特別寄稿 東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い 第19回
今回の東日本大震災では、私たちの同業者である酒蔵も大変大きな被害を受けました。今回からは、東北の被害を受けた酒蔵の震災当時の状況と、今現在どのような復興を遂げているかのお話を何回かに分けてお話していきます。
まずは、岩手県の被災した酒蔵の状況です。岩手県には震災当時、23の酒蔵があり、沿岸部には5つの酒蔵がありました。北から久慈市の「福来」、宮古市の「千両男山」、大槌町の「浜娘」、釜石市の「浜千鳥」、陸前高田市の「酔仙」です。
この中で、幸いにも「津波」の被害を受けなかったのは「福来」さんと「浜千鳥」さんでしたが、浜千鳥さんは、蔵は高台にあったので何とか大丈夫でしたが、社長の自宅は流されてしまったとのことでした。
そのほかの「千両男山」「浜娘」「酔仙」の3蔵は、津波の被害でほぼ全てが流されてしまい、合計で8名の死者を出してしまいました。
酒蔵は古くからある伝統的な建物も多く、その蔵の中に、その蔵の味を決める微生物の酵母が長年宿っており、その酵母まですべて流されてしまいました。
この3蔵の中でもとりわけ大きな被害だったのが、陸前高田市の「酔仙」です。会社は全て津波に流され、大きなタンクがゴロゴロとがれきの中に入っている光景は忘れられません。さらに、テレビでは「酔仙」の樽ががれきにかかっている映像が繰り返し流され、まさに酒蔵としては壊滅的な状況になりました。
これらの3蔵は、震災直後は酒蔵の営業再開はあきらめていたそうですが、たくさんの愛飲家の皆さんの応援と、地域の声にこたえて、千両男山さんは宮古市の被災した蔵の近くに新蔵を建設して復活しました。
浜娘さんは、大槌での復興が難しく、盛岡市に移転して、盛岡市でリキュールの蔵を最初に復活させ、その後、日本酒の蔵も盛岡で復活しました。
酔仙人さんは、陸前高田での復興が同じく土地の関係で難しく、お隣の大船渡市の高台に蔵を建設して復活しました。
それぞれ3蔵は、被災した次の年には新酒を仕込み、発売までこぎつけるなど、岩手県の復興のシンボルとなりました。
国の補助金やファンドの利用など、全面的な官民のバックアップもあり、今に至っています。しかし、ここまで来るには大変な道のりだったことは私たち同業者は良く知っています。だからこそ、被災した3蔵は同業者でライバルですが、それ以上に応援したい気持ちもたくさん持っています。
震災を乗り越えた岩手の3蔵。ぜひその味わいをカナダでも味わってもらいたいものです。
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南部美人
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東京農業大学客員教授
久慈 浩介