ストレッチをしたりセルフケアのクオリティを 高めるためのアイデア|オリンピック選手もサポートするカナダ公認マッサージ・セラピストが教える身体と健康【第93回】
むやみにコンディショニングをするのでなく体の構造のイメージ作りをしてからアプローチする目的や場所を理解してから始めることが大切です。体の構造を理解すれば、体の中が見えてくるのでコンディショニングをする意味が理解できます。
ボディーイメージ作りの方法
まずは、アプローチする体のポイントを次の様なステップで触ってイメージを作っていきましょう。
❶ 目的の骨や筋肉の場所をイラスト等で確認しながら触ってみましょう。
❷ 骨や筋肉の大きさは?位置は?形は?などを意識しながら、色々な角度から触ってみましょう。日々のコンディションの変化を感じるようになります。
❸ 骨や筋肉を上手く触れるようになると、体のケアや体の状態を把握するのが上手くなります。
■体の構造について
– 筋肉の働きとは?
筋肉の働きはとてもシンプルで、縮んだり緩んだりして、その両端が骨にくっついて骨格を引っ張ることで私達の体を動かします。体の部位によって色々な形があります。私たちが自由自在に動けるのも、いくつもの筋肉がその時の動きに合わせて上手く協調しながら伸び縮みしているからです。
– 骨の働きとは?
人間の体の動きの土台となる。5種類の違った形をしている。
– 関節とは?
① 関節を構成する骨の形と動きを制限する靭帯によって、動きの方向や範囲が決まり、形もそれぞれ違います。
② 骨と骨の繋ぎ目。
③ 体を曲げたり伸ばしたりする。
ボディーイメージしながら腰のセルフケアをしてみましょう。
腰や背中が楽になる脊柱起立筋の超簡単セルフケアのやり方
■脊柱起立筋とは?
頭と背中、骨盤をつないでいる長くてたくさんの筋肉の集まりです。背中や腰の背骨の際あたりに手を当ててみると触ることが出来ます(水泳選手の背中などで背骨の両側に腰から首まで発達した脊柱起立筋を見ることができます)。
首や背中、腰を伸ばす作用があります。この筋肉が凝ると背中がそらない、腰や背中が痛いなどの症状が出ます。体を前に傾けると脊柱起立筋は体が前に倒れないように頑張って働きます。このような姿勢が長時間続くと脊柱起立筋の疲労が蓄積して腰痛などを引き起こしやすくなります。
■脊柱起立筋チェックのポイント
体をそらした時に次の動作を確認します。
❷ 腰や背中の痛みの有無
❸ 腰をスムーズに回す事ができるか?
❹ 動きの左右差の有無
脊柱起立筋にトラブルがあると腰や背中の動きが硬くなったり、腰周辺に不快な症状が出やすくなり腰や背中が丸まった姿勢の悪い人は要注意です。
■脊柱起立筋のケア
脊柱起立筋を手で挟むように押さえて、ゆっくり体を10回左右に曲げる。
■脊柱起立筋の触り方
肋骨と腰骨の間のスペースを横から親指を当てて腰から背中の筋肉を背骨に集めるように触ります。脊柱起立筋は大きな筋肉なので、指の位置を少しずつずらしながら何カ所かに分けてコンディショニングしましょう。
■緩むのを味わう
- 筋肉がリラックスする感覚。
- ポカポカする心地良さ。
■効果のチェック
- 体のそらしやすさが改善されているか?
- 腰や背中の痛みが軽減されているか?
コンディショニングでこのような不快感が軽くなっているなら脊柱起立筋が凝っていた可能性が高い。立ち姿勢や座り姿勢が多い人はこの筋肉が凝りやすいです。
腰が楽になる腰方形筋の超簡単セルフケアのやり方
■腰方形筋とは?
腰方形筋は腰を横に曲げる筋肉。骨盤の上から肋骨の一番下と椎骨の側面の腰についている筋肉。
① 片側だけ働くと骨盤を頭側に引き上げます。
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② 反対に骨盤側が固定されていれば、体を横に傾けます(上半身を伸ばしたまま体を横に倒すような動きの時に使います)。
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③ 両側の用方形筋が働くと腰がまっすぐに伸びます。
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④ 背骨を両サイドから支えて腰を安定させています。
■腰方形筋のコンディションをチェックするポイント
- 腰を動かした時の腰の痛みがあるか?
- 腰の動かしやすさ?
