特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第21回
昨年盛大なにぎわいをみせた日本酒フェスティバル、Kampai Toronto vol2。
このイベントに参加した岩手県、南部美人の蔵は3.11東日本大震災で被災した蔵のひとつだ。南部美人の5代目である久慈氏は震災直後から日本酒を通じて地域復興に様々な取り組みを行ってきた。今回は震災から3年が経ったお気持ちを聞かせてもらった。
3年が過ぎて・・・
いつもコラムを読んでいただきありがとうございます。東日本大震災の被災地東北、岩手県の「南部美人」の五代目蔵元の久慈浩介です。
2014年3月11日で東日本大震災から3年が経過します。岩手県では行方不明者はまだ1000名を超えており、家族を亡くした方々、行方不明者を探す方々をはじめ、震災から時間の止まっている人が大勢います。しかし、震災から早く立ち直ろうと、頑張っている人も大勢いることも確かです。そんな私たちが、東日本大震災から3年経過して、今、一番感じていることは、「震災を忘れられてしまうこと」です。
記憶にも新しいと思いますが、ソチオリンピックフィギュア男子個人で宮城県仙台市出身の羽生選手が日本フィギュア界初の金メダルを取りました。この明るいニュースは日本中を元気にさせてくれました。その羽生選手が「被災地のためになりたかった」とコメントしてくれたことは、私たち東北の人間にとって、大きな励みとなりました。
私たちの願いは、東日本大震災を過去のものとせず、「忘れないでいてほしい」なのです。少しでも覚えていてくれたら、みんなが頑張れるのです。今日、明日に結果の出ない復興という長い道のりを、一生かけて歩んでいく東北人のことを忘れないでください。それだけが今の私の願いでもあります。
東北の未来のために、東北の未来を背負う子供たちのために、どうか忘れないでください。
今回は福島第一原発の事故で、東日本大震災の中で、最も大きな被害を受けたであろう福島県となります。福島県は、東北でも有数の酒どころで、特に内陸部の会津若松の近辺に多く酒蔵があります。逆に太平洋側の沿岸部には酒蔵が少ないのですが、今回の震災で、福島第一原発の爆発と津波の被害で、沿岸部の蔵は大きな被害を受けました。
その中でも、私の大学時代の同級生で、浪江町の海の目の前に酒蔵があり、日本で一番海に近い蔵、としても知られていた「磐木壽」の鈴木酒造さんは、甚大なる被害を受けました。地震で古い蔵が倒壊し、目の前の海が悪魔のように変わり津波で全てが流されてしまい、さらに福島第一原発の爆発により、浪江町全体が帰宅することすら出来ない地域になってしまいました。
これほどの被害を受けて、私は震災当時、同級生の鈴木大介君は助かっていないと思っていました。実際に電話もつながりませんし、安否の確認も一切取れませんでした。悲しくて、悲しくて、本当に毎日大介の無事を祈っていました。それほど彼の蔵は海の目の前で、すぐそばに原発があることを私は知っていたからです。
震災から数日が経過して、携帯電話が少しずつ繋がりはじめたのですが、大介には全く繋がりません。ほぼあきらめていた時に、同じく東京農大の同級生で、山形県で「雅山流」というお酒を醸している蔵元の新藤君から私に電話が入りました。
「大介、生きているぞ!!」
私は耳を疑いました。なんで山形の新藤がそんなことを知っているんだ???答えはすぐにわかりました。新藤が大介とその家族を山形に呼び寄せたのです。たまたま震災後、大介を心配して電話したら、避難していた大介に繋がって、それで行き場のない大介を呼び寄せたのです。新藤はすべて自費でホテルの部屋をいち早く確保し、大介の祖母が心臓疾患があるので、病院も手配し、すべてを一人でやりぬいたのです。
何もできなかった私は本当に情けなくて、自分に腹が立ちましたが、しかし、大介が無事だっただけで、本当にありがたい気持ちでいっぱいになりました。
しかも、奇跡的に、大介とその家族は誰一人津波や原発の爆発の犠牲になることなく、従業員も含めて全員無事だったのです。こんな奇跡があるのでしょうか。聞いてみたら、たまたま3月11日は酒造りを全て終えて、松尾大社に感謝の祈りをささげる「造り留」という神事をしており、家族も、従業員も全員安全な場所にいたそうで、建物の崩壊にも巻き込まれずに、早急に非難することができて、津波にも巻き込まれなかったそうです。
神様はいるんだ、と本当に思った瞬間でした。しかし、浪江町は帰宅困難地域です。その中で、酒造りをどのように復興させていったか、次回詳しく書きたいと思います。
オンタリオ取扱い代理店:
Ozawa Canada Inc
現在トロントで楽しめる南部美人のお酒は、「南部美人純米吟醸」とJALのファーストクラスで機内酒としても採用されている、「南部美人純米大吟醸」の二種。数多くの日本食レストランで賞味することが可能。
南部美人
http://www.nanbubijin.co.jp
東京農業大学客員教授
久慈 浩介