能登半島沖地震「復興と酒蔵」|東北の小さな酒蔵の復興にかける熱い想い【第141回】
能登半島沖地震では私の仲間でもある酒蔵がたくさん被災しました。その中でも能登にある酒蔵は11あるのですが、そのほとんどが「全壊」という判定を受けるほどの被害でした。タンクや酒米のあった酒蔵は崩れ落ち、見る影もないほどの悲惨さです。
東日本大震災の時に、岩手県の沿岸部の陸前高田市にあった酔仙酒造さんが被災し、酒蔵が全て津波に流され、その蔵の跡地から離れた場所で、酒蔵のタンクがゴロゴロと横たわって泥にまみれて放置されている映像を見たときに、なんと悲惨で悲しいのか、と同業者だからこそわかる悲しみ、苦しみを感じました。
それと同じ悲しみと苦しみを、今回の能登半島沖地震での能登の蔵の全壊した酒蔵の映像を見るたびに、東日本大震災の映像が蘇ってきました。このようなフラッシュバックの状況は私だけではなく、東日本大震災を経験した東北の人ならば多かれ少なかれあったかと思います。
しかし、そんな私たちは復興して今を生きています。
今、心配しなければいけないのは、フラッシュバックで辛い私たちの事ではなく、もっと過酷な避難生活と見えない未来に絶望している能登の酒蔵をはじめとする皆さんです。まず酒蔵を助けるには何をしなければいけないのか。東北の蔵元を中心に、能登の全壊した酒蔵の中にある「もろみ」と言われる発酵中のものを救い出す作戦を考えました。全ては無理でも、軽い被害のところからはもろみをバケツでもなんでも汲みだし、別の容器に詰めて被害の軽い蔵、もしくは北陸では無い蔵に運んでお酒としてしぼる作戦が動き出しました。
ここで、最初に行動したのは、宮城県の「伯楽星」を醸す新澤醸造の新澤社長でした。彼は東日本大震災で津波は来ませんでしたが、その大きな揺れで蔵が全壊しました。まさに今の能登と同じ状況を味わっている人でした。東日本大震災の時に、新澤社長の蔵には全国から多くの蔵元同志が集まり、もろみを救い出し、倒れた瓶やタンクをなおし、復興を支えてくれました。
そのことに大変大きな感謝をしている新澤社長は、即座に動き、自ら能登に入り、仲間の酒蔵のもろみを救い出し、宮城まで運んでしぼってお酒にしました。もろみはそのままにしておくと発酵が進んでいき(生きているので)、ある時期を過ぎると劣化していきます。そうならないために「しぼる」という作業をしなければいけません。
しかし能登被災地は電気も無ければ、しぼる機械も被災して動かせません。よって、もろみを移動してどこかでしぼらなければ、全てもろみは腐ってしまうのです。そうなると蔵とすれば高い米代を先払いして、お酒に出来ない事で大損害になります。それを新澤社長が救い、これをスタートに石川県内の被害の軽い蔵が動き、能登のもろみを出来るだけ救い出したのです。
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