■腰方形筋のケア
腰方形筋を親指で押さえてゆっくり体を10回左右に曲げる。
■腰方形筋の触り方
肋骨と骨盤の間にある筋肉。一番下の肋骨辺りから下方向に親指で深く探ります。
■緩むのを味わう
- 筋肉が緩む感覚。
- ぽかぽかする心地良さ。
■効果のチェック
- 腰の痛みが軽減されているか?
- 腰の動かしやすさ?
セルフケアで腰痛がなかなか改善できない理由を考えてみよう
腰痛が長い間改善できないと、「もしかして、重症?」「もう治らないかも?」と不安になります。こんな時、諦める前に確かめるポイントがあります。
■腰を触らないで腰痛を改善する方法
① 腰痛が改善しにくい時は腰だけでなく腰の動きに関連する他の部分に範囲を広げてアプローチしてみましょう。
[ 腰を触らずに腰痛を改善する理由 ]
腰の動きは前後左右に曲げる+左右に捻るという基本動作があるので、少なくともこの6方向に引っ張る筋肉があるのですが、腰が痛い時に体の前面の調整が見逃されるケースが多いので頑固な腰痛と思っていたのが、実は腰とは一見関係無い部分が原因である可能性が高い。
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② 腰、膝、足首をセットでアプローチする。
腰、膝、足首を動かす筋肉は関連しています。足首を調整して腰痛が改善される様な不思議な事が起こったりします。問題の原因に辿り着かずに腰痛を長引かせてしまうリスクもあります。
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関節周りの緊張を丁寧に緩めるのが基本的アプローチです。関節周りの緊張が取りにくい理由は、そのエリアの緊張は筋肉でなく腱や靭帯なのでストレッチ等では緩めにくいからです。ポイントを正確に見極めたり、腱や靭帯が緩む刺激方法を理解する事が大切です。この見極めは、専門家に相談する事をお勧めします。理屈がわかれば、セルフケアも可能です。
SNS上などでセルフケアの情報が溢れている今日、皆さんに気をつけてもらいたいアドバイスのまとめ
情報の良し悪しは色々な判断基準があるので一概に言えませんが、一般的に3~4週間真面目に試して変化しない場合は、ポイントがズレている可能性があります。違ったアプローチが必要かも知れません。一生懸命やっているから結果が出るはずと、長い時間が経過してしまうと状態を悪化させてしまう可能性があります。
自分の体に必要な情報が、初心者クラスなのか?中級なのか?上級なのか?理解したうえで情報収集すると効果が出やすいです。
厄介なケースとして、バレエダンサーに代表される体が柔らかい人のコンディショニングは難しいケースが多いです。例えば、関節の動きが一般の人よりも大きいので美しい大きな動きができる反面、一般の人が疲れない部分が疲れてしまう厄介なケースが多く見られます。大きな動きをしなければ本人の自覚も無いし、バレエダンサーのサポート経験豊富なセラピストでないと疲れを見逃される可能性が高いのです。
今回ご紹介した様なアイデアを元に、目的を明確にしてセルフケアするのが良い結果を出すコツです。
北京オリンピックで大きな注目を集めているフィギュアスケートの木原・三浦ペア
木原・三浦ペアは1998年の長野オリンピックに出場したペア以来20年ぶりにサポートさせてもらったペアスケーターです。ここ数年の間に人気スポーツとなり、スケーターを取り巻く環境が大きく変化する中、シングルの選手に比べて人気が今一つであったこともあり昔のスケーターの雰囲気を醸し出す癒し系の微笑ましい2人です。ふたりは最近のスケーターに少ないスケートを楽しむ感覚を持っています。
「試合に行っても、取材陣は僕たちの前を素通りなんです」と笑顔で話すオリンピック出場3回目の木原選手は、過去8年間悩まされ、前回の平昌オリンピック期間中は危機的状況にあったという問題を解決して、「今回は観光気分なしに初めて勝負しに行ける」と意気込みを語ってくれました。
私がアスリートとして一番大切な要素と考える素直さを持ち合わせる木原・三浦選手。シングルとは違い自分一人では勝てないので相手を思いやることにも長けている2人からは、私の方があらためて色々な事を学ばされました。
すでに団体戦をメダルに導く大きな原動力となる活躍ぶりですが、TORJA3月号が発行される頃には、本命のペアの試合で嬉しい結果が出ていることを祈りつつ。