は被災者の心のよりどころであり、集会の場所でもありましたので、飲食は違和感がありませんでした。
お酒は果たして、必要とされるのか・・・
大きな不安を抱きながら、復興食堂が午前10時にオープンしました。庭には多くの被災して避難している方々が集まり、復興食堂のオープンを心待ちにしています。さらに、庭には支援物資として全国から送ってもらった衣服や靴がたくさん並び、まさに青空フリーマーケットのような状態で、無料で好きなデザイン、好きなサイズをもらっていけるようになっています。すでに手には気に入ったサイズの衣服や靴を持った方が多くいらっしゃいました。
オープンしたら続々と境内に人が入ってきます。アツアツのラーメンや洋食をブースからもらって食べる方々、駄菓子屋で楽しそうに遊んでいる子ども達、大いににぎわいました。
しかし、私たちのビール、お酒のブースには人が来ません・・・
「やっぱりお酒はまだ早かったのか」そう思って下を向いていると、あるおじいさんが来て「お酒は何円ですか?」と聞いてきました。私は驚いて、「復興食堂は全て無料ですよ。料理も駄菓子もお酒も全部無料です」と答えると、おじいさんは「お酒は有料だと思っていて、ブースに来るのをためらっていた」と言ってくれました。
なるほど、ビールやお酒は無料のイメージがとても少なく、炊き出しで食事はいただくことはあっても、お酒をいただくことは無かったので、お祭りのようにお金がかかると思っていた方がたくさんいることがわかりました。
至急、私たちのブースには「無料」の看板を掲げ、ただし、酔っぱらって酔いつぶれてしまうとだめなので、事前に決めていた「一人3杯まで」の張り紙もしたところ、あっという間にお客さんがたくさんやってきました。
冷たいビールを飲んで、「久しぶりだ」「やっぱりおいしい」と言われる方々、私の日本酒を飲んで「刺身が食べたい」「お燗は体が温まる」など喜びの声をたくさんいただきました。
お酒は、間違いなく必要とされていました。来てくれる方々は漁業関係の方々が多く、震災前はとてもお酒が好きで飲んでいた方がほとんどで、避難所では禁酒ですから、ずっと我慢していたそうです。「必要とされた」これが心から嬉しく思いました。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
東京農業大学客員教授
久慈 浩介