なぜ牛丼屋はラーメン屋を目指すのか?|カナダのしがないラーメン屋のアタマの中 第88回
この夏、牛丼チェーンの松屋が新業態のラーメン屋「松太郎」を都内にオープンしました。牛丼御三家のすき家は海外の一部店舗でラーメンを提供しており、吉野家は「せたが屋」「ひるがお」といった有名ラーメンブランドを傘下に収め、さらにラーメン開業支援や食材卸を手がける宝産業を買収するなど、ラーメン事業に本腰を入れていく考えです。吉野家HDにいたっては、ラーメン提供杯数で世界一になるとの目標を掲げています。
なぜ今、牛丼屋がラーメンを志向するのか?!
日本の外食産業は人口減少で市場が縮小し、牛肉やコメの価格高騰も重なって牛丼チェーンにとっては逆風が続いています。だから海外を目指す、というのはごく自然な流れと言えます。
実際、海外展開では吉野家がトップを走ります。国内約1200店舗に対して海外は約1000店舗と、数の上ではほぼ拮抗しています。ところが売上を見ると、国内が年間1300〜1400億円に対し、海外は300億円弱にとどまっています。つまり、店舗数はあっても稼げていないのです。すき家は海外650店前後、松屋は20数店と規模はさらに小さく、結局のところ「海外進出=成功」とは言いがたいのが現状です。
日本で牛丼は、安価で多くの人たちのお腹を満たす食のインフラのような存在です。その強みは吉野家の掲げる「うまい、やすい、はやい」というキャッチフレーズに端的に表されています。
「安さ」を担保しているのは、高度に発達したサプライチェーンとセントラルキッチン化、そして全国に張り巡らされた店舗網、つまりはスケールメリットです。
直近、サイゼリヤが値上げを避けて客数増で増収増益を果たしたのは、まさにスケールメリットのたまものですが、マクドナルドや吉野家も同様、限界コストがほぼ食材費だけだからこそ「安い」を実現できると言えます。しかし、広大な海外に点在する形で出店しても、物流や調達コストがかさみ、結果として「安い」を打ち出せないのです。
さらに海外では、多様な嗜好に応えるためにメニューを増やさざるを得ず、オペレーションが複雑化して「はやい」が失われます。現地の舌に合わせてローカライズすれば、「うまい」もブレてしまう。海外で日本食を食べてがっかりしてしまうのは、だいたいがこのパターンでしょう。
つまり日本で、「うまい、やすい、はやい」を実現できたからと言って、それがそのまま海外で通用するかと言うと、そう単純な話でもないのです。
では、なぜラーメンなのか?!
ラーメンは基本的に海外でローカライズを必要としません。麺料理は世界中に存在し、ラーメンを食べたいというときは「日本で食べるラーメン」が求められます。ローカライズの難しさは正解が見えないところにありますが、日本の味を再現出来れば「うまい」は成立します。
「はやい」に関しても、牛丼のように30秒で出すことはできませんが、細麺なら1分程度、工夫すれば全ての商品を5〜10分で提供可能です。しかも麺・スープ・タレを組み合わせれば簡単にメニューの多様化が実現でき、スピードを損なわずに多様な需要に応えられます。
「やすい」についても、5店舗ほどの規模からセントラルキッチンは機能するし、50店舗程度になれば効率性は大幅に向上します。しかも海外では、日本の倍の値段でも、日本で食べるラーメンと同じものが食べられるなら安い、という感覚が強いように感じます。価格競争を仕掛けなくても十分戦えるのです。
国内市場の縮小と、牛丼チェーンの強みである「うまい、やすい、はやい」を発揮できない海外での事情。しかしラーメンならその強みを実現できる。しかも世界的なラーメンブームも追い風になっている。牛丼チェーンがラーメン屋を目指す、これは単なる冒険ではなく、勝機を狙った必然の動きと言えるかもしれません。